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アルビオン王国宙軍士官物語~クリフエッジと呼ばれた男~(クリフエッジシリーズ合本版)  作者: 愛山 雄町
第四部「激闘! ラスール軍港」

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第二十八話

 宇宙暦(SE)四五一九年十二月二十八日 標準時間〇四四〇。


 クリフォードはスヴァローグ帝国戦隊と雌雄を決することを決めた。方針を固めると、すぐに艦長会議を招集する。

 現状を伝え、更に自らの方針を説明していく。


「……状況は非常に厳しい。だが、勝機はある」


 クリフォードの言葉に高機動揚陸艦ロセスベイ1の艦長カルロス・リックマン中佐が承認するかのように大きく頷く。


「ロセスベイを失うのは断腸の想いだが、殿下の安全には代えられん。だが、一緒に戦えぬのは口惜しいな」


 今回、ロセスベイは囮として使うため、人工知能(AI)による完全無人航行となる。そのため、彼もロセスベイの乗組員や宙兵隊員と共に軍港内に残ることになっていた。


「しかし、敵を殲滅できるのでしょうか? 戦力的には敵の方が二倍近いのでは?」


 シレイピス545の艦長シャーリーン・コベット少佐が疑問を口にする。

 彼女の言う通り、アルビオン側の戦力である軽巡航艦一、駆逐艦三に対し、帝国側は軽巡航艦一、駆逐艦五、スループ艦三と数では二倍を超えている。


「コベット艦長の言うことにも一理ある」と全員を見回しながら、クリフォードは話し始めた。


「帝国の戦闘艦の特徴は攻撃力重視だ。逆にDOE5は防御力重視で、単純な攻撃力だけで比較すれば、一対二の戦力比になるだろう」


「それでも勝機があるとお考えですか?」とコベットが重ねて問うと、クリフォードは大きく頷く。


「確かに単純に攻撃力だけを比較すれば、勝機は見えてこないだろう。しかし、帝国艦には大きな弱点がある」


 そこでクリフォードはもう一度全員の顔を見ていく。


「知っての通り、帝国艦の攻撃力を高めている最大の要因はステルスミサイルだ。しかし、ミサイルには限りがある。特に帝国の艦は二連射分しか艦内に保有していない。つまり、ミサイルを撃ち尽くせば自慢の攻撃力は一気に落ち込むのだ……」


 彼は帝国の戦闘艦の弱点を述べていく。


 帝国の戦術思想は遠距離から高出力の主砲と大型ミサイルで先制攻撃を加えるというものだ。これはスヴァローグ帝国という国家の特徴が色濃く反映されているためである。


 スヴァローグ帝国はスヴァローグ、ストリボーグ、ダジボーグの三つの星系からなる国家で、千年近い歴史があるが、三つの星系は絶えず覇権を争っている。つまり、三つの星系はそれぞれ独立した王国であり、強力な指導者が現れた時のみ統一国家として機能するのだ。


 また、いずれの星系も単一の居住惑星しか持たず、防御のための施設を集中的に配置していた。


 そのため防御施設周辺での戦闘が多く、中途半端な防御力では要塞砲を防ぎえず、また機動力を有効に使用できるジャンプポイント(JP)周辺の広大な空間での艦隊戦は少なかった。これらのことから防御力や機動力よりも攻撃力を重視する傾向が強い。


 更に長く続く内戦により工業力が著しく低下しており、仕様の統一を図って凌いでいた。また、数十年ごとに統一国家となるため、装備は共通している部分が多く、鹵獲した艦や消耗品を使用できる。


 そのため、非武装の輸送艦は攻撃される前に降伏することが多く、輸送艦の数がアルビオンやゾンファに比べ多かった。


 これらのことから、帝国艦隊は輸送艦からの補給に頼る傾向が強く、艦内にミサイルの保管スペースを多く取っていない。


「……敵の軽巡航艦ルブヌイのシステムに侵入した際に、敵艦の情報も入手している。軽巡航艦および駆逐艦に搭載されているミサイル数は通常通りの二連射分だ。つまり、その二回の攻撃を凌ぎきれば、軽巡航艦シポーラの主砲以外、脅威となる攻撃手段はなくなる」


 シャーク123の艦長イライザ・ラブレース少佐が目を輝かせる。


「なるほど。ロセスベイを囮に使うのはその貴重な一連射分を消費させるためですね」


「いや、ロセスベイを無人で出撃させる理由は別だ」


 コベットが分かったというようにクリフォードに目を合わせる。


「戦隊の全ての艦が出港することに意味があるのですね」


 ラブレースは僅かに眉を上げてから口を開こうとしたが、それより先にクリフォードがそれに答える。


「その通りだ。全艦が出港すればDOE5に殿下が乗っていると敵は思うだろう。当然ミサイルは駆逐艦に集中する。ロセスベイ、DOE5の後方に駆逐艦が続けば、ミサイルを撃ち落す機会が増える」


