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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第六部「ヤシマ星系を死守せよ」

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第三十五話

 宇宙暦(SE)四五二三年六月三十日 標準時間〇一〇五。


 ヤシマ星系の首都星タカマガハラ近くの宙域で戦闘が始まった。


 後に第二次タカマガハラ会戦と呼ばれる大会戦で、シオン・チョン上将率いるゾンファ共和国艦隊約四万五千隻が、アルビオン王国、ヤシマ、ロンバルディア連合の三ヶ国連合艦隊約四万三千隻と軍事衛星群に戦いを挑んだ。


 先手はゾンファ艦隊が取った。

 シオンは十個艦隊の戦艦約二千隻を集中運用し、要塞砲を超える出力の砲撃を連合艦隊側に放ったのだ。


 直前にクリフォードが気づき、艦隊は回避機動を行うことで奇襲を受けることなく、被害はなかった。


 しかし、回避能力がほとんどない小型軍事衛星、一九式小型砲台衛星は次々と破壊されていく。


「一九式砲台、百五十二基破壊されました! ムツキ級軍事衛星にも若干の被害があるようです」


 第九艦隊旗艦インヴィンシブル89の情報士、ジャネット・コーンウェル少佐が報告する。

 更に戦術士(タコー)のオスカー・ポートマン中佐が鋭い口調で警告する。


「第二射です!」


 メインスクリーンに視覚化された光の束が映し出される。その光の束は更に多くの小型衛星を破壊していった。


「一九式砲台、三百二十一基破壊されました。ムツキ級には損害はない模様です」


 一九式小型砲台衛星は全長五百メートルの円筒状の軍事衛星だ。

 大型戦艦並みの主砲と多数のミサイル発射管を持ち、直径五キロメートルのムツキ級軍事衛星から遠隔で操作される。


 この一九式小型砲台衛星は攻撃力こそ大型戦艦を凌駕するが、防御力は重巡航艦並しかなく、更に軌道修正用のスラスターがあるだけで機動力は皆無であった。そのため、遠距離からの攻撃に対し、なすすべもなく破壊されていく。


「してやられましたな。このような策で来るとは思いませんでした」


 第九艦隊参謀長のセオドア・ロックウェル中将が司令官のアデル・ハース大将に言った。

 ハースはその言葉に冷静に答えていく。


「問題ありません。元々、小型衛星は敵を引き付ける餌にするつもりだったのですから」


「確かにそうですな。それにしてもロンバルディア艦隊はよい仕事をしておりますな。事前に聞いていなければ、また何かしでかすのではないかと気を揉んだところです」


 そう言ってロックウェルが笑う。

 彼の視線の先には無秩序に回避機動を行うロンバルディア艦隊の姿があった。


「ええ、グリフィーニ提督は完全に艦隊を掌握しているようですね。これなら期待できそうです」


 ハースはそう言いながら満足げに小さく頷いた。


 これはハースとクリフォードが提案した策の一環だった。

 防衛戦ということで先制攻撃を受けることは既定路線だった。そのため、攻撃を受けた後、ロンバルディア艦隊が混乱するように見せ、敵の油断を誘う作戦だったのだ。


 その策は実を結ぼうとしていた。


■■■


 ゾンファ共和国艦隊の総司令官、シオン・チョン上将は先制攻撃の成功に満足げな表情を浮かべていた。


(アルビオンも自分たちが使った戦術を使われるとは思っていなかったようだな。これで小型砲台は排除できた。大型衛星は多少厄介だが、数で押せば問題なかろう……)


 更にロンバルディア艦隊が艦列を崩しながら右往左往する姿を見て、勝利を確信する。


(ロンバルディア艦隊の練度は相変わらず低いようだ。まあ、実戦を経験したとはいえ、何年も戦い続けてきた我々のようになるには時間が掛かるのは当たり前だが……アルビオン艦隊も想定通りの数だ。新たな艦隊が派遣されてきたようだが、第七艦隊と第十一艦隊はキャメロットに撤退したらしいな……)


