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「新庄〜、あれから前田のパシリになったか?」
「ああ? そんな風に見えるか?」
「つーか何があったんだよ? 鮎川のいじめもピタッと止んだしお前もなんともないってことはお前が前田をやっちまったの? 前田しばらく学校休んでるし」
木戸が聞いてきた。 それはあの3馬鹿トリオの先輩が前田をボコったから傷が治るまでしばらく来ないんだろうとは言えないしな、こいつに言うと面倒そうだし。
「知らねぇよ、反省でもしたんじゃねぇの?」
「んな奴に見えるかぁ? っておい、何寝ようとしてんだよ。 相変わらずノリ悪い奴だなぁ」
俺は木戸を無視して机に突っ伏した。 はぁー、んなもんもうどうでもいい。 青葉も斉藤もあれ以上何事もなかったし……
って俺は結局青葉と斉藤両方好きでそんなハッキリしない俺でも好きなんだよな2人とも。 そりゃあ青葉に二股なんて言われるわけだ。
休み時間になりトイレに向かうと誰かにつけられているよな気がした。 なので俺はトイレに入ってすぐに出るとそこにはギョッとした鮎川がいた。
「またお前かよ」
「ど、どうも……」
「俺になんか用か?」
「この前のことお礼言うの忘れてて」
前田の時のことか? 俺は大したことしてないのにな。
「お礼なら青葉に言えば? 結局どうにかしたのあいつなんだからさ」
「あ、いやでもありがとう、僕勝手なこと散々言っちゃってごめん。 それと宗方さんにもお礼が言いたいから僕と一緒に宗方さんのところへ行って欲しいんだけど」
なんで青葉のところに礼を言うのに俺が必要なんだ? 面倒くさい、そんなの自分ひとりで行けよな。
「んじゃあ俺が青葉にお前が礼言ってたって伝えてやろうか?」
「い、いや! 直接伝えたいから」
はぁー、やっぱ面倒な奴だなぁ。 青葉の奴学校ではツンケンしてるからあんまり絡まないんだけどな。 あ、そうだ。
「んじゃあ放課後美術室来いよ」
「え? 俺美術部でさ、あいつもそうなんだわ。 それに放課後の美術室人来ねぇしな」
「へ? う、うん、わかったありがとう新庄君」
そうして放課後になった。
「珍しいじゃん世那君が美術室に直々に私を誘うなんて。 もしかして私世那君に告白でもされるの?」
「んなわけ…… じゃねぇや、お前に用事がある奴がいるんだわ」
「は? 私に?」
「多分そのうち来るはずだから待ってろよ」
「何よそれ? 嫌な予感がするわ」
青葉は椅子にドカッと座り俺を睨んだ、特に描きたい絵もないので俺も椅子に座りすぐ目の前の正面の青葉を見た。
お互い見つめ合って沈黙のまま5分くらい過ぎただろうか。 何やってんだこれ? と思い始めた頃……
「せーな君ッ!」
「は?」
いきなり青葉がニコッと笑って甘えたような声になる。 さっきまで睨んでたのに……
「その変わり様何?」
「ずっと睨んでるとお肌にシワが出来ちゃいそうだから。 それに2人きりだしね」
「お前に用事がある奴来るの忘れてないか?」
「バックれちゃおうよ? そんなに大事な用事でもないだろうしさ」
「そんなんお前わかるの?」
まぁ確かにそんなに大事な用事でもないけどさ。
「そうだ、また私の家に来ない? 貧乏くさい世那君の部屋と違って暖かいし広いし何より私と2人きりだよ」
「貧乏くさいは余計だろ。 んー、まぁ考えとくわ」
「あ、はぐらかすー!」
そんな会話をしていると美術室の扉が開いた。
「し、失礼します」
遠慮しがちに鮎川は俺と青葉を見て入ってくる。 そんな鮎川を見て青葉を見ると一気に冷めた顔になっていた、目も据わってる。
「私に用ってあんた?」
「そ、そうです!」
恐縮しながら鮎川は返事をする。
「それで?」
「この前は僕を助けてもらって…… 凄く嬉しくて」
「ああそれ。 別にあんたを助けたわけじゃないわ、仮にもしあんただけだったら私は何も手出ししなかったもの。 ついでにあんたも助けたみたいになっちゃったけどそういうことだから気にしないで」
相変わらずひでぇ…… そこは嘘でもどういたしましてって適当に済ませばいいだろうに。
「…… だ」
「は?」
「嘘だ、それは嘘だ。 宗方さんは優しいから、僕が何も気にしない様にそう言ってくれてるんだよね?」
「おいおい、お前それ強引過ぎないか? こいつってばマジでそんな奴じゃないぞ」
「ぼ、僕は宗方さんと話しているんだ!!」
声量大きめに鮎川に返された。 こいつ何ムキになってやがんだ?
「バカなの? 言っとくけどあんたは世那君売ったわけで私に恨まれこそすれ喜ばれる道理なんてないのよ? 世那君が大目に見てあげてるから何も制裁しないだけであってあんたは私の王子様を売ったクソヤローに変わりはないの」
「こ、こんなのが宗方さんの王子様…… ?」
鮎川は信じられないという顔で俺を見た、まさかこんなの呼ばわりとは。 まぁこんなのが青葉にとってはいいらしいんだけど。
「あんた私をバカにしてんの?」
青葉の声がキツくなり鮎川の肩の服を掴んで壁に押し寄せた。
「僕はッ、僕は宗方さんが好きなんだ!! いつもクールで孤高で頭も良くて綺麗で」
ホントのこいつは特段クールってわけじゃないけどな、暴走列車みたいな奴だ。 って鮎川の奴青葉のことが好きだったのか!?
「へぇ、何それ? 薄っぺら。 じゃあそんな告白してあげた鮎川君に私も告白してあげる」
ゴクリと鮎川を唾を飲んだ。
「私はあんたが大嫌い、ネチョネチョしたその態度に世那君コケ下ろして自分を上げようって姿勢が気に入らない、あんたはチビだし弱っちいしグズでノロマで全てが大っ嫌い!」
「違っ」
「違ってないじゃない、女の子にも勝てないんだね? あー情けなッ!」
「青葉、お前それ以上はやめとけよ、それじゃあ前田と同じじゃねぇか」
「あいつの気持ちもうっすらわかるわ、ふん! 行こう世那君」
青葉は俺の手を取って美術室から出て行く。 出て行く時扉の隙間からチラッと見えた鮎川は泣いているのを見ると俺は溜め息が出ていた。