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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第八部「聖王旗に忠誠を」

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第二十七話

 宇宙暦(SE)四五二五年五月三十日、標準時間一四〇〇。


 国王エドワード八世の護衛戦隊はキャメロット星系に向かうジャンプポイントに向かっていた。


 スヴァローグ帝国の通商破壊戦隊、通称タランタル隊の指揮官、ミーシャ・ロスコフ大佐は大型艇(ランチ)の中でその様子を見ていた。


(やはり国王の暗殺はできなかったな。まあ、護衛戦隊の一隻にダメージは与えたようだから、最低限の目的は達している……それにしても、ヤシマのミサイルはやはり優秀だ。本国の(チェーニ)ではここまで追い詰められなかっただろうな……)


 今回使用されたステルスミサイルは工業国家ヤシマ製のショウリュウ型だ。攻撃力はアルビオン王国軍のファントムミサイルと同等だが、ステルス性能がよく、更に最新鋭のコウリュウ型の制御装置を組み込んだことで、回避能力を上げている。


 ショウリュウ型は自由星系国家連合(FSU)で一般的に使われるミサイルだが、コウリュウ型はヤシマ防衛艦隊にのみ配備されている最新型で輸出はされていない。


 そのため、この制御装置を入手することは困難なのだが、ゾンファ共和国がヤシマを占領した際に鹵獲したものがあり、共同作戦ということで融通された。


 なお、この制御装置は帝国にも送られ、軍の研究施設で解析に回されることになっている。この一点だけでもタランタル隊の功績は充分と言えるものだった。


 もっとも帝国の工業力ではヤシマ製と同じ性能を発揮させることは困難で、新規開発のための研究素材となるだろう。


(しかし、シスレーの言っていた敵の護衛戦隊に混乱を与えるという策は上手くいったのか?)


 ロスコフはキャメロット星系に潜む帝国の工作員の指揮官マイク・シスレーから第十一艦隊から追加された護衛戦隊に混乱を起こし、それによって国王護衛戦隊が動揺するように策を行ったと聞いていた。


(確かに結果から見れば、第十一艦隊の戦隊の動きは悪かったが、動揺しているようには見えなかったな……)


 シスレーの計画では、小惑星帯に入る直前に戦闘準備が行われることから、レイモンド・フレーザー少将の旗艦エクセター225で反乱を起こさせ、全体の指揮を執る国王護衛戦隊のエルマー・マイヤーズ少将が対応せざるを得ない状況を作る予定だった。


 フレーザー戦隊が混乱し、更にマイヤーズが反乱の対応に手いっぱいになる。また、当初の計画ではクリフォードの第二特務戦隊が加わっていないため、四十八基のミサイルと無人艦の砲撃で国王の座乗艦アルビオン7を沈めることは不可能ではなかった。


(まあいい。どうせ俺たちにできることはない。それよりも早く新しい偽名になれないとな。間違いなく、この先で臨検があるはずだ……)


 彼の予想通り、マイヤーズは情報通報艦に命じ、本シビル星系を通過した商船の調査を行うことを提案している。


 また、タランタル隊の六隻は航路から外れたことが悟られないよう、敵味方識別信号(IFF)を発信する装置を射出している。


 今のところ疑問は持たれていないが、ジャンプポイントの手前で発見されることは確実で、その場合、この星系に入ってきた商船すべてを調査する可能性が高い。


(それにしてもこれで何が起きるのだろうか? 本国の連中が考える通りに王国に混乱が起きてくれればいいのだが……)


 そんなことを考えた後、部下たちの下に向かった。


■■■


 宇宙暦(SE)四五二五年五月三十日、標準時間一四〇〇。


 レイモンド・フレーザー少将は自らの失態に焦りを感じていた。


(第一特務戦隊が攻撃を受けた責任は私にある。何といっても最大の戦力を持ち、国王護衛戦隊を守る位置にあったのだからな。それに第二特務戦隊は八割近いミサイルを撃破している。コリングウッドと比較されることは間違いないだろう……)


 彼は臨機応変な対応が求められる指揮官には向いていないが、結果から原因を究明するような分析能力は持っている。そのため、今回の原因が自分にあることは明白であり、キャメロット星系に戻れば、確実に糾弾されると考えていたのだ。


(しかし、今できることはない。キャメロットに戻るまでにマイヤーズの指揮が不適切であった証拠を見つけなければならん。そうすれば私の指揮に問題がなかったと証明できる……)


 全体の指揮はエルマー・マイヤーズ少将が執っているため、責任はマイヤーズにある。しかし、今回に限って言えば、フレーザーがマイヤーズの命令に従わず、敵の発見が遅れたことが最大の原因だ。


