表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第六部「ヤシマ星系を死守せよ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

267/371

第五十話

 宇宙暦(SE)四五二三年八月二十日。


 一隻の情報通報艦がもたらした情報により、ゾンファ星系に衝撃が走った。

 六月三十日に行われた第二次タカマガハラ会戦の敗戦が伝わったためだ。


 国家統一党の政治局長、ファ・シュンファは驚きのあまり、一瞬言葉を失った。


「……あれだけの戦力で完敗しただと……その原因が兵士たちの反乱……」


 側近のバイ・リージィが怒りを露わにする。


「シオン上将は何をしていたのだ! 戦場で反乱を許すなど、将としての自覚がないではないか!」


 その中で唯一冷静だったのは外交部長のヤン・チャオジュンだった。


「今はこの事実にどう対処するかを考えるべきです。緘口令を行ったとしても情報は必ず漏洩します。本星系にいる兵士たちが反乱を起こせば、混乱どころではありません」


 ファはその言葉に我に返った。


「確かにそうだな。最悪の場合、内戦になる……あの老人に責任を取ってもらうだけで済めばいいが……」


 ファは国家主席に担ぎ出したタン・カイに責任を取らせることで、事態を収拾しようと考え、すぐにタンに面会を申し込んだ。


 タンはすぐに面会に応じるが、いつも通りの柔らかい笑みを浮かべているだけで危機感が全く見られない。

 そのため、ファはタンに情報が伝わっていないのではないかと疑った。


「既にお聞きと思いますが、先ほど入った情報についてご存じありませんか?」


「ヤシマでの敗戦のことなら聞いておるよ。で、儂はどうすればよいのかな」


 全く変わらぬ笑みで聞き返され、ファは一瞬言い淀む。


「儂が詰め腹を切るだけで済めばよいが、アルビオンもヤシマもそれでは納得せんじゃろう。誰までを戦争犯罪人(生贄)として差し出すか、考えておいた方がよいのではないかな」


 タンの言葉にファは侮っていた人物が想像以上に切れ者であると知った。


(人がいいだけの人物ではないということか。冷静に考えれば、党の中央委員にまで昇りつめた人物だ。凡庸であるはずはないが、すっかり騙されていたな……)


 そんなことを考えるが、すぐにいつもの切れを取り戻す。


「閣下には全責任を負った上で、ヤシマに行っていただきたい。他にも軍事委員長とシオン上将ら侵攻艦隊の幹部は必須でしょう。もっともヤシマに死刑制度はありませんから、終身刑で済みますが」


「うむ。で、政府と党はどうするつもりかの? 反乱を起こした兵士たちが納得する方法を採らねば、内乱が起きるが」


「民主派のチェン・ユンフェイに政権を譲ります。その上で国家統一党は解散し、党の幹部は公職から追放、公民権を一定期間停止します」


 ファはバイらと考えた対応策を説明する。


「その程度で兵士や市民たちが納得するかの。チェンに儂や中央委員たちを処刑させた方がよいのではないか」


 ファはタンが自らの死を受け入れていることに驚く。それを察したのか、タンは好々爺らしい笑みを浮かべた。


「フォフォ。儂が死ぬ覚悟でいることが意外かの」


「い、いえ……」


 この時ファはタンに気圧されていた。実際、タンを見せしめに処刑するという案も考えていたが、自ら提案してくるとは思っていなかったのだ。


「儂なりに祖国を愛しておるのだよ。その祖国が無残に踏みにじられるのを黙って見ておる気はない。老い先短い我が命で国の混乱が少しでも抑えられるなら、本望というものじゃ」


 ファはその言葉に返すことができなかった。


「君にはこれからのゾンファを背負っていってもらわねばならん。だから、君が儂を担ぎ出した時にも抵抗しなかった。このような時が来るとは思っておらなんだが、何かの時に儂の命が役に立つかもしれんと思ったのでの」


 ファは大きく頭を下げた。


「閣下のお志、確かに受け取りました。我が国の混乱を最小限に留め、十年以内に元の強大な国家に戻してみせます」


 それだけ言うと、タンの部屋を出ていった。

 ファはその足で民主派のチェン・ユンフェイの下に向かった。


 チェンも敗戦の報を受けており、今後の身の振り方を考えていた。


(これで一党独裁は崩れる。ファなら俺を担ぎ出そうとするだろう。奴の手を取るか、それとも(たもと)を分かつか……)


