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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第六部「ヤシマ星系を死守せよ」

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第二十話

 宇宙暦(SE)四五二三年五月十四日 標準時間〇三一〇。


 ゾンファ艦隊の本格的な攻撃が始まり、アルビオン艦隊本隊では対応に追われていた。


挿絵(By みてみん)


 アルビオン艦隊の総司令官である第七艦隊のオズワルド・フレッチャー大将は、第八艦隊のノーラ・レイヤード大将と第十一艦隊のサンドラ・サウスゲート大将に対し、防御に徹するよう命令する。


「敵は我がアルビオン艦隊を集中的に狙っている。第九艦隊が側面に出るまで、防御に徹して被害を最小限に食い止めるのだ」


 レイヤードはすぐに了解を伝えてきたが、サウスゲートは少しイラついた感じで反対する。


「敵の中央に向けて前進してはどうか。消極的な戦いをしていると、ヒンドとラメリクの艦隊が逃げ出す可能性もある。そうなったらヤシマ艦隊もどうなるか分からない。積極的に打って出るべきだ」


 サウスゲートは脆く見える敵中央を突破する策を提案した。猛将型の彼女は防御戦闘を苦手としており、このままでは自分の艦隊が何もしないうちに磨り潰されてしまうと危惧を抱いている。


「駄目だ。ここで我らが突出したら更に袋叩きに合う。オオサワ提督からも前進の命令はない。ここで足並みを乱せば、敵の思うつぼだ」


 連合艦隊の総司令官はヤシマ防衛艦隊のサブロウ・オオサワ大将だ。そのオオサワから指示がないことを盾にフレッチャーはサウスゲートの提案を拒んだのだ。


「それでは遅い! こちらから提案すべきだ!」とサウスゲートは咆えるものの、その間にも戦いは激化しており、フレッチャーは「議論している時間はない」と言って、通信を一方的に切る。


 サウスゲートはフレッチャーの消極的なやり方に不満を持つが、自分の艦隊だけで敵の大艦隊の中に突っ込んでいくわけにはいかず、フラストレーションを抱えながらも命令に従った。


 通信を切ったフレッチャーだが、彼もサウスゲートの懸念は理解していた。しかし、僅か三個艦隊で前進しても圧倒的な戦力差で袋叩きに合うことは明白であり、彼女の提案は愚策だと考えていた。


「ヤシマ艦隊からオオサワ提督より通信が入っています」


 参謀の一人が報告すると、すぐに厳しい表情を浮かべたオオサワの顔が司令官用コンソールに映し出される。


「アルビオン艦隊を起点に戦線を縮小しつつ、敵中央部を突破してはどうでしょうか。貴軍に負担を強いることになりますが、このままではヒンド、ラメリクの両艦隊が脱落することは明らか。強引にこちらに引き込み、目の前の敵だけに砲撃をぶつけさせれば、彼らでもなんとかなるのではないかと」


 オオサワもヒンド共和国とラメリク・ラティーヌ共和国の艦隊が及び腰になっていることに気づいていた。また、ここで両艦隊が後退することがあれば、自国の将兵が動揺し、戦線の維持すら不可能になると考えている。


 フレッチャーが言葉を発する前にオオサワは強引に話を続けた。


「厳しいことは承知しております。ですが、貴国の第九艦隊は予定時刻より早く敵側面に出られそうです。ならば、少々強引でもそれにタイミングを合わせた方がよいと考えます。いかがか」


