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青葉がいきなり夜に俺の部屋に酔っ払いながら押し掛けて来てトイレへと駆け込んでから数分経った頃……
「うあー……」
「スッキリしたか?」
「うるさいバカヤロー」
まだ酔ってるなこいつ。
「なんで酒なんか飲んでんだよ?」
「寒いから飲むに決まってるでしょ、あんぽんたん」
お前はロシア人かよ?
水を差し出すと青葉は壁に寄り掛かって座る。 そんなフラフラでよくここまで来たよな。
「座るとグワングワン回ってきた」
「何が?」
「世那君が。 あはあはッ」
「お前ヤク中みたいだな」
青葉はテーブルに置いた水を取ろうとしたのだが溢されそうなので手に持たせた。
「世那君ー、水飲ませて」
「本当にしょうがない奴だなお前は」
「うれぴー…… 早くぅ」
青葉に寄って水を飲ませると勢いが良すぎたのか口から溢れて顎から喉に伝い胸元に水が滴れる。
「うひッ、ちべたい」
「あ、悪りぃ。 つーか酒臭いなやっぱり」
「あは〜ッ、ありがとー」
「褒めてんじゃねぇよ、呆れてんだ」
「そんな顔しちゃいやーん、てかまだ呆れるとこあったんだねぇ」
「ほんとだな」
それにしてもこいつの格好…… 部屋着っていうかパジャマだろ、よく寒くなかったなぁ。
「いくら酒飲んでたとしても寒くないのかそれ?」
「言われたら寒くなってきた、この部屋も寒い。 私があげたストーブ付けろ」
「はいはい」
節約してたんだが青葉の格好が寒そうなので仕方なく付けてやると青葉はストーブの前に座った。
「うあー生き返る」
「バカじゃないのか」
「うっさい! イチャイチャ見せつけやがってこのヤロー」
「イチャイチャはしてないだろ」
「私からイチャイチャに見えたらイチャイチャなんだっつの! ……… あうう…… 興奮させないでよ、また吐きそうになってくる」
やれやれ、騒がしい奴だな。 明日も学校があるんだしこいつはこの状態で大丈夫なんだろうか?
「お前さ、いきなり俺の部屋に来たけどどうするつもりだ? 送って行こうか?」
「気持ち悪いからもうなんもしたくない、ここで寝る」
「制服とかどうするんだよ?」
「明日早起きして帰ればいいじゃんか、ウダウダ言わないでよ」
と言っていた青葉がウダウダ言いつつ俺の寝心地の悪いベッドを占領して寝てしまったので俺は床で寝ることになった。
寝ている時青葉の「ううーん」とか「ふへへ」とか寝言で時折目を覚ましたが朝方になった。
「おい青葉、起きろ」
「んん…… まだ寝てる」
「遅刻するぞ? ここお前の家じゃないんだぞ」
「え?」
そう言うと青葉はパチッと目が覚めたみたいだ。
「ふあああ。 …… おはよー」
「何がおはよーだよ、さっさと支度しろ」
「昨日は酔ってたみたい」
「んなもん知ってる」
「お風呂入りたい」
「そんな時間ない」
「私お酒臭い?」
「ほんのりとな」
青葉は自分の匂いを嗅ぎ始めると「うええ」とえずいていた。
「どぉしよ? 学校は余裕だと思うけど」
そうだろうな、なんせうちの学校超適当だもんな。
「とりあえず……」
「うわッ、酒臭ッ」
「せっかくハグしてんのにそれはないでしょー?」
酒臭い青葉は俺に抱きついてきて顔をすりすりする。 だから時間無いって言ってんだろうが。
「離れろバカ」
「バカは世那君、もし昨日私が酔い潰れてる時に世那君襲ってきたら私無抵抗だったかもよ?」
「それ以前にゲロ吐かれそうだったし」
「ふふん、私を襲う勇気がないだけでしょ」
青葉が俺に密着した状態で顔を上げ見つめてきた。
「あ、勃ってる?」
「いや、邪魔」
「んもうッ!! ムード出してあげようかと思ったのに」
こいつ学校サボる気だな。 俺はただでさえ施設の人に迷惑掛けているので行かせてもらっている立場上おいそれと休むわけにはいかないんだよ。
「え? え!? 私を送って行くつもりじゃなかったの?」
「最初はそう思ってたけどやめた、だってお前動く気なさそうだし」
「あはッ、バレたか」
ペロッと舌を出して青葉は戯けたように言った。
「それで〜? 世那君もサボり?」
「んなわけないだろ、俺はもう学校行くからお前は好きにすれば?」
「世那君朝ご飯は?」
「今日はいい」
「作ったげようかと思ったのにー!」
「嘘付け、それに作るほど買い置きもないし」
「…… ところで世那君寒いんだけど。 ストーブ灯油切れだよ?」
「じゃあ我慢するしかないな」
「ドケチ! 薄情者! 恩知らず! 二股ヤロー!」
最後に二股と付けられた俺は玄関からさっさと出た、これで快適な自分の家にあいつも帰るだろう。