半人前
前回の続きです。
子育てを始めることになった。なぜあの時約束をしてしまったのか後悔をしているわけではないが疑問ではある。
今までもああいった場面がなかったわけじゃない。それこそ私もまだまだ半人前であることの証拠ともいえる。ただ、ああ言った場面で肉親を守ろうとする人は少ない。
それにあの姉がしていた目。どこか見覚えがある目だった。そうだ、だからだ。
(私は誰に説明している?)
「あれ?…」
少女は目を覚ますと周りを見渡し焦ったように家族を呼び続けていた。
「おはよう。小さなレディ。『僕』のことは覚えてるかな?」
「あ!お昼に会ったお兄さん!」
「うん。けど厳密には"昨日の"お昼に会ったんだけどね?」
「きのう?」
「君は疲れて寝てしまっていたんだよ。」
少女の名前は『相模 四葉』というらしい。四葉だなんて日本の漫画くらいでしか見たことがない名前だが。
確か四葉のクローバーの花言葉は「幸福」だったか、まぁ「復讐」なんて意味もあったはず。
(ある意味ピッタリな名前だ。)
軽く話をしてみたが、昨日は家に帰ってから寝てしまって記憶がないらしい。本能的に忘れさせたのか、あるいは…。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
「四葉ちゃん、これから残酷な話をするけど君は知っておかなくちゃいけない。聞く覚悟はあるかい?」
「え…えっと…」
このまま話してこの子は耐えられるだろうか。心配をしているわけではない。ただ教えた時どんな反応をするのかという好奇心には抗えないのだ。
「君の家族はね…」
そう言いかけた時、四葉の顔はみるみる青くなった。可愛い。
(しかし、これは今じゃないな。)
「いや、よそう。ごめんね。四葉ちゃん。とにかく、君が20歳になるまで『僕』と一緒に暮らすことになるけど、よろしくね?」
「パパとママとお姉ちゃんにはもう会えないの…?」
「素敵なレディになったら会わせてあげるよ。」
そう。素敵なレディになったら私がこの手で…。
四葉はただ頷いた。涙を堪えるわけでもなく、顔を俯かせたまま。
殺し屋は少女のその姿を見て納得し、またそこで失敗をしたのだった。
少女は顔を俯かせたまま、頬を赤く染め上げていたことを。
少女のポケットには自身の血が染み込んでしまったが、彼女からもらったハンカチが入っているということを