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第十七話

 宇宙暦(SE)四五一二年十月二十三日 標準時間〇八二五。


 スループ艦ブルーベル34の潜入部隊員たちは、敵拠点(ベース)の通信設備点検口から次々にベース内に突入していく。


 先行するのは陽動部隊である(ブラボー)隊で、主目標であるドックの破壊を担当する(アルファ)隊はその後方から続いて潜入する。


 ベースの保安システムはヘーゼル・ジェンキンズ三等兵曹により無効化されているが、彼女の予想では最短五分、最長でも三十分で気づかれるとのことだった。


 狭い煙突のような通路を一列になって五十メートルほど進むと、簡易エアロックにたどり着く。


 指揮官であるブランドン・デンゼル大尉が掌帆手(ボースンズメイト)の一人ガイ・フォックス三等兵曹に手で合図すると、彼は持っていた工具で簡易エアロックの非常開閉装置を作動させる。


 エアロックの両側扉が開放され、空気が奔流となって彼らを押し流そうとするが、メインのエアロックが閉まっているため、通路内の空気が排出されると、その流れは止まった。


「これで完全に気づかれた。作戦通り、ブラボー隊はパワープラント(PP)に向かえ。アルファ隊はこの先の待機エリアに身を潜める。ナディア、幸運を祈る」


 そう言って、デンゼル大尉は次席指揮官であるナディア・ニコール中尉の肩に手を置いた。


「ブラボー隊、行くわよ。ファーマー、通信デバイスのばら撒きを。バーレイは敵の眼を潰して」


 ニコール中尉がそう言うと、アルマ・バーレイ二等技術兵は先頭を切って進み、黒い塗料のような物質を通路一面に薄くスプレーし始めた。


 ブラボー隊は一列になって進み、その最後尾ではグレッグ・ファーマー一等兵が時折、数ミリ角のチップを撒いている。


 バーレイがスプレーしているのは、BPXと呼ばれる導電性で、かつ、ある一部の周波数以外の電波を吸収する塗料だ。これは敵の電波系の監視装置や通信装置の無効化に使用する。


 ファーマーが撒いているのは通信用の小型中継局で、BPXに吸収されない周波数帯を用い、連絡を確保する道具になる。


 アルファ隊は自分たちが通った簡易エアロックを閉止し、ブラボー隊に着いていく。

 ブラボー隊はベースに入る最終エアロックに到着すると、樹脂系の爆薬、CX爆薬でエアロックを吹き飛ばした。


 ベース側から空気が流れるが、簡易エアロックが閉まっているため、すぐに空気の流れは止まる。仮に簡易エアロックが開いていると、施設内の減圧防止用緊急シャッターが下りることになる。


 このシャッターは宇宙ゴミ(デブリ)の衝突事故などにも耐えられる強固な物であるため、侵入・脱出が困難になる可能性が高い。


 無事にベース内に侵入すると、ブラボー隊は施設を破壊しながら、PPに向けて進軍を開始した。

 アルファ隊はエアロック横の保守用エリアに潜み、セシル・バトラー二等技術兵はそこにある端末からシステムへの侵入を試みる。



 標準時間〇八四〇。

 ブラボー隊が敵兵と接触、交戦を開始した。


 点検通路とPPに向かうメイン通路がT字になったところで、十名ほどの敵が待ち構えていた。


 メイン通路は運搬用の通路も兼ねているためか、幅五メートル、高さ四メートルと広く、遮蔽物が少ない。敵兵は運搬用クロウラーを遮蔽に使い、通路に出ようとしたブラボー隊に銃撃を加えてきた。


「元の通路に戻って! グレネード用意!」


 ニコール中尉が叫ぶと、兵士の一人がブラスターライフルに装着されたグレネードランチャーを敵兵に向かって撃った。


 爆音と共に敵の銃撃が止むが、ニコール中尉はクロウラーとは反対側にもグレネードを打ち込ませ、敵の様子を見る。


(おかしいわね? 簡易宇宙服(スペーススーツ)しか着ていない兵士が多いわ。技術兵なのかしら?)


 彼女は敵の装備が貧弱過ぎることに疑問を抱くが、すぐに敵の生き残りを排除し、PPに向かった。



 二十分後、ブラボー隊は敵の猛攻に晒された。

 PPまであと五十メートル、二つの隔壁を越えれば目標に到達できるのだが、十分前から敵の保安システムが復活し、自動防衛システムによる狙撃が開始されていた。


 それに加え、後方であるドック側から重装備の敵兵が現れたことから、メイン通路に釘付けにされてしまった。

 ニコール中尉、ラングフォード候補生以下、ブラボー隊十七名のうち、既に五名が戦死、二名が戦闘不能に陥っている。


「まずいわね。デンゼル大尉の方はまだかしら?」と散歩で忘れ物をした程度の軽い口調でラングフォード候補生に話しかける。


 この状況になっても一向にパニックにならないニコール中尉に兵たちは少し安心するが、彼女の心中は見た目ほど落ち着いているわけではなかった。


(本当にまずいわ。退却路を押さえられたのは誤算だった……あの装備だとこちらの武器では排除しきれない……)


 焦りを隠しながら、ラングフォードに指示を出す。


「ミスター・ラングフォード、エリソンと退却ルートを検討して。ファーマー、敵を抑えきれる?」


 ファニー・エリソン一等技術兵は「了解しました、中尉(アイ・アイ・マム)」と応えるものの、ファーマーから返事がなかった。


 ニコール中尉が振り向くと、敵の対装甲車両用レーザーによって上半身を吹き飛ばされたファーマーの下半身が目に入った。



■■■


 標準時間〇八五〇。

 エアロック横保守エリアに潜むアルファ隊は、バトラー二等技術兵のシステム侵入と情報入手を待っていた。


 二度目のシステム侵入であり、セキュリティレベルが上げられ、システムのシャットダウンなどの妨害工作は失敗したが、敵の防衛体制については必要な情報を手に入れていた。


「ベースの保安要員が二十名、通商破壊艦“P-331”からの応援が三十名。PPと主制御室(MCR)に十五名ずつ……ブラボー隊に五名やられているようだな、残りの十五名がPPへの通路で待ち構えている。今のところ陽動作戦は成功だ……まだ、通商破壊艦に五十名以上の兵士が、その他にも技術者が数十人いるな……」


 デンゼル大尉は呟くようにそう言った後、部下たちに向かって次々と指示を出す。


「……よし、ドックにある通常空間航行用機関(NSD)調整設備と超光速航行機関(FTLD)調整設備を第一目標とし、大型工作機械を代替目標とする。ジェンキンズ、キーオン、バーナードはCX爆薬の設置を、他の者は警戒に当たれ。クリフ、君がジェンキンズたちの指揮を執ってくれ」


 ジェニファー・キーオン二等技術兵とアイザック・バーナード二等技術兵はジェンキンズ兵曹とともに爆薬の準備を始めた。


 最も重要な任務の指揮を任されたことにクリフォードは驚くが、全体指揮を執る大尉が現場に張り付くわけにはいかないと気付き、納得する。


了解しました、大尉(アイ・アイ・サー)」とすぐに答え、ジェンキンズたちの指揮を執るべく、ダウンロードした図面を見ながら爆薬の設置場所の検討を始めた。


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