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第十八話

 宇宙暦(SE)四五二二年六月十七日


 キャメロット第二艦隊司令官であるナイジェル・ダウランド大将はヤシマ防衛艦隊司令長官サブロウ・オオサワ大将との会談を終えると、ヤシマに駐留しているアルビオン艦隊の司令官及び参謀長を旗艦に集めた。


 現在ヤシマに駐留している艦隊はダウランドの第二艦隊、ヴェロニカ・ドレイク大将率いる第三艦隊、ジャスティーナ・ユーイング大将率いる第六艦隊であった。


 ドレイク提督は女性にしては長身で比較的小柄なダウランドより背が高い。その特徴的な赤毛を無造作に後ろで括り、鋭い目つきを常にしていた。


 その威圧的な姿から、“海賊の女首領(パイレートクイーン)”と部下たちから密かに呼ばれ、その名に恥じぬ大胆な用兵を行う猛将だ。


 もう一人の女性将官であるユーイング提督はドレイクとは対照的に、妖艶と言えるほど女性らしい印象がある。


 宙軍士官にしては長い金色の髪を結いあげ、鼻に掛かったような声でしゃべることから、“女主人(ミストレス)”と陰で呼ばれている。見た目に反し沈着冷静で、特に防衛戦では粘り強い用兵に定評があった。


 ドレイクはダウランドより一歳年上の五十四歳、ユーイングはダウランドと同期の五十三歳だが、先任順位の関係でダウランドが総司令官になっている。二人ともダウランドの指揮権を完全に認めており、アルビオン艦隊内に指揮命令系の問題はない。


 彼女たちの後ろにはそれぞれの参謀長が控えている。


「既に聞いていると思うが、今後の方針について確認したい」


 ダウランドの発言で会議は始まった。


「オオサワ提督は我が軍の方針を全面的に支持している。指揮命令系統、補給に関しては問題ないが、ヤシマ軍の練度と士気にいささか懸念がある」


 ダウランドの発言にドレイクが大きく頷く。


「それは小官も同じ意見だね。まあ、やる気の方はいうほど悪くはないが」


 ユーイングが大きく頷き、賛同する。


(わたくし)もドレイク提督と同じ考えですわ。状況が有利な時はともかく、不利になったらヤシマ軍は当てにしない方がよいでしょうね」


 ダウランドは頷く。


「その点は私も同感だ。だが、楽観できる状況ではない。特にロンバルディアがどのような選択をするかで、圧倒的に不利な状況に陥ることもあり得るのだから」


 ロンバルディア艦隊が当初の作戦通りラメリク・ラティーヌ星系に撤退し、ヤシマ星系に移動してこないと、戦力的には帝国軍に劣ることになる。


「確かにそうだね。キャメロットの統合作戦本部がヤシマへの増援を渋る可能性もないわけじゃない」


 ドレイクの懸念はダジボーグからテーバイ星系に向かうことを想定し、キャメロット星系の防衛を強化、すなわち、ヤシマへの艦隊派遣要請を却下する可能性があるということだ。


「その点は確かに懸念だが、司令長官とハース提督ならヤシマを奪われることの危険性をよくご存じだ。何とか統合作戦本部を説得してくれると信じるしかあるまい」


「それは難しいのではなくて? 政府もキャメロットの防衛を最優先するように軍に指示するでしょうし」


 ドレイクがユーイングの意見に賛同する。


「特に今は間が悪い。保守党の有力な政治家がアルビオンに集まっているんだからね。統合作戦本部の連中が消極的になるかもしれない」


 アルビオン王国は本国であるアルビオン星系と植民星系であるキャメロット星系を持つが、王国政府の機関はアルビオン星系の首都オベロンにある。


 年に一度、キャメロット星系政府の主要な政治家が王国政府と交渉を行うことになっており、今がちょうどその時期に当たる。


「いずれにせよ、当面は我々だけで帝国の大艦隊を迎え撃たねばならんということだ。いくつかのパターンに分けて作戦の素案を作ってある。それについて意見を求めたい……」


 ダウランドは司令官室のスクリーンに作戦案を映し出す。


「まず状況から説明しよう。帝国のロンバルディア侵攻は早ければ六月中に始まるだろう。その際、ロンバルディア艦隊が帝国艦隊に決戦を挑み、敗北したというシナリオだ。ダジボーグに艦隊集結という情報がキャメロットに届くのは更にその十日後、帝国がロンバルディアを掌握するのに一ヶ月掛けるとして、ヤシマに増派がすぐに決まってもギリギリのタイミングにしかならん。最悪の場合は我ら三個艦隊、ヤシマ四個艦隊、ヒンド二個艦隊の九個艦隊で戦うことになる……」


 その後、様々なシナリオに沿った作戦案が提示され、三人の提督は活発な討議を行った。


 ヤシマ派遣艦隊の方針が決まった。

 それは情報収集と訓練というありきたりのもので、当面は受動的なものとせざるを得ないという結論だった。


「……では、今後の方針だが、ダジボーグ方面を注視しつつ、ロンバルディア艦隊の動きを見極める。当面はヤシマ艦隊との連携訓練に励むしかないが、即応できるよう準備は怠らないように頼みたい……」


 アルビオン艦隊側で検討が進められたが、ヤシマ側でも同じように戦略について検討が行われている。

 防衛艦隊司令長官のオオサワは行政府の長であるサイトウ首相と面談していた。


「……アルビオンとの協力関係は問題ないレベルになっています。懸念があるとすれば、やはりロンバルディアでしょうな」


 オオサワの発言通り、ヤシマ側でもロンバルディアの動向が最大の焦点だった。


「ヒンド共和国に増援を依頼しましたが、二個艦隊を派遣してくればよい方でしょう。それでも間に合えば九個艦隊になります。抑止力という点では一定の期待はできますが、戦力としてみると心許ない。やはりロンバルディア艦隊が必要になりますな」


 サイトウは四角ばった顎を撫でながら、溜息を吐く。


「我々にとってよい情報は帝国が十三個艦隊しか用意できなかったことでしょう。帝国の輸送能力の限界がそこであったことが幸いしました」


「確かに。これでヤシマとロンバルディアの同時侵攻の可能性はほぼ無くなりました」


 ヤシマには現在七個艦隊、ロンバルディアには六個艦隊が存在する。

 帝国艦隊も同数しかないため、確実に勝利を得るためにはどちらかに戦力を集中する必要があり、そうなれば精鋭アルビオン艦隊がいるヤシマではなく、ロンバルディアに向かうことはまず間違いない。


「間に合うかどうかはともかく、念のためヒンドとラメリク・ラティーヌには今一度戦略を伝えておくべきでしょう……」


 オオサワとサイトウの会談は深夜まで続き、様々な方針が練られていく。

 事態はダウランドやオオサワの予想通りに推移していった。


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