 もし、マイヤーズの命令通りに索敵能力が高いS級駆逐艦を十光秒先行していれば、ステルスミサイルが起動するタイミングが早まり、充分な余裕をもって対処できただろう。


 また、その後の戦闘指揮においても通商破壊艦を一隻も撃沈できず、五隻すべてを第二特務戦隊が撃沈している。


 純粋な戦力で言えば、フレーザーの戦隊は通商破壊艦戦隊の五倍以上だ。相対速度が大きく短時間の戦闘とはいえ、これだけの戦力差があれば、各艦に攻撃を指示するだけでも全滅させることは難しくない。


 更に王国軍側は気づいていないが、通商破壊艦はすべて無人であり、主砲の命中率は通常より上がっていた。


 タランタル隊の通商破壊艦の防御スクリーンが比較的強固とはいえ、駆逐艦の主砲でも連続で命中すれば撃沈は可能なのだ。

 実際、第二特務戦隊のゼファーとゼブラは共同で攻撃を行い、一隻を沈めている。


(戦闘記録を改竄することは不可能だが、マイヤーズの命令が遅かったことは事実だ。我が戦隊に攻撃のチャンスはほとんどなかった……)


 フレーザーの考えていることは事実だ。

 マイヤーズの命令が出された時、フレーザー戦隊は十光秒離れており、命令が届いたタイミングでは二十秒以上のズレがある。


 そのため、攻撃の機会を減らしたと言えるのだが、これについてはフレーザーの意見が通ることはない。


 距離の関係で命令が遅れることは普通にあることであり、そのために前線指揮官がいるのだ。今回のケースで言えば、マイヤーズの攻撃命令がなくとも、第一特務戦隊を護衛するためにフレーザーが攻撃を判断する必要があった。


 フレーザーは突然の攻撃にマイヤーズの命令が届くまでの貴重な二十秒を無駄にしたのだ。フレーザー戦隊の各艦は司令官が敵性勢力と認めない艦船に対し、自衛以外で攻撃することはできない。そのため、攻撃時間が短く、通商破壊艦を仕留め損ねた。


 常に冷静なマイヤーズやクリフォードがフレーザーの指揮に苛立ちを見せたのはこれが原因だ。待ち伏せの恐れがある小惑星帯に突入することが分かっていたにもかかわらず、対処が遅れて国王の安全を脅かしたことに二人とも怒りを覚えていた。


 フレーザー自身もそのことに気づいているが、自らの失態を糊塗するためにあえて目を逸らしている。


(フォークナー中将の命令でエクセター225を旗艦にしたが、これが間違いだったな。レヴィ艦長でなければ、もう少し対処できたはずだ……)


 フレーザーは次席指揮官である重巡航艦エクセター225の艦長、ファーガス・レヴィ大佐に不満を持っていた。


(艦長コースを修了したとは思えんほど無能だ。あの状況で何一つ提案してこなかった。だからフォークナー中将が助けようとしたのだろうが……他の艦長も同じだ。これだけの数の指揮官がいて、独自に判断できる者が一人もいなかったとは……)


 艦長コースは上級指揮官になるための教育コースの別名で、この教育を修了していないと大佐以上になることは難しい。一定の能力を示した上で将官級の士官からの推薦があって初めて受講できるため、本来なら無能な者はいないはずだ。


 レヴィ大佐も特別優秀というわけではないが、無能と言われるほどではない。彼や他の艦長が積極的に進言しなかったのはフレーザー自身に原因があった。


 フレーザーは元参謀らしく自ら細かな指示を出すことを好み、分艦隊を指揮している時から部下からの提案をことごとく否定していた。更に提案に対して、自身への不満と受け取り、叱責すらしていたのだ。


 そのため、レヴィ大佐を含め、艦長たちは命令通りに動けばいいと達観していた。もっとも彼ら自身に落ち度がないわけではない。フレーザー戦隊の艦長たちはこれだけの護衛がいる部隊を攻撃してくる通商破壊艦などいないと高を括っていたからだ。


 もちろん、この人選は帝国の工作員マイク・シスレーの指示によるものだ。エクセターで反乱が起きた場合、優秀な艦長がいれば、フレーザー戦隊を無力化できないため、命令を守ることを第一に考えるタイプの艦長を推薦したのだ。


 今回はクリフォードの機転で反乱が起きなかったが、もし反乱が起きていればシスレーの策は成功していた可能性が高い。


 フレーザーは護衛戦隊の指揮をレヴィに丸投げし、戦闘記録の確認に注力していた。

 そのことが更に部下たちの離反を招くことになるが、想像力が欠如した彼が気づくことはなかった。


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上司が使えないと大変やな。
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