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第二十一話

 宇宙暦(SE)四五一二年十月二十三日 標準時間〇九三五。


 クリフォードがドック内を破壊している時、ワン・リー艦長に率いられたP-331派遣部隊は、滅茶苦茶に破壊されたドックの設備を目の当たりにし、怒りにうち震えていた。


 敵に対する怒りはもちろんだが、ここまで状況が悪化するまで対応できなかったクーロンベース司令部に対しての怒りの方が大きかった。


 ワン艦長はアルファ隊が侵入したエアロックとは別の二ヶ所のエアロックからドック内に入っていく。

 敵が破壊活動をしているため、飛び交う機械部品を避けながら、慎重に、しかし素早く敵に近づいていった。


 二方向から進んだため、遮蔽から体が丸見えになっている敵兵がいた。彼はこの破壊活動を止めさせるため、やや遠い位置ではあるものの発砲を許可する。


 数条のブラスターの光が敵兵に吸い込まれ、そのうちの一条が脇腹に直撃すると、敵は真横に吹き飛んでいった。その直後、敵部隊が混乱する。


 ワン艦長は、敵は十人以下だと考えながら、敵が行っていた破壊活動を思い出す。


(爆薬を投げさせ狙撃する。口で言えば簡単だが、これだけの破壊を短時間で行うためには相当優秀な狙撃兵がいるのだろう。不用意に近づくと損害は馬鹿にならんな……)


 彼はパワープラント(PP)行き通路にいた部隊が囮で、こちらの部隊が本命の精鋭部隊だと考えた。


(通路にいた敵兵の戦い方は本職(宙兵)じゃなかった。こっちに本職を配置したんだろう。まだ、“外”がうるさい。早くこいつらを排除しないと本格的にまずいことになるかも知れん……)


「チャン・ウェンテェン! 遮蔽を利用して敵に接近する。援護しろ!」


 彼はそう叫ぶと十名の部下を引き連れ、敵に接近していく。

 敵からは闇雲に撃ち込まれるブラスターの光跡が、飛び交う破片に乱反射し、頭上を明るく照らしていく。


(うん? 三、四人しか撃ってこない。それも碌に照準も合わせていない乱射だ……さっきの男が狙撃兵だったのか?)


「敵は少ない! チャン、制圧射撃を! 敵の攻撃が緩んだら突っ込む!」


 その命令を聞いたチャン・ウェンテェン甲板長は部下たちに指示を出していく。その直後、二十本近い光の矢が敵の隠れるコンテナなどに突き刺さる。


 その勢いに敵兵からの攻撃は緩んだ。

 ワンはこの機会を生かすべく、一気に前進した。


 その時、飛び交う工作機器の破片の間をゆっくりとした速度で接近してくる物体を発見する。


 すぐに爆薬だと判断した彼は、「爆薬だ! 伏せろ!」と本能的に叫んでいた。

 部下たちはその言葉に慌てて近くの遮蔽物に飛び込み、体を伏せる。


 三つほど数を数えたが爆発する気配がない。

 焦れた部下たちが再び立ち上がった時、真っ白な光が彼らの周りを埋め尽くす。数名が爆発のエネルギーで吹き飛ばされた金属片に晒されるが、硬質の外殻を持つ戦闘用装甲服に弾かれ、損害は無かった。


「ただの爆薬だ! 直撃されなければダメージはない! もう一度チャンスを見て接近する!」


 ワンは敵の策略に嵌った自分に怒りを感じた。しかし、すぐに冷静さを取り戻し、部下たちに指示を出す。部下たちもその言葉に応え、敵に攻撃を加えていった。


 しかし、敵は既に大型コンテナを盾にしており、有効なダメージを与えることができない。


 一方、味方は敵にいるたった一人の優秀な狙撃手のため、既に二人が戦闘不能に陥っていた。また、不用意に近づくと的確にダメージを与えてくるため、接近できない状況に陥っている。

 ワン艦長はこれでは埒が明かないと、別働隊を後ろに回りこませることにした。


「チャン! 十名を率いて常用エアロックの反対側に回れ! 敵が引く時を狙って殲滅しろ!」


 彼はそう叫びながら、頭の片隅で自分は私掠船乗りであって、陸戦隊ではないと自嘲気味に考えていた。


(防衛戦は専門外なんだがな。まあ、ここの保安部員たちよりマシだが、突撃する方が性に合っている……敵が引くタイミングで一度は攻勢があるはずだ。その後の敵の退却にあわせて突っ込むか……)


 敵が引く時に状況を変えるため、何か手を打つはずだと考え、それを利用しようと思っていた。


 元来、降伏した商船や撃破した輸送艦に乗り込むのが、彼らの戦闘スタイルであり、このような基地内での攻防戦の経験はなかった。


(敵の数が少ないから強引な手を打ちたくなる。こんなところで大事な乗組員を失うわけにはいかん。何としてでも祖国に連れて帰らなければならんのだからな……)


