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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第八部「聖王旗に忠誠を」

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第三十六話

 宇宙暦(SE)四五二五年六月六日


 エルマー・マイヤーズ少将率いるアルビオン第一艦隊第一特務戦隊がキャメロット星系に戻ってきた。

 メディアはすぐにこの情報に気づき、統合作戦本部や艦隊総司令部に問い合わせる。


 いずれのスポークスマンも突発的な事態が発生したため帰還したことと、国王や首相らが無事であったことだけを発表し、詳細は後日会見を行うとだけ伝えた。

 そのため、メディアでは様々な憶測が流れる。


『国王陛下の身に危険が及んだ可能性が高いですね』


 壮年の軍事アナリストが訳知り顔で発言する。それにキャスターが台本通りに質問した。


『それはどういうことでしょうか?』


『ヤシマ航路では帝国ないしゾンファ共和国が通商破壊作戦を行っていたようですが、その通商破壊艦は未だに発見できておりません。それらの艦が襲撃を行ったか、襲撃直前まで迫った可能性があるということです』


 軍事アナリストが自信満々に話すと、再びキャスターが質問する。


『陛下の座乗されているアルビオン7が攻撃を受けたということでしょうか? 通商破壊艦の情報が入ったので、念のため引き返したということはありませんか?』


『もし情報が入っただけであれば、あれだけの数の護衛艦では対応できないほどの敵がいるということです。直属の護衛戦隊の他に独立戦隊として十七隻の護衛艦が第十一艦隊から派遣されております。もし、そのような情報が入ったのであれば、独立戦隊が先行して対処すればよいだけです。つまり、十七隻では対処できない数、具体的には三十隻近い数の通商破壊艦が待ち伏せているということを意味しますから、その可能性は非常に低いでしょう』


『なるほど』


『キャメロットに帰還したということは、シビル星系以降の航宙も危険である判断したということです。つまり、どこかで情報が漏れ、待ち伏せを受けたのではないかと思います。そうでなければ、損害を受けておりませんので、そのままアルビオン星系に向かえばよいだけですから』


 その報道にキャメロット市民が不安と不満を口にする。


『艦隊は何をやっているんだ! 陛下をお守りすることはもちろんだが、ゾンファや帝国の通商破壊艦にこんなところまで入り込まれたのは怠慢ではないか!』


『艦隊を派遣して航路の安全を確保しろ!』


 その市民の不満に野党民主党が乗る。

 若手の論客、シンシア・マクファーソン議員が声を上げた。


『政府及び軍は早急に情報を開示すべきです! 陛下の身に危険が及んだのであれば、原因の究明と共に、責任の所在を明らかにし、適正に処分すべきです!』


 この時、マクファーソンは党の軍事関係の顧問である元作戦部長ルシアンナ・ゴールドスミスから、統合作戦本部から情報が流出した可能性があることを示唆されていた。そのため、強気に出たのだ。


 ゴールドスミスはナタリー・ガスコイン少佐から相談を受けた後、独自に調査を行い、元総参謀長ウィルフレッド・フォークナー中将が反乱を誘発しようとしているのではないかと考えた。


(フォークナー中将も愚かなことを考えたものね。これを利用させてもらうわ。公表は七月くらいがいいわね……)


 ゴールドスミスは最も効果的なタイミング、八月の下院議員選挙の前、七月頃に公表し、選挙での勝利に繋げるつもりだった。


 その前に政府と軍の失態を印象付けるべく、情報漏洩の可能性についてマクファーソンに伝えていた。マクファーソンが疑惑として追及している中、自分が証拠を提示すれば、自身の能力の高さを世間に示せると考えたのだ。


 マクファーソンが政府と軍を糾弾しようとしていた頃、ゴールドスミスは自身が重大なミスを犯したことに気づいた。


(まさか国王陛下が戻って来られるとは思わなかったわ。恐らく攻撃を受けている。追加の護衛までいるのに何をやっているの!)


 ゴールドスミスはレイモンド・フレーザー少将の護衛戦隊だけでなく、クリフォードの第二特務戦隊が同行したことから、国王の身に危険が及ぶことはなく、計画通りにアルビオン星系に向かうと考えていた。そのため、艦隊の不甲斐なさに苛立っている。


 常識的に考えれば、重巡航艦二隻を含む十七隻の護衛戦隊が同行し、それらが先行して危険を排除すれば、十隻程度の通商破壊艦が待ち伏せていても、国王の座乗するアルビオン7に危険が及ぶことはあり得ない。


(このまま陛下がお戻りになれば、すぐに事実が公表されるし、大々的な調査も行われる。いいえ、既に調査は行われているはず……このタイミングで私がフォークナーやガスコインのことを暴露しても、なぜ知っていたのに黙っていたのかと、逆に糾弾されてしまうわ……)


 国王が戻ってきたタイミングで公表すれば、あまりにもタイミングが良すぎると疑われる。そして、その情報元について調べられればガスコインであることはすぐに判明するから、事前に情報を得ていたことを隠すことは難しい。


