転生人魚姫
17歳で亡くなって、別の世界の女の子に転生するなんて今どきベタ過ぎる。
でも、こういうのって、普通は舞台が乙女ゲームとか少女マンガの世界のはず。
でも、私は例外だった。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、そして、妹のアキ。
私は人魚姫になりました。
そう、あの有名なアンデルセンが書いた人魚姫です!
「アナスン、あなたももうすぐ15歳ね。」
「髪飾りを作ってあげるわ。これをつけて行っておいで。」
「地上で何を見たのか教えてね。」
「サメやシャチには気をつけるのよ。」
「朝は朝焼けがキレイだし、夜は街の灯りがキレイよ。」
海底の王宮の大広間で揺蕩いながら、姉たちが次々に話しかけてきた。
原作の人魚姫は名前が出てこないが、今の私はアナスンという名前で通っている。
今の私には5人の姉がいて、母は亡くなっている。
これは原作通り。
他には父王とその父王の母、つまり祖母。
私たち人魚のお姫様たちは、15歳になれば海面に上がって外を見ることを許される。
これも原作の通りだ。
筋書き通りなら、地上の世界を見に行った私は、難破した船から落ちた王子様を助けて、その王子様に恋をする。
そして、王子様に会いたいがために海の魔女の元へ行き、自分を人間にして欲しいと頼み込む。
海の魔女曰く、一度人間になれば2度と人魚に戻れないし、ずっと人間として過ごすには王子様と結婚しなければならない。
できなければ、海の泡になるしかない。
「それでも構わないわ」と人魚姫が人間にするよう頼み込むと、海の魔女は美しい声を差し出すように要求。
そうして地上に上がって王子様に会えたはよかったけれど、結局結ばれることは無く、王子様は別の女性と結婚。
人魚姫は海の泡となって消えてしまう。
出版元や時代の変遷によって細かい違いがあるみたいだけど、大まかな展開はそんなカンジ。
でも、私は海の泡になんかなりたくない。
このまま海の底で家族と楽しく過ごしたい!
筋書き通りに外の世界へ行っても、王子様は助けない。
うん、そうしよう!
王子様はどうせ別の女性と結婚するし。
私はずっと海の底で家族と楽しく暮らす。
それでいいわよね!
みんながみんな、幸せだもの。
それが一番のハッピーエンドだわ。
破滅しないようにアレコレ手を尽くさなければいけない悪役令嬢に比べれば、ものすごく簡単なことだ。
私は手を出さなければいい。
新しい家族と楽しく過ごすうち、私は15歳になった。
「ほら、これ付けてらっしゃい。」
祖母が真珠で作った白百合の冠を頭に乗せてくれた。
「うん、ありがとう。行ってくるわね!」
祖母に礼を言うと、私は透き通った水の中を泳いでいった。
なんて気分がいいんだろう!
前世の私は生まれたときから寝たきりで、車椅子で生活していたから自力で泳ぐなんてできなかった。
この生活を捨ててまで海の泡になってしまうなんて、考えたくもない。