 そんなことを考えていると、突然、敵の攻勢が弱くなった。


(次のタイミングで大掛かりな攻勢があるはず。それが収まったら突っ込むか……)


 そう考え、すぐに指示を出す。


「すぐに敵の攻勢が始まるぞ! なあに撤退のための花火だ。そいつが収まったら俺に続け!」


 彼の予想通り、すぐにグレネードらしき爆発物が複数撃ち込まれる。

 五回の爆発音と共にドック内に飛び交う破片が更に数を増し、細かい破片が戦闘用防護服の外殻を叩いていく。


 彼は攻勢が収まると判断し、「突撃!」と叫んで、敵に肉薄していく。

 彼の後ろには部下たちが続くが、敵の狙撃兵はまだ残っているようで、更に一人の部下が負傷した。


 その正確な銃撃により僅かに動きが鈍った隙を突いて、敵は常用エアロックに逃げ込んでしまった。


(逃げられたか……冷静で相当切れる奴がいるな。逃がすのは癪だが、まだ敵が外にいる。出て行ってくれるならそれでも問題ないだろう……)


 彼は敵が使った常用エアロックの通路側扉が開放されたという表示を見ながら、そう考えていた。


「チャン、そっちはどうだ?」と別働隊のチャン甲板長に連絡を入れた。


「まだ、エアロックを出たところです」


「敵が常用エアロックから通路に出た。恐らく撤退するつもりだろう。一応(・・)追撃するが、兵を無駄にするなよ」と指示を出し、自らは常用エアロックの操作を主制御室(MCR)に依頼した。


 MCRのオペレータから状況報告と了解の声が聞こえるが、


「何をしている艦長! すぐに追撃して全滅させろ! 敵を絶対に逃がすな!」というカオ・ルーリン司令の喚き声が被さってきた。


 彼は何を感情的になっているんだと司令に対して怒りを覚えるが、内心の怒りを抑え、努めて冷静な口調で司令に提案する。


「敵が逃げるなら放っておきましょう。外のスループ艦も味方を拾えば撤退するでしょう」


 しかし、司令からは、「絶対に逃がすな! これは命令だ!」という甲高い命令が聞こえ、通信を切り忘れたのか、「どいつもこいつも無能な奴ばかりで……」という呟きが聞こえてくる。


 ワン艦長は通信を切り、憮然とした表情を消し、追撃を命じた。


「追撃命令だ! 俺たちは常用エアロックから追うぞ! チャンと挟み撃ちにすればすぐに片づく。気合を入れろ!」


 自らもクリフォードたちが入ったエアロックに向かった。



■■■


 時はクリフォードたちがドックで破壊活動を始めた時点に遡る。


 ゾンファ軍クーロンベースの主制御室内で、司令官カオ・ルーリン准将は集まらない情報に不満を爆発させていた。


パワープラント(PP)行き通路の状況は! ドック内の損害状況は! P-331への影響は! なぜすぐに報告しない! これでは指揮が取れないだろうが!」


「PP通路は敵の反撃を受け、PP側に一時退却した模様。指揮命令系の回復後、再度状況を確認します」


 通路にあるセンサー類はアルビオン軍の潜入部隊により、ほとんどが無効化されていた。

 PP行き通路ではブラボー隊の反攻により派遣した部隊の指揮官が負傷し、一時的に指揮命令系統に混乱が生じている。


「ドック内は遠隔監視装置が破壊され状況把握は不可能。現在監視カメラにて状況把握中です」


 ドック内についても、機器の状況を監視する制御装置まで破壊されただけでなく、多数の機器が同時に破壊されたことから、MCRの遠隔監視ディスプレイの状態表示は故障(Failure)で埋め尽くされていた。そのため、ドック内の状況も瞬時に判断できない状況だった。


 唯一、通商破壊艦P-331だけは、副長であるグァン・フェンによって指揮系統が機能しており、即座に報告が入っていた。


「P-331は損傷なし! 但し、残燃料は三〇パーセントを切っているとのことです!」


 徐々に情報は入り始めたが、カオ司令の欲しい情報は上がってこない。

 更に苛立ちを募らせていると、オペレータの一人がワン艦長と話しているのに気付く。


「常用エアロックの状況を教えてくれ!」という艦長の声に、オペレータは状況を説明し始めた。


「常用エアロックドック側扉閉止……通路側手動開放状態です。MCRからの遠隔操作はシステム強制リセットと立ち上げに時間が掛かります。ええ……五分ほどお待ちください……」


 そこまで言ったところで、カオ司令が強引に通話に割り込んだ。


「絶対に逃がすな! これは命令だ!」


 更に怒りをぶちまけるように悪態を吐く。


「どいつもこいつも無能な奴ばかりで全く役に立たん!」


 その暴言はMCR内のオペレータたちにも流れており、彼らは自分たちの上司に冷たい視線を向けていた。

 ゾンファ軍の士気は最低レベルにまで低下していたが、カオ司令はそのことに気づいていなかった。


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[良い点] クリフエッジシリーズは、好きでいつも読んでます。
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