 五度の砲撃で小型砲台衛星の九十パーセント以上を破壊し、ムツキ級軍事衛星の一部にもダメージを与えていた。


 しかし、ムツキ級軍事衛星は最初の一撃のみ防御スクリーンの多重展開が間に合わなかったが、その後は強力なスクリーンを重ね掛けすることで、遠距離砲撃を無効化していた。


「これ以上砲撃を続けても無駄だろう。全艦に通達! フォーメーション解除! 艦列の再編後、加速を開始する! 敵の放ったステルスミサイルが十五分後に到着するぞ! 油断するな!」


 シオン以外のゾンファ艦隊の各司令官も勝利を確信した。唯一、フェイ・ツーロン上将だけは順調すぎることに疑念を抱いている。


(シオンの策は確かに成功した。だが、順調すぎることが気になる。あのハースが何も手を打っていないわけがないのだから……)


 フェイはその懸念をシオンに伝えた。

 しかし、シオンは余裕の笑みを浮かべて彼の言葉を一蹴する。


「確かに順調だが、それは俺が奴の上をいったからだ。敵は唯一の希望であった遠距離攻撃能力を封じられた。こうなれば、物量、練度、士気で上回る我が艦隊が敗北するはずがない」


「ハースが超遠距離砲撃を予想していなかったはずがない」


「いや、それはないだろう。想定していたなら衛星群を集中させるはずがないし、ミサイル発射のタイミングも遅すぎる。奴の知恵の源泉も遂に枯れたということだろう」


「確かにそうだが……了解した。だが、どんな隠し玉を持っているか分からんのだ。数で押せば勝てるのなら、勢いに任せず慎重にいってくれ」


 フェイの言葉にシオンは「分かった、分かった」と笑顔で応え、


「レイ・リアンとシー・シャオロンの艦隊を中心に五個艦隊を先行させる。お前は俺と共に後方から支援する。これならいいだろう?」


「ああ、それなら安心できる」とそこで初めてフェイも笑みを浮かべた。


 通信を終えたシオンはレイ・リアン上将を呼び出した。


「見ての通り、敵の軍事衛星群はほぼ封じた。貴官にはシー上将らと共に先鋒として敵を蹴散らしてもらいたい」


「任せてもらおう」と、レイは猛将らしい獰猛な笑みを浮かべて頷く。


「敵にはあの女狐、ハースがいる。くれぐれも敵の罠にはまらないようにな」


「分かっている。だが、この状況では奴とて打つ手はないはずだ」


 そう言うと通信を切った。


 シオンは更にシー・シャオロン上将を呼び出す。


「レイ艦隊と共に敵を蹴散らしてほしい。言わなくても分かっていると思うが、敵にはあのハースがいる。そのことを忘れないようにな」


 シーはピシッとした敬礼を行う。


「お任せください! 閣下に失望されぬよう、前回の反省を踏まえつつ攻撃します」


 生真面目そうにそう言うと、もう一度敬礼してから通信を切った。


 レイ艦隊、シー艦隊を中心とする五個艦隊が加速を開始した。

 シオン艦隊を中心とする残りの五個艦隊はその後方十光秒の位置を追走するように加速していった。


 連合艦隊が発射した十万基を超えるステルスミサイルが先行する艦隊にたどり着いたが、濃密な対宙レーザー網に撃墜され、五十隻ほどを沈めるだけでほとんど効果はなかった。


 ゾンファ艦隊の各艦の戦闘指揮所(CIC)では高揚した士官が勝利を叫び、それを下士官兵は冷ややかな目で見ている。それだけではなく、士官の目がないところでは表情を消した下士官たちが小声で話し合う姿もあった。

 しかし、シオンがそのことを知ることはなかった。


 シオンの命を受けたレイは直ちに加速を命じ、約八分後に艦隊は〇・〇五(光速)に達した。

 三十分間の慣性航行の後、減速を開始した。


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