8
僕は鮎川進。 いじめられっ子だ、いつからいじめられてたと言えば成長してきてみんなとの体格差が出てきた頃。
もともと僕は気弱でドジで頭も良くないし運動神経もそんなにない。 いじめられる要素が揃っていたんだと思う。
いじめられるのは辛かったけどなんとか耐えてここまでやってきた。 そんな僕はいつ僕が弄られるか周りに常に気を張って過ごしていた。
高校に入学すると僕みたいに周りから浮いている生徒が1人いた。 それは新庄世那っていう生徒だ。 ううん、実際はもうひとりいる。
僕の憧れの人…… 宗方青葉。
宗方さんはいつもひとりで他人を寄せ付けないんだけど僕と違って優秀でそれでいて綺麗でキツい目付きだけど大きな目で色白で人形みたいな顔をしていて…… ああ、僕なんかと全然違うけどかっこいい。
女子からは「なんなのあいつ?」みたいに思われてるしそんなんだから近寄り難く思われてるけど男子からは密かにモテている。
そして新庄君。 彼もみんなと距離を置いて友達らしい友達が居ないように見えた。 僕と同じような人種がいた、そう思ってもしかしたら僕へのターゲットが切り替わるかもしれない…… なんて思ったのは愚かだった。
新庄君は根暗とかなんだとか噂されてたけど新庄君の前の席の斉藤さんが新庄君に話し掛ける時違和感を覚えた。
よし、話すぞと気合を入れて新庄君に話し掛けていたからだ。 もしかして斉藤さんは新庄君のことを…… と思ったらやっぱりそうか。
僕と同じで負のオーラというか自分と関わっても何にもいい事ないよみたいな雰囲気のくせに何故か斉藤さんみたいなクラスでも可愛いって評判の女の子に好かれている。 新庄君と僕と違うところは背も大きくてよく見れば僕よりかはいい顔をしているだけ。
だけと言ったけど生まれ持ってのことなので僕ではどうしようもない。
なんだよ、あんな性格の悪そうな奴なのに結局はそこか? 新庄君みたいだったら僕もいじめられずに穏やかに日々を過ごせたのか? そんでもって斉藤さんみたいなスペックが高い女子からもモテるのか? でも僕が好きなのは宗方さんだ。
そう思っていたある日宗方さんを観察しているとまたも違和感を覚える、斉藤さんに心なしかキツく物言いを言うことが増えている。
今まで誰か特定の…… なんてなかったが宗方さんは斉藤さんにだけ嫌にキツく物を言う。 これってまさかあの宗方さんって新庄君のことを?
そう思った時から僕は宗方さんと新庄君と斉藤さんを注意深く見ていた、しょうもないことで宗方さんは斉藤さんに文句を付ける。 今までの宗方さんなら我関せずということにもだ。
それは斉藤さんが新庄君を好きだから? 僕は宗方さんを密かに思っているのに僕の想いは宗方さんに届かない、なのにあんなぶっきらぼうな奴がなんで宗方さんを……
そんなある日前から僕をいじめていた前田が来たことと宗方さんが新庄君を好きかもしれない、なんで僕はいじめられてるんだ? そういった考えが魔が差したんだと思う。
僕は新庄君に向かって指を差していた。 それから教室の中は静まり返って新庄君にみんなの目が刺さる、斉藤さんが否定したけどここまで来たら嫌でも新庄君に視線が走る。
新庄君は前田の近くに来させられた。 僕は新庄君も僕と同じ立場になればいいと思った、君を好きな子はいるんだろうけど僕らってちょっとは似たようなもんだろ? そう思っていると……
「すっっごく邪魔」
宗方さんがそこにはいた。 物凄く怒った顔で前田を見ている、何でこんな奴を庇うんだ宗方さん? そんなにそいつのことが好きなの? 僕がいじめられている時はまったく関わろうとしなかったくせに。
そしてあろうことか前田は宗方さんの胸を揉んだ。 そしてみんなが見ている前で宗方さんのスカートも捲った。
宗方さんの下着がハッキリと見えた。 宗方さんの下着、水色だった…… そうポケーッとしていると宗方さんの胸を揉んで更には下着まで見て満足したのか前田は教室から出て行った。
前田の奴、宗方さんによくも…… と思ったのだが宗方さんの下着なんて僕には見る機会がないかもしれないしそこだけは見れて良かった。 なんて思っていると急に宗方さんに胸ぐらを掴まれて廊下に引き摺り出された。
も、もしかして宗方さんやっと僕に意識を向けてくれたのか? 初めてだ、理由はどうあれ僕は今宗方さんを夢中にさせている、そう感じた。
僕が歩みを止めようとすると宗方さんはグイッと僕を引っ張る、なんか幸せだ。 本当に今宗方さんは僕に気を割いていていてくれてる!
僕は人気のない階段の踊り場の壁際に押し付けられて宗方さんは僕に顔を近付けた。 宗方さんの息が僕の顔に当たり顔を少し動かせば唇が当たるくらいの距離まで来た。
「ねぇ? どういうつもりなの?」
宗方さんの吐く息が僕の少し開いた口に入る。 こんなに女の人に近付かれたのは親以来で僕はドキドキしていた。
宗方さん、宗方さんッ!! 僕を見てる宗方さん。
けど全くそんなことはなかったと宗方さんの言ったことで目が覚めた。
「世那君にどうして擦り付けたの?」
僕が抱いていた宗方さんへの想いはそこで打ち砕かれる。 僕を見ていたんじゃないの? 僕のためにここまで来たんじゃないの?
「あんなことしていいと思ってる? 黙ってないでなんとか言えば?」
宗方さんをの目を見ると僕を見ているようで見ていない。 そうか、僕は何を勘違いしてたんだ、宗方さんの好きな人は新庄君だ、これはもう決定的だ。
それから宗方さんが何を言っても僕の耳に入ってこなかった。 そしてそのうちに新庄君と斉藤さんがやって来た。
「おい青葉」
新庄君の声が聴こえた途端宗方さんはピクッと反応した、僕にはこんな冷たい目を向けているのに新庄君が来て声が聴こえると宗方さんの目に光が灯ったのを僕は見逃さなかった。
ああ、僕にはそんな目をしてくれないんだ、僕は新庄君とは似ているようで全然違う。 宗方さんがいないから……
その日の放課後新庄君と供に前田のところへ行くと新庄君が前田に喧嘩を売るようなことを言い出して険悪な雰囲気になると宗方さんが先輩を引き連れてやって来た。
宗方さんどうしてそんな人達と知り合いなの? と思っていると前田はその先輩達にボコられ宗方さんは僕のことも責めてきた。
いじめていた前田はボコボコにされスッキリすると思ったけど好きだったはずの宗方さんに嫌われてしまった僕の心は何も晴れることがなかった。