 オオサワは強い視線でフレッチャーに回答を迫る。


「了解しました。では、〇三二〇に前進を開始します。ヒンド、ラメリクの両艦隊にもくれぐれもタイミングを外さぬよう、強く命じていただきたい」


 フレッチャーはオオサワの迫力に負け、中央突破作戦を了承した。

 通信を切った後、再び二人の司令官に回線を繋ぐ。


「〇三二〇に敵艦隊中央に向けて、全艦隊で突撃する。先鋒は第十一艦隊に任せたい。第八艦隊は我が艦隊と共に第十一艦隊を全力で支援する」


 その命令にサウスゲートは「了解した」と即座に頷く。


 レイヤードもすぐに了解するが、懸念も示した。


「サウスゲート提督が全力で前に出れば、我が軍はともかくFSUの艦隊はついてこられません。その辺りはよく考えた方がよいと思います」


「分かっている。その件についてはオオサワ提督に強く言ってある」


 フレッチャーはそう言うと、通信を切った。


「〇三二〇に第十一艦隊を先頭に中央突破を図る! 艦隊陣形の再編を急げ!」


 アルビオン艦隊は戦艦を先頭に徐々に紡錘陣形を構成していった。また、ヤシマ艦隊もアルビオン艦隊にゆっくりと接近し、六個艦隊が一つになろうとしていた。


 ヒンド艦隊もアルビオン艦隊に接近していくが、艦隊にまとまりがなく、小規模な戦隊単位でしか動けない。


 ゾンファ艦隊はヒンド艦隊の戦列にできた隙間を的確に突き、次々と沈めていく。ヒンド艦隊は防御を固めるべく、その場で停止するしかなかった。


 内側のヒンド艦隊が止まったことでラメリク艦隊も動きを止めざるを得ない。これにより、艦隊を集中させるという当初の作戦は崩れてしまった。

 それでもオオサワは突撃を強行するため、各艦隊に命令を送った。


「アルビオン、ヤシマの艦隊で敵戦線を突破する。ヒンド、ラメリク艦隊はその場で攻撃を続行」


 その後、第九艦隊のアデル・ハース大将からオオサワに敵右翼への攻撃要請が行われた。

 オオサワはその要請を即座に認め、麾下の艦隊司令官にタイミングを合わせて攻撃を加えることを命じ、更にヒンド艦隊の司令官クリシュナ・ダス大将に回線を繋いだ。


 ダスは自軍が前進しないことを詰問されると思い、最初に謝罪の言葉を口にする。


「申し訳ありません。我が国の将兵のほとんどが実戦経験がなく……」


 オオサワはその言葉を遮り、用件を告げる。


「ダス提督、今は時間がありません。アルビオンの第九艦隊が攻撃を開始したら、敵の右翼に向けて砲撃を行ってください」


 ダスはオオサワの意図が読めず、「敵右翼ですか?」と聞き返す。


 現状ではヒンド艦隊は敵の左翼と相対しており、また、味方の艦隊を越えて攻撃することになるためだ。


「貴艦隊の位置なら、敵右翼を攻撃してもアルビオン及びヤシマの艦隊に当たる可能性はありません。一方で、敵の右翼は第九艦隊に対応するため、艦首を右に振るはずです。つまり、斜め後方から攻撃する形になるはずです」


 敵艦隊の後方から攻撃できることはダスも理解できたが、それでも他のゾンファ艦隊が盾になり、有効な攻撃とはなり得ない。


「敵が一時的でも混乱してくれればよいのです。ハース提督から詳しくは聞いておりませんが、第九艦隊が敵を翻弄してくれるはずです」


「了解しました。タイミングを合わせて攻撃してみます」


 オオサワはそれに頷くと、自らの戦闘に集中していった。



 標準時間〇三二〇。


挿絵(By みてみん)


 サウスゲートは司令官席から立ち上がり、その巨体に見合った声で突撃を命じた。


「全艦ミサイル発射! 敵を突破するぞ! 我に続け!」


 彼女の旗艦、キング・ジョージ級デューク・オブ・ヨーク42は先頭でこそないものの、第一戦艦戦隊と共に最前線にあった。

 そして、猛将らしい豪快な攻撃を見せ、ゾンファ艦隊中央のクゥ艦隊を切り裂いていく。


 その頃、第九艦隊はゾンファ艦隊の右側面、約三十五光秒の位置にあり、最大加速度で減速していた。

 減速完了のタイミングは予定通り〇三二五で、ゾンファ艦隊のシー艦隊の三十光秒の位置に到達する。

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