子供の性格は遺伝ではなく周囲の人間に影響される。
のっそりのっそり…
子育て。
それは一言で言えば簡単なようだが、そうはいかない。金銭的な問題、子供の精神的な問題。
さまざまな問題があなたに襲いかかるでしょう。まずはお家でのコミュニケーションをたくさんとってください。
子供とのコミュニケーションに関してはP38ページを参照。
「ふむ。コミュニケーションか。」
頼んでおいた資料は三日後に届いた。
何を勘違いしたのか、奴め最初はヒヨコだの卵だのとタイトルに書かれた赤子を育てるための資料を送ってきたのだ。
お陰でそれから2日後の今朝ようやく資料にありつけた。仕事じゃないからと手を抜きすぎじゃないだろうか。そう思わんか?
1人部屋の観葉植物に問いかけ、ながら資料に目を通し、結果的に言えば具体的なことは少しもわからなかった。
あれから四葉は心に壁を作りつつも「良い子」を演じ続けているようだし、おかげで私も手がかからなくて助かっている。
本音を言えば最初に会った時のように子供が子供らしくあるほうが良いのだろうが、その許可は最初に出したはず。つまりそれをしないということは自分の意思によるものだ。
ならば私がとやかく言うのもおかなしな話だろう。
「確か、子の性格は親よりもその周囲の人間に影響を多く受けるという話を目にしたことがあった。一度、奴の周囲を探ってみるか…」
読みかけの本を置き、いつも通りのスーツに着替え家を出た。
○
四葉のいる小学校は家からそう遠くはなく、
子供の足で20分ほどまっすぐ歩けば着ける場所にある。
「ふむ………四葉はどこだ。」
スコープを使って気づかれないであろう位置から眺めているが四葉の姿が見えない…。
発信機を辿る限り、学校にで間違いはないはず。盗聴器ではガキの声で全くではないが聞き取りづらい。なんで子供はこんなに奇声をあげるんだ?!
「あそこは動物園か何かか…」
すると偶然にも四葉の名前が聞こえた。
「四葉ちゃーん!早く早くー!」
「移動教室遅れちゃうよー!」
「ま、待って…着替えが終わらないよ〜」
ふむ…教科毎に教室を変えているのか。
一度潜入してみる必要があるかもしれないな…。
家の屋根を飛び越えながら学校へ向かい、途中掃除用具を持つ老人がいたため、眠らせ服を拝借。
我ながら完璧だ。
しばらく校内を歩くと数人の教師にすれ違った。ジャージ姿の男、スーツ姿の老人、老婆、
さまざまだ。学校の制度自体は以前になんとなく知ってはいたが、改めて入ってみるとなかなかに興味深い。
「あれ?クロ…さん?」
「は?」
服を引かれ、振り向くとそこには四葉がいた。
(しまった……。気を抜いていた…)
「わ、私はいつもの用務員さんの代わりで来たの。お嬢ちゃん、授業はどうしたの?」
「クロ…さん。ですよね…。その…わかります……」
なぜ…。
私の変装を今まで破ったものはいないのに…。
「変なことを言う子ね〜」
「うぅ……」
何を下向いて唸ってるんだコイツ。
それに、なんで私の変装を見破れたんだ。
まぁいい。とにかくこの場を去らねば…。
「それじゃあ、またね?」
「………」
四葉からの返事はなかった。
ただ、その場から動こうとはせず、黙ってその場に立ち尽くしていたのだ。
屋上へ向かい、盗聴器を起動させると四葉と友人と思しき少女の声が聞こえた。ようやく落ち着いて聞ける。
「どーしたの?四葉ちゃん」
「う、ううん。なんでもないよ!」
「元気なさそうだけど…」
「平気平気!」
「ならいいんだけど…。あ、そういえば誰か私のハンカチ知らない?」
「知らないなぁ。」
「私も見てない!」
友人関係に関して…特に問題はなさそうだな。
普通、とはよくわからないが、こう言うものなのだろう。
「私…さっき下駄箱で見たかも…」
「え!本当ー?」
「う、うん…」
『特に』問題はなさそうだ。
帰るとするか。
服を返しに老人の居た小屋に戻ると眠っていたはずの老人は青くなって倒れていた。
(……死んでいる?)