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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第二部「重巡航艦サフォーク05:孤独の戦闘指揮所(CIC)」

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第十八話

 宇宙暦(SE)四五一四年五月十五日 標準時間〇一二〇。


 ゾンファ軍八〇七偵察戦隊司令、フェイ・ツーロン大佐は旗艦ビアンの戦闘指揮所(CIC)でメインスクリーンを見つめている。


 アルビオン艦隊との相対距離は十光分を切っているが、映っている姿は十五分前の情報だ。十五分前でもゾンファ側の減速に気づいているはずだが、アルビオン艦隊に動きはない。


(やはり司令部が混乱しているのか。通信用電波も発信されていない。珍しく諜報部の工作が完璧だったということか。これなら、損害を受けることなく、全滅させられるぞ)


 そして、「よし、最後通牒を突きつけるぞ!」と言ってマイクを持ち、


「こちらはゾンファ共和国国民解放軍ハイフォン駐留艦隊、八〇七偵察戦隊のフェイ・ツーロン大佐である……今すぐ返信なくば、我が艦隊は実力を持って貴船団を排除する。繰り返す……」


 フェイ艦長は通信を終えると、艦内放送のマイクを握る。


「総員に告ぐ。我々の作戦は成功しつつある。敵は我が諜報部の工作により、通信機能を失っている。司令部の指示に従って敵を撃滅せよ。各員一層奮励努力せよ! 以上!」


 放送を終えると、戦闘指揮所内を見回し、敵との決戦に向け、隊形と進路の変更を命じた。


「隊形十三(シーサン)に変更。百秒後、ポイントAにて、左舷十度、上下角プラス五度に変針せよ」


 それだけ命じると、シートに深くもたれ掛かる。


(今回の勝利で准将に昇進できる。うまくいけば、本国に帰れる。そうなれば、家族とも一緒に……そのためにも、この作戦を成功させなければならない……)



 進路の変更を終え、敵との相対距離が七光分を切ったところで、通信兵曹が敵からの通信が入ったことを報告してきた。


「アルビオン軍からの通信です。約十分前に発信されたものです」


 兵曹はそう言うと、CICに音声を流し始めた。若い女性の声がCICに響いていく。


『ゾンファ共和国国民解放軍ハイフォン駐留艦隊、八〇七偵察戦隊のフェイ・ツーロン大佐に告ぐ。小官はアルビオン王国軍キャメロット防衛艦隊第五艦隊所属四等級艦サフォーク05の士官、グレタ・イングリス大尉である。貴官らの主張は先の停戦合意に反している。本星系ターマガント星系は我がアルビオン王国の支配星系である。直ちに本星系より退去せよ。本星系での戦闘行為は先の停戦協定を踏みにじるものである、両国の無用な摩擦を回避するため、貴官の賢明なる行動を望む。なお、旗艦の通信機能が故障しているため、本哨戒艦隊指揮官に代わり、小官が通信を代行しているものである。以上』


 フェイ大佐はやや不機嫌そうな顔になるが、すぐに情報士官に発信元を確認させる。


「敵の旗艦から通信電波は出ていなかったのではないか? 直ちに発信場所を特定しろ」


 それだけ言うと、苦虫を噛み潰したような顔になる。


(これで通信不能による開戦の口実が使えなくなった。あとは強襲するか、撤退するか……撤退すれば、軍事委員会、いや、諜報部から責任を転嫁される。通報艦はすぐにジャンプするだろうから、強襲して敵を殲滅できれば、証拠は残らない。但し、全滅させなければならん)


 そう考えている間に情報士官から報告が入る。


「発信箇所特定できました。敵重巡に追従している搭載艇と思われます」


「搭載艇だと……了解した。その搭載艇の位置も追尾(トレース)しておけ」


 想定していなかった事態に驚きを隠せなかった。


(搭載艇が何らかの理由で発進していたのか? それとも格納庫で通信が傍受でき、急いで発進したのかもしれんな。まあ、ありえない話ではないが……運が悪かったか、諜報部が見落としたのかは分からんが、いずれにしても、敵の士官が連絡してきたことが問題だ……)


 フェイがそんなことを考えていると、通信兵曹が軽巡航艦バイホの艦長、マオ・インチウ中佐から通信が入っていると報告してきた。


「フェイ艦長、今の通信はまずいですね。作戦は中止ですか?」


 マオ中佐は軽い口調でそう確認するが、モニターに映る顔は真剣そのものだった。

 フェイは悩んでいる自分を見透かされたようで、つい、作戦の強行を口にしてしまった。


「中止は……中止はせん。敵を殲滅する」


「しかし、開戦の理由がありません。一方的に停戦協定を破ることになります。ご再考を」


 マオ中佐の言葉にフェイは理由を説明していく。


「構わん。通信をしてきた士官は搭載艇から通信してきた。すなわち、敵の司令部からの通信ではないということだ。ならば、言い訳はできる。まあ、敵を殲滅すれば、言い訳の必要はないのだがな」


 自信有り気なフェイに対し、マオは危惧を抱き反論する。


「しかし、相手は旗艦所属の士官であることを明言した後、旗艦の通信設備が故障していると説明しています。これはあの士官が……」


 フェイはその言葉を遮り、「マオ中佐、君に意見を求めてはいない。命令に従うのだ」と通信を切った。


(マオの言うことは正しい。だが、このまま帰れば、私に未来はなくなるのだ。何としても、この作戦を成功させなければ……)


 フェイ大佐はこのまま何もせずに帰還することに危惧を抱いていた。この作戦を計画したのが諜報部であり、更に強い権限を持つ政治家、軍事委員会の委員が強く押したという事実がフェイの心に重く圧し掛かっていた。


 本作戦が失敗した場合、諜報部は工作の成功を訴え、軍事委員会は実行部隊の不手際という判断を下すだろうと考えた。

 特に搭載艇以外の通信が制限され、自分たちの戦隊を見ても何らリアクションを起こさなかったことから、この事実をもって工作が成功していると判断されると考えている。


(この状況は工作がほぼ成功していることを示している。そして、ジュンツェンから既に攻略部隊が発進しているはずだ。恐らく、攻略部隊はヤシマの手前に到着している。今更、失敗していたと言っても、諜報部も軍事委員会も納得しないだろう……そうなると、私だけではなく、この戦隊全体が処罰の対象となる。祖国に戻れないだけならいいが、無謀な作戦で使い潰されることも充分にあり得るのだ……)


 フェイはそこで表情を緩める。


(この状況なら敵の殲滅は難しくない。敵旗艦から通信がなかったことは、敵の通報艦が証明してくれる。それに先ほどの通信では、イングリス大尉が指揮官を代行していると言っていたが、それを証明するすべはない。これならいくらでも言い訳はできるはずだ……要は勝てばいいのだ)


 そして、彼は全艦に向けて、作戦の続行を命じた。


 この時、フェイ大佐はいつもの冷静さを失っていた。

 本来の彼の性格なら、このような無謀な作戦は諜報部や軍事委員会が何を言おうと実行しなかったはずだ。


 ジュンツェン星系に帰還し、上官であるフー・シャオガン上将に訴えれば、最悪の事態を防ぐことは難しくない。


 しかし、あまりに有利な状況が彼の冷静さを失わせた。


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