6
12月になったある日のこと……
「おい鮎川〜、来てやったぜ」
「………」
「んだよその態度!?」
ドンと机が叩かれる。 前からなのだがこのクラスではいじめが横行していた、いや厳密に言うと隣のクラスの前田 研二という男子がうちのクラスで気弱な男子の鮎川 進をいじめていたのだ。
先生は普通にスルーだし相変わらずだなこの学校。 お調子者の木戸も前田が来ると「あ、どうも」みたいな感じでお調子者キャラのなりを潜めている。
前田は強面でこわもてで面倒そうだしそうなるのも仕方ないし触らぬ神に祟りなし、関わらないのが1番だろう。
そんな前田の度重なるいじめに嫌気をさしていたのかその日の鮎川は……
「おいッ!!」
ビクッとした鮎川は何故か俺に指を差した。
「あん?」
「ぼ、僕…… 持ってきたお金新庄君に盗られて渡す分がない」
「はぁ〜? 新庄??」
はぁ!? 何言ってんだあのバカは? 俺がお前の金を盗るだって? ふざけんなよ!
そしてクラスの全員の目が俺に向けられる。
「そんなわけないよッ!! 新庄君がそんなことするわけないじゃん」
斉藤がすぐさま否定してくれたが前田の注目をひいてしまったのでもう遅かった。
「あ〜、お前が新庄か。 鮎川がそう言ってるんだけどどうなんだ?」
お前だってそんなの鮎川の逃げ口実だったわかってるくせにいちいち俺に聞いてくるなよな。
「盗るわけないだろ」
そう言うと前田はニヤリと笑う。 話聞きそうにないなこいつ。
「まぁいいや、お前ちょっと来いよ」
「し、新庄君……」
「いいよ斉藤、どうせあいつ誰かをぶん殴りたいだけだろうし」
「ああ!? 聴こえてんぞ!」
溜め息を吐いて前田のところへ行くと前田は隣に居た鮎川の胸ぐらを掴んで立ち上がらせた。
「じゃあ連帯責任ってことでお前ら2人顔かせよ」
「ちょっと待って!」
斉藤が何か言おうとした時……
「ねぇ」
「あ?」
青葉がいつの間にかすぐ近くに立っていた。
「すっっごく邪魔」
青葉は物凄く怒っているような顔をしてそう言った。 教室の中の連中は今度は青葉に注目する。
「宗方じゃん、へぇー。 お前近くで見るとすげぇ可愛いじゃん」
「そんなのいいから。 あんた邪魔だし私そこの世那君に用事があるんだけど?」
「こいつに? なんの?」
「あんたに関係ある?」
「ふ〜ん」
「ッ!?」
前田はなんといきなり青葉の胸に手を置いて揉みだした。
「は? 何?」
「いや〜、別にッ!!」
更に今度は青葉のスカートをみんなの前で乱暴にめくった。
「ぎゃはははッ! パンツ丸見えッ、いいもん見たぜ。 だから戻るわ、それと鮎川とええと新庄だっけ? 後で顔かせよ」
そう言って前田が去りチラッと青葉を見ると眉間にシワを寄せとてつもなく怒っている表情だった。 こいつのこんな顔いつぞや斉藤とのイザコザの時以来だ。
「鮎川君来て」
「え? ぼ、僕? うわッ」
今度は青葉が鮎川の胸ぐらを掴んだ、それから廊下に出て行った。 なんかマズいぞこれと思った俺は青葉と宗方の後を追う。
「新庄君!」
「え、斉藤なんで来るんだ?」
「だって新庄君が心配だし宗方さんも」
「いや俺よりあいつまた変なことしないといいけど」
そして2人で青葉と鮎川を探すと2階の階段の踊り場に居た。 青葉はこっちに背を向けているが青葉に迫られていた鮎川は半分泣き顔だ。
鮎川が俺らを見つけると助けてみたいな顔をしてこちらを見てくる、巻き込んだくせになんて勝手な奴なんだよ。
「おい青葉!」
「し、新庄君助けて、ひッ!!」
「ねぇ、どこ向いてるの? 私があんたに話してるのよ、あんなことしておいて私にも不快な思いさせておいてどういうつもりなの? 死にたいの?」
これじゃどっちが横暴なのかわかんねぇ。
「宗方さん、ちょっと落ち着こうよ」
「うるさい黙れ、引っ込んでろ。 てかなんであんたが来てんの?」
斉藤が青葉を宥めようとするが一蹴させる。
「青葉、こいつを追い込んだって仕方ないだろ?」
「は? 世那君こいつに無実の罪をなすり付けられておまけにあんなのに目を付けられてていいの?」
「俺もこいつにはムカついてるけどさ、今更なったもんはどうしようもねぇだろ?」
その時鮎川が青葉に掴まれていた手を強引に払った。
「ぼ、僕のせいなの? 僕が悪者になればいいのかよ? 悪いのは前田なのにッ!! みんな僕がいじめられてても知らんぷりで、僕はッ」
「調子こいてんじゃないわよ、そんなの自分でどうにかしなさいよ。 やってもない世那君に押し付けて何言ってんの?」
青葉がまたも鮎川に詰め寄った。
「だ、だからどうにかしようとして僕は……」
「あーそっか、どうにかしようとしたつもりなんだ? 偉いね、私ら巻き込んでなきゃ」
「む、宗方さん、でもいじめを知らんぷりしてた私達にも責任はあるし前田君にはもうこんなことやめようってハッキリ」
「本気でそんな甘っちょろいこと言ってんの? あいつにそんなこと言って聞くと思うの? それともあんたがどうにかするの?」
「いいから不毛な言い争いはやめろよ、俺と鮎川が話をつけてくるよ。 どうせ用があるのは俺と鮎川なんだしさ」
俺がそう言うと青葉はパッと鮎川から手を離した。
「はぁー、こんな奴のためにそこまでしなくてもこいつだけ突き出せばいいのに世那君少し丸くなったね」
「あ、あの僕は……」
青葉に「うるさい」と言われ鮎川は縮こまった。 まぁ本当にちょっと前なら鮎川なんて突き出してたんだけど。