 民主派といっても党が市民のガス抜きに作った組織に過ぎず、政治力のあるファと対決するという選択を安易に採れないでいた。


 そんな時、ファが彼の下を訪れた。

 ファは前置きもなく、すぐに本題に入った。


「君に共和国の舵取りを任せたい」


「今の支配体制を崩すことになるが」とチェンが聞く。


「このままでは国がもたんよ。ならば、可能な限り混乱を抑えた上で、アルビオンとヤシマと交渉せねばならん。そのためには民衆に影響力がある君が必要なのだ」


 ファの言葉にチェンは「私に火中の栗を拾わせるということかな」と静かに告げる。


「嫌ならやめてもらっても構わん。後がなくなったタン主席が暴挙に出て、民主派を皆殺しにするというシナリオも作れないことはないのだ。大きな動乱が起きるが、それを収める英雄を作り出すことは難しくない。それも操りやすい英雄をだ」


 ファの目を見て、チェンは本気であると感じた。


「冗談だ。私としても民主化の父と呼ばれる幸運を捨てるつもりはない。で、具体的にどうすればよいのだ」


 それからファとチェンは協議を続け、計画を詰めていった。


 翌日、チェンは街頭に立った。


「既に知っていると思うが、我が軍が歴史的な大敗北を被った! その原因は国家統一党の政治将校たちの横暴に耐えかねた兵士たちの反乱だそうだ! このままではアルビオンとヤシマ、そして革命軍となった反乱軍が首都に押し寄せるだろう!」


 その言葉に聴衆たちは戸惑う。これまでゾンファ星系が戦場になったことはなく、戦争は遠い世界の出来事だったためだ。


「確かに革命軍は我々の同胞だ! だが、党と政府に忠実な者を許すとは思えない! アルビオンとヤシマも略奪を行うようなことはないだろう。だが、我が国に対し、過大な要求を突き付けてくることは間違いない!」


 聴衆の中に不安が広がる。今でも戦争によって重税が課せられており、更に負担が増えれば、通常の生活すら難しくなるためだ。


「この状況を座視してよいのだろうか! 現政府に交渉を任せれば、奴らは自らの命惜しさに我が国の資産を売り渡すだろう! それを許してよいのか!」


 そこで聴衆の反応を見る。しかし、未だに反応は薄かった。そのため、強い言葉で先導することにした。


「否! 今こそ我々市民が立ち上がらねばならん! 党の独裁者たちから国を取り戻すのだ!」


 チェンの扇動に聴衆の中から「そうだ!」という声が多数上がる。これは民主派が用意したサクラたちが上げた声だった。


「タン・カイを引きずり出せ! 奴こそがすべての元凶! 奴の首を革命軍に渡せば、手を取り合うことができる!」


 その言葉で民衆たちは官邸に向かった。

 そして、警備兵たちを排除し、タンは民衆の前に引きずり出された。


 そして、民衆の中から「殺せ!」という声が多数上がる。

 その声にタンは怯えたような表情を見せ、膝を突いた。


「静まってくれ! 我々は自由と平等を求めるが、暴徒ではないのだ! 力による政権移譲は必ず未来に禍根を残す。平和裏に政権を放棄し、党を解体すると約束するなら、私刑を加えるつもりはない!」


 その言葉で民衆たちも落ち着きを取り戻す。


「タン主席、ここで約束してほしい。直ちに我々民主派に軍と警察に関する権限を譲ると。そして、国家統一党を解散すると」


 タンは慌てた様子で「や、約束する! だから命だけは……」と言って平伏した。


 その後、タンの命令によって党の幹部たちが次々と拘束されていった。ファたちも拘束され、自宅に軟禁されたが、彼らが動かなかったため、大きな混乱は起きなかった。


 チェンは民主派の幹部を集めた。


「アルビオンとヤシマがここに来るまでに、秩序を取り戻す必要がある。どの程度の時間余裕があるかは分からないが、直ちに着手してもらいたい」


 民主派による政権奪取はファの描いたシナリオ通りに進み、大きな混乱を起こすことなく行われた。


感想、レビュー、ブックマーク及び評価(広告下の【☆☆☆☆☆】)をいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] こんなアホなシナリオ作るくらいならもっとマシな政治をしてれば良かったのにね。 代々の主席や党の独裁と戦争好きのせいで宇宙で何人の人間が死んだことやら?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