(失敗したわ。ガスコインから情報を得た時に動いておけば、陛下を守ったという功績を得ることができた。欲を出しすぎたわね。こうなったら具体的なことは何も知らなかったことにして、軍の失態を追及する方が傷を負わなくて済む……)


 ゴールドスミスはガスコインに口止めしようと連絡を取るが、既に彼女は軍警察(MP)に拘束されていた。


(もう動いていたなんて……参謀本部や作戦部から情報が入っていないのに……)


 国王の帰還とは関係なく、諜報部と軍警察は工作員マイク・シスレーが残した端末などを解析し、ガスコインとゴードン・モービー一等兵曹が関与していたことを突き止めていた。そして、キャメロット星系にいたガスコインを拘束し、取り調べが行われている。


 そして、このことは最高レベルの機密とされた。理由は統合作戦本部の次長であるフォークナーが関与している可能性が考慮されたからだ。


 統合作戦本部の作戦部や艦隊総司令部の参謀本部に情報が流れれば、彼の元部下たちが情報を流す恐れがあり、厳重な管理が行われていた。

 そのため、ゴールドスミスにも情報が入らなかった。


 彼女は焦りを隠しながら打開策を探っていたが、その間にマクファーソンが強い口調で軍を糾弾し始めた。


『軍から情報が漏洩し、国王陛下の安全を脅かしたのではないかという噂があります! 軍は直ちに情報を開示し、王室及び国民に対して謝罪を行うべきです!』


 その声に政府及び軍は特に対応することなかった。

 六月七日に国王護衛戦隊が第三惑星ランスロットの衛星軌道上にある要塞アロンダイトに入ると、統合作戦本部は公式に発表を行った。


『去る五月三十日、シビル星系において、アルビオン第一艦隊第一特務戦隊及びキャメロット第一艦隊第二特務戦隊、キャメロット第十一艦隊独立戦隊は六隻の改造商船による襲撃を受けた。第一特務戦隊の五等級艦バーミンガム391が至近弾により軽微な損傷を受けたものの、戦死者及び負傷者はなく、改造商船のすべてを無力化している。改造商船の所属はロンバルディア連合であるものの、詳細については現在調査中である』


 発表を行ったのはキャメロット星系におけるトップであるナイジェル・ダウランド統合作戦副本部長で、記者たちは彼の冷徹な雰囲気に飲まれつつも、質問を行った。


『バーミンガム391に至近弾があったということは陛下の座乗されているアルビオン7にも危機が迫っていたということでしょうか?』


『軍としては、陛下の安全が脅かされたという認識は持っておりません』


『しかし、バーミンガム391はアルビオン7の盾となるべき艦です。その盾に被害が出たということはアルビオン7にも危険が迫っていたということではないではありませんか?』


『戦隊の配置については機密事項であり回答できませんが、アルビオン7が対宙レーザーを全く使っていないことは明言しておきます』


 対宙レーザーを使わなかったということは、ミサイルの脅威がなかったということと同義だ。実際、アルビオン7は二隻の軽巡航艦を抜けてきたミサイルを迎撃する予定であったが、一基も抜けてこなかったため、迎撃は行っていない。


 その説明に記者は納得し着席する。

 別の記者が質問した。


『第二特務戦隊の一部がおりませんが、戦闘で損傷を受けたのではありませんか?』


『第二特務戦隊の駆逐艦二隻とスループ艦二隻は改造商船の調査を行うため、当該星系に残留しています。その指揮はクリフォード・コリングウッド准将が執り、五月三十一日時点で、コリングウッド准将麾下の艦が損傷を受けたという事実はありません』


 クリフォードが調査の指揮を執っていることに記者たちからざわめきが起きる。


『コリングウッド准将が調査の指揮を執っておられるのですか? その理由は何なのでしょうか?』


『第一特務戦隊のエルマー・マイヤーズ少将はコリングウッド准将が適任であると判断し、調査の指揮を命じました。なお、この決定については統合作戦本部も全面的に支持しています』


『マイヤーズ少将がフレーザー少将ではなくコリングウッド准将を適任とした理由は何でしょうか?』


『当該星系には三人の将官がいましたが、レイモンド・フレーザー少将は最大の戦力を率いていました。また、第二特務戦隊の次席指揮官サミュエル・ラングフォード中佐の指揮能力に不安がなかったことも理由です』


 その説明で記者は納得したが、専門家の中には疑問視する声もあった。


『フレーザー少将の独立戦隊から重巡航艦と十隻程度引き抜けば、その後の対応も楽だったはずだ。しかし、それをしなかったということはフレーザー戦隊に任せられない理由があったのではないか?』


 その後、国王護衛戦隊と入れ替わるように第六艦隊から五百隻という数の分艦隊が派遣されたことで、単なる待ち伏せではなかったという憶測が流れた。


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マスゴミがうぜー! 何でも公表したら良いんと違うんじゃ!
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