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「ねえねえ新庄君」
「あ?」
廊下で斉藤の友達の藤岡 舞に声を掛けられる。 こいつが俺に話し掛けてくるなんて珍しいな、ろくでもないことだろうなと思うと……
「新庄君この前沙優奈とデートしたんでしょ? デート!」
そうら見ろ、これみよがしにデートという単語を連呼しやがる。
「デートってわけではない。 会ってどっかに行っただけだ」
「わッ!! ホントに行ったの? 沙優奈が随分機嫌が良いからもしやとは思ったけど」
こいつ…… カマかけやがった。
「それをデートって言うんだよ、勿論2人きりで会ったんでしょ?」
「知らねぇよ」
「わわッ、相変わらずいつにも増してノリが悪いなぁ新庄君は」
じゃあ下らないことで話し掛けんなよ、直接斉藤本人に聞けばいいじゃねぇか。
「まぁまぁ。 あの新庄君が沙優奈とデートするまでになったかぁ〜ってこっちは感慨深いんだから。 沙優奈も新庄君もウブなんだし」
「はぁ? 俺はそんなの興味ないし」
「まったく〜! 宗方と沙優奈以外には冷たいんだから」
俺が青葉と斉藤以外に冷たい? そう言うと青葉と斉藤には優しいみたいに聞こえるじゃねぇか。 いや…… そうなのかも。 青葉と斉藤はこんな俺にってそんなのは今はどうでもいい。
「一時はどうなることかと思ったけど沙優奈とも上手くやってるんだし沙優奈の友達としては安心かな! 宗方がまた変なことしてこない限りはね」
「なんのこと?」
「ほらほらまた宗方のこと庇っちゃったさ。 まぁいいか、これからも沙優奈と仲良しであげなよ」
それが言いたかったのか?
藤岡は教室に戻って行った。 そして昼休みになると斉藤がクルりとこちらを向いた。 満面の笑みだ、嫌な予感……
「新庄君、今日は一緒にお昼食べよう!」
「そんなこったろうと思った、けどいいのか? 俺と一緒に教室でお昼食うなんて」
「気にしない気にしない! あ、そうだ宗方さんも一緒にって、あれ!? 居ない」
「あいつならお前が後ろ向いた時に教室から出たったぞ?」
「ううぅ…… タイミングが合わなかった」
それ以前に斉藤に余計な提案される前にきっと青葉が退散してるんだからそりゃあ合わないだろう。
「無理に誘うこともねぇよ、あいつもあそこまで斉藤をボコボコにしたのになんで自分にこんなに優しくしてくれるんだろって戸惑ってんだよ」
「それはだって…… いつまでもいがみ合ってたら誰のためにもならないよ。 それに新庄君みたいに宗方さんと仲良くなったら気が合ったりして。 なんて」
青葉と斉藤が気が合う…… なんて俺を好きだって言ってくれてることくらいか? 逆に争う原因にしかなってないけど。
「新庄君?」
「ん?」
「お弁当それで足りるの?」
俺の弁当を見て斉藤がそう言った。
俺の弁当はその日の気分で多かったり少なかったり面倒な時は冷食のオンパレードだったりあるいは作ってこなかったりだ、今日は朝眠かったので少なめ。
「ああ、朝怠かったからさ。 別に大丈夫だよ」
「新庄君せっかく料理出来るのに勿体ないよぉー。 あ、そうだ! これとこれあげる」
斉藤は俺に卵焼きと唐揚げを自分の弁当箱から俺の弁当箱に移した。 俺のを少ないと言う割に斉藤の弁当箱も結構小さいんだけどな。
「お前こそ食べるのないんじゃないの?」
「私はダイエット中、私重くないからね! えへへ」
この前バイクの時でのことをまだ根に持ってたのか。
そうしてその日は終わり俺は家に帰って風呂から上がった頃……
ガチャガチャと玄関のドアノブが動き止んだかと思うとドンドンドン! と部屋の玄関が勢いよく叩かれた。 こんな夜に誰だろう? そもそも俺の家に来るのは施設の人か?と思っていると。
「はぁッ!?」
玄関からそんな甲高い声が聴こえガン!と音がした。
あの声まさか!と思ってドアを開けると青葉だった、ドアを開けた俺を鋭い目線で睨んでいた。
「なんで鍵かけてんだよ!?」
「そりゃ用心のためだろ、今のお前みたいな奴が入って来ないように。 つかなんで来た? お前なんか……」
酒臭い。 よく見るとほんのり顔も赤い。
「お前酒飲んだろ? でもって酔ってるだろ!?」
「酔っててここまで来れるかっての!」
「酔ったから来たんだろ勢いで!」
「酔ってない、取り敢えず入れろ!」
俺をドンと押して部屋の中にズカズカと入ってくる。
「お前靴くらい脱げ!」
「ひやあッ!」
よろめいた青葉が俺に寄り掛かった。 絶対酔ってやがるこいつ…… なんで酒なんか飲んでんだよ?
「ぎもぢわるい……」
「それが酔ってんだよ、どんだけ飲んだんだガキのくせに」
「世那君こそガキのくせに、ううッ」
「バカここで吐くなよ!? トイレに行け!!」
青葉を急いでトイレに向かわせると吐いているのか苦しそうな呻き声が聴こえる。
何やってんだあいつは……