めでたしめでたし
「ジュール、あなた、海の魔女にそんなお願いをしてたの?」
事の経緯を聞いた私は呆然としていた。
「うん…その、こんなボクは嫌いかい?ダイオウイカのままの方が良かった?」
ジュールがおそるおそる尋ねてくる。
「ううん、そんなことないわ。」
私は首を横に振った。
人魚になったジュールはとても美しかった。
晴れた日の空のような青い瞳に、高い鼻、海中で波打つ金色の髪。
厚い胸板に割れた腹筋が、とても勇ましい。
ミケランジェロの彫った彫刻みたいだ。
腰から下は私と同じ魚の尾がついているけれど、私と違って、尾が太くて大きい。
「今のボク、とてもカッコいいだろう?君が、ボクのことを心から信頼して、抱きしめてくれたから……」
ジュールは自分の姿を見せつけるように、たくましい両腕を広げて、その場で1回転してみせた。
「うん、カッコいい!でも私、あなたがダイオウイカでも人魚でも構わないわ。どんな姿でも、あなたはあなたじゃない!」
私はジュールの手を取り、きゅっと握った。
「……そうかい。」
ジュールは照れくさそうな顔をした。
「ねえ、私たち、これからもずっと、ずーっと友達よ?」
「うん!」
ジュールが笑って応えてみせた。
ハンサムの笑顔はサマになるなあ。
他の人魚から嫉妬を買わないか、少し不安だわ。
後日、「新しい友達ができた」と人魚になったジュールを王宮に連れてきてみたら、父も姉も祖母も、みんなして歓迎してくれた。
このハンサムな人魚が、あの恐ろしいダイオウイカだったなんて、家族の誰ひとりとして、絶対信じないだろうな。
さらに後日、あの女性は結局、王子様との婚約を破棄して、別の国の王子様と結婚することが決まったそうだ。
ちょっぴり弱気だけど勉強家で誠実で優しい男性なのよ、と嬉しそうに語っていた。
王子様はあの後も、しばらくは私を探し続けていたらしいが、最近とうとう諦めて、別の国のお姫様と婚約したみたい。
今度は婚約破棄されないよう願うばかりだわ。
側室を持つなら持つで、せめて相手とよく話し合うくらいはして欲しいものね。
そして私は、家族や友人と海の底で、楽しい毎日を送っている。
最高のハッピーエンドだわ。
めでたしめでたし。
一方、王宮とは別の方向にある海底の洞窟の中。
そこには、海の魔女が住んでいた。
その海の魔女は、その特殊な魔力を利用して、未来予知ができるのだ。
岩のテーブルの上に置いた水晶に、近い未来を映すことができる。
魔女はふと、「男の人魚になりたい」と願ってきたダイオウイカの未来が気になって、彼の未来をのぞいてみた。
そこには、きらびやか王宮で結婚式を挙げる男の人魚と人魚のお姫様の姿があった。
「うまくいったようだね。よかったよかった」
魔女は、近いうちに訪れるダイオウイカの幸福な未来を、心の底から喜んだ。