 彼は敵がDOE5の護衛艦である駆逐艦を攻撃しやすいように誘導し、対宙レーザーを多く持つロセスベイとDOE5でステルスミサイルを迎撃しようと考えた。


「つまり、駆逐艦が囮ということですか。DOE5を守るために」とスウィフト276の艦長ヘレン・カルペッパー少佐が低い声で呟いた。


 クリフォードは「そうだ」と肯定する。


「あなたはコリングウッド艦長が私たちを囮にして脱出しようとでもいうの!」


 ラブレースが興奮気味に糾弾する。

 それに対し、カルペッパーは動揺を見せながらも「そ、そんなことは」と否定するが、それ以上の言葉は発しなかった。


「カルペッパー艦長の懸念は理解できる。しかし、この方法が最も効率的に敵の攻撃力を削ぐことができるのだ。ミサイルを撃ち尽くした帝国の駆逐艦は我が軍のスループ艦と変わらない。一テラワット級の主砲であれば、我が軍の駆逐艦なら後方から撃たれても防御は可能だ。つまり、敵は軽巡航艦一隻になるのだ。その時点で戦力比は一気に逆転する」


 カルペッパーは小さく首を振っているが、何も言わなかった。しかし、コベットがクリフォードに挑戦的な口調で食って掛かる。


「しかし、それは我々が生き残ったらという前提ではないのですか? 敵のミサイルは一連射で三十基です。ロセスベイとDOE5で全てを処理できるとは思えません。敵のミサイル“(チェーニ)”は我が軍のスペクター級に匹敵します。駆逐艦なら至近弾でも致命的なのです」


 帝国のステルスミサイル“(チェーニ)”はアルビオン軍の大型ミサイル、スペクターミサイルに匹敵する。スペクターミサイルは巡航戦艦を一発で轟沈し得る能力を持ち、脆弱な防御力の駆逐艦には過剰な破壊力だ。


「コベット艦長の懸念はもっともなことだ。ロセスベイとDOE5の対宙レーザーは合わせて三十六。この距離なら敵ミサイルは大して加速は必要なく、ステルス性が損なわれる可能性は低い。唯一の利点は発射されるタイミングが読みやすいことだけだ」


 ステルスミサイルは二十kGの強力な加速力とステルス性が武器だが、加速力が大きいほど、また加速時間が長いほど、ステルス性は損なわれる。しかし、敵との距離は一光秒、約三十万キロであり、ステルス性が損なわれるほどの加速は必要ない。


 ラスール軍港は全長十万キロの巨大な構築物であり、クリフォードたちがいる第二軍港は地上から約四万キロの位置にある。


 つまり先端である第一軍港と帝国戦隊までの距離は約二十四万キロとなるが、最先端の第一軍港には千を超えるレーザーがあり、レーザーの射程である〇・五光秒、約十五万キロの範囲内では三十基のステルスミサイルが破壊される可能性は高い。


 そのため、ラスール軍港の対宙レーザーの射程内でミサイル攻撃を受ける可能性は低く、対宙レーザーの射程を出た位置が発射のタイミングとなると考えていた。


 ロセスベイの加速度5kGに合わせたとしても、軍港の対宙レーザーの射程を抜けるまでに約九十秒、敵と最接近するには更に二十秒必要だ。

 シポーラの主砲の射程十光秒を抜けるには更に約三百六十秒掛かる。


 この時間が敵からの攻撃を受ける時間だが、敵が動かないという前提であり、追撃してくれば、攻撃可能時間は更に延びる。

 つまり、脱出という選択肢は分のいい賭けではないのだ。


「敵ミサイルについては、策は考えてある。敵がミサイルを撃ち尽くした時、我々が生き残っていれば、勝利は我が方のものだ。現状では敵がどう出てくるのか読めないが、我々が脱出しようとしていると敵が思いこめば、勝機は見えてくる」


 クリフォードはそう説明するが、彼もすべてのミサイルを撃ち落とせるという自信があったわけではない。発射のタイミングが読める最初の一連射分は何とか処理できるかもしれないが、もう一連射分のミサイルは敵が自由に撃てるのだ。


 更にミサイルだけでなく、シポーラの主砲も脅威だ。敵にミサイルが残った状態で、駆逐艦が一隻でも脱落すれば迎撃が難しくなり、全滅することすら充分にありえた。


 全員が頭の中でその光景を思い描き、重苦しい空気に包まれた。

 その空気を破ったのはコベットだった。彼女は立ち上がり、ベテランらしく胸を張って宣言する。


「小官もアルビオン王国の軍人です。艦長の作戦に対案を示せない以上、王太子殿下をお守りするための危険は厭いません」


 更にラブレースも同じように立ち上がった。


「艦長の作戦は合理的であると考えます。ここで手を(こまね)き、殿下の身柄を渡すくらいなら、自分たちの手で打開すべきだと思います」


 しかし、カルペッパーは動かなかった。


「カルペッパー艦長の意見は?」とクリフォードに問われ、何度か視線を彷徨わせるが、彼女を救う者はなく、仕方なく立ち上がった。


「小官も艦長の作戦を支持いたします」


 それだけ答えると、すぐに腰を下ろした。


「では、準備が完了次第、出港する。解散」と言って立ち上がった。



 クリフォードが戦闘指揮所(CIC)に戻ると、航法長のハーバート・リーコック少佐の所在が分からないと報告を受ける。


 入港後に自室に戻ったところまでは確認できているが、その後、自室どころか艦内のどこにも反応がなく、他の艦にいるという情報もなかった。


「探している時間がない。作戦中行方不明(MIA)として扱う」


 クリフォードはそれだけ言うと、リーコックのことを頭から締め出した。


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