第二十一話
クリフォード率いるキャメロット第一艦隊第二特務戦隊は四隻の通商破壊艦の攻撃を受けていた。
また、同行していた二隻のヤシマ商船も戦隊の側面を窺うような機動を行っている。
第二特務戦隊は敵本隊の横をすり抜けるべく、〇・一光速の速度を保ったまま直進していた。
「全艦、敵本隊に向けステルスミサイル発射!」
クリフォードの鋭い命令が戦闘指揮所に響き、発射された十二基のミサイルが虚空に消えていく。
「敵本隊に向けカロネード発射!」
カロネードはレールキャノンの俗称で円筒状散弾容器と呼ばれる容器詰み込まれた金属球を電磁加速装置によって加速して撃ち出す兵器である。
軽巡航艦には百トン級カロネードが四基、スループ艦には二トン級が二基搭載されているが、駆逐艦には装備されていない。そのため、実質的にはキャヴァンディッシュ132とグラスゴー451の二隻のみが攻撃を行っている。
「ステルスミサイル到達に合わせて敵本隊右翼を集中的に狙え!」
ごく至近距離であることと既に〇・一Cという高速で移動していることから、四十秒ほどでミサイルは目標に届く。
距離が近いということで、第二特務戦隊も激しい攻撃を受けていた。
また、接近するにつれ、進行方向と敵との相対角度がずれていく。そのため、星間物質による艦の損傷を防ぐために防御スクリーンを進行方向側に展開する必要があり、敵からの攻撃に対し元々低い防御力が更に低下し、高出力の敵の攻撃を受け、損害が増していった。
旗艦キャヴァンディッシュ132のCICでは戦隊司令部の一員でもある情報士や戦術士の部下たちが状況を報告していく。
「グラスゴー451、防御スクリーン能力五十パーセント低下中! 次に直撃を受けると両系統が緊急停止する恐れあり!」
「ゼラス552、主砲直撃! Jデッキ減圧! 緊急隔離中! 艦及び人的損害は不明!」
敵本隊だけでなく、第一布袋丸こと通商破壊艦スウイジンと、第四弁天丸ことリユソンスも艦首を第二特務戦隊に向け、砲撃を開始する。
「敵別動隊より砲撃! 七・五テラワット級荷電粒子砲の模様!」
「ジニス745、敵別動隊の主砲直撃! 防御スクリーン全系統緊急停止!」
「ゾディアック43、敵別働隊の主砲及び副砲直撃! チェンバース艦長より主砲使用不能との連絡あり!」
クリフォードは次々と上がってくる報告に対し、冷静に指示を出していく。
「ゼラスはJデッキ隔離後、状況を報告。ジニスは回避に専念せよ。グラスゴーは防御スクリーンの回復急げ。ゾディアックには防御に徹するよう指示」
特使代理のグラエム・グリースバック伯爵はメインスクリーンに映し出される光景を見て呟く。
「……なぜだ……ヤシマの商船ではなかったというのか……」
別動隊の二隻はグリースバックがクリフォードに許可なく同行させたもので、この危機的な状況を作り出したことに気づき、顔から血の気が失せていた。
クリフォードはグリースバックに一瞥することなく、戦隊の状況を確認していく。
戦隊参謀であるクリスティーナ・オハラ中佐が珍しく興奮気味に報告の声を上げた。
「敵本隊最左翼ヤシママックス轟沈! ゼファーの主砲が止めを刺しました!」
グラスゴーの主砲が直撃した直後にゼファーの主砲が命中したことが幸いした。
その情報にバートラムが応える。
「さすがは“魔弾の射手”だな! 俺たちもやれるってところを見せてやろうじゃないか!」
「了解しました、艦長! やってやりましょう!」
戦術士の陽気な声が響く。
その様子を見ながら、クリフォードは冷静に戦況を分析していた。
(さすがはバートだな。今の一言でCICの雰囲気がよくなった……それにしても敵本隊の動きが鈍い。我々が速度を保ったままジャンプアウトしたことで混乱したのかもしれないが、そのお陰で助かっている……)
そんなことを考えていたが、すぐにステルスミサイル到達時刻になり、メインスクリーンに集中する。
「主砲発射! 敵本隊を切り崩せ!」
バートラムの命令が響く中、オハラの冷静な声がそれに被る。
「ステルスミサイル到達……敵対宙レーザー網突破……最右翼ギャラクティックアローにファントムミサイル命中……撃沈を確認」
敵艦を表すアイコンが消滅し、CIC要員たちが歓声を上げる。
「いいぞ!」
「このままいけ!」
「よし! この勢いで……」
バートラムが命令を発しようとした時、キャヴァンディッシュに強い衝撃が走る。
「敵別動隊の砲撃、右舷に命中」
オハラの冷静な報告の直後、CICに警報音が鳴り響き、キャヴァンディッシュの機関士が悲痛な声で報告を行った。
「A系統スクリーン、緊急停止! Bトレインも危険です! 能力二十パーセントまで低下!」
他にもCIC要員たちの報告が続く。
「Bデッキ右舷最外殻ブロック減圧! 自動隔離信号発信! 作動確認中!」
「外殻冷却系損傷! Bデッキ右舷冷却不能です!」
更に情報士も上ずった声で報告する。
「グラスゴーにも直撃です! 通常空間航行機関損傷の模様!」
「落ち着け!」というバートラムの声が響く。
しかし、クリフォードはCICの指揮官用コンソールの情報を食い入るように見つめている。
(まずい状況だ。第一布袋丸と第四弁天丸の命中率が高い。ゼファーにも直撃があったようだ。これで無傷の艦はスループだけだ……先に別動隊を攻撃すべきだったか……)
元々別動隊とは速度差が小さく、相対性理論における歪みはほとんどなかった。その結果、速度差がある本隊より命中率は高い。
クリフォードは僅かに後悔したものの、すぐに命令を発した。
「全艦、左舷三十度回頭! 敵別動隊に攻撃を集中する!」
「了解しました、准将! 操舵長、命令を実行せよ!」
バートラムが警報音に負けないよう声を張り上げて操舵長であるレイ・トリンブル兵曹長に命令を出す。
「了解しました、艦長! もう当てさせやしませんぜ!」
トリンブルが陽気とも言える声で応える。
攻撃を開始するが、砲撃だけでは命中するものの、敵別動隊の防御を崩すことができずにいた。
そんな中、クリフォードは努めて冷静な声を作ってオハラに確認する。
「中佐、あと何分で敵の射程から出られるか、教えてくれないか」
「敵本隊からはあと二分弱、別動隊からは約三分です」
「了解した。戦隊各艦に告ぐ! これより防御に徹する! 回避機動は各艦に任せる! 回避機動による速度低下は許容する! 今は回避を最優先せよ」
まだステルスミサイルは充分に残っているが、敵本隊をすり抜けたことから、ここでステルスミサイルを発射しても主砲の射程内にあるうちにミサイルは到達しない。
また、別動隊もベクトル的に離れる方向にあり、主砲の射程内でミサイルは到達するものの、三分近い加速が必要となるため、この状況を変えることはできない。
クリフォードはそのことに気づき、主砲単独での攻撃を行って敵を減らすよりも回避に専念するよう命じたのだ。
「ダメージコントロールの優先順位は防御スクリーン、通常空間航行機関とする。各艦の情報士は損害状況を戦隊司令部に報告せよ!」
その間にも通商破壊艦からの攻撃は続いていた。
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