表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MAESTRO-K!  作者: RU
S3:猫と盗聴器

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/105

15.素晴らしい夜

 俺は、白砂サンが声に感情を滲ませたことより、言ったセリフの内容にたまげて凍りついた。

 が、コグマはそんなこと微塵も気にならなかったらしい。


「当たり(まえ)じゃないですかっ! 僕達はオトナのお付き合いしてるんですからっ!」

「申しわけ無いが、君とご休憩に(ハイ)るのは、君が考えを改めてくれない限り、御免(こうむ)る!」

「兄さん。白砂サンの言ってる "ご休憩" とは何ですか?」


 赤裸々に言い争う二人にビックリしていたら、眉間に皺を寄せた深刻な表情の敬一クンが俺の想像の斜め上を行く質問をしている。


「あーゴメン、質問はあとにしてチョ」


 答えたシノさんは先程までの怒り心頭モードから、野次馬モード全開のゲス顔になっていて、喧嘩を止めるどころか、二人の赤裸々なやり取りを楽しんじゃってるのが丸出しだった。


「じゃあ聖一サンは、僕とどういう付き合いをするつもりだったんですかっ!?」

「私も当然、大人の付き合いを希望している。だが、君が問題点を自覚して改善するまでは、君とセックスはしたくない」

「僕に問題点なんて無いでしょうっ!」

「やっぱり君は、常に自分だけが満足していることを自覚していないのか……」


 鬼司令官みたいな顔に、一瞬だけ蔑む色が浮かんだ。

 それだけでもコグマには相当のダメージだっただろう。


「自分だけ……って、初めてのデートの時なんて、あんなに素晴らしい夜だったじゃないですかっ」

「記憶の改竄がなされてないなら、夢じゃないのかね」

「どういう意味です?」

「ご休憩2時間のうち、正味1時間以上寝ていたことを覚えていないのかね?」

「そ……っ、それぐらい、普通でしょう?」


 コグマは狼狽えた顔で同意を求めるように視線を彷徨わせたが、意味が解っていない敬一クンは当然のこと、ゲス顔のシノさんや日和見な俺が肯定する(わけ)も無い。


「そもそも君は、最初に私の部屋を訪れた時、玄関に飾ってあったロキュータスの等身大フィギュアに驚き、廊下でエイリアンに驚き、そこで蹌踉めいて棚に飾ってあったエンタープライズを落とし、ワープナセルを損壊した。ワープナセルが当たったミスタースポックの胸像にも、傷が付いてしまった。だが君は自分が驚く(ほう)に忙しくて、それらのことにも気付かなかっただろう」

「今さらそんなコト……、言ってくれれば弁償しましたよ!」

「弁償をしてもらおうとは、思っていない。そもそも君が私のコレクションに怯えていることに気付かず、部屋に招き入れてしまったのだから、責任の一端は私自身にもあったのだからな。しかしどんなに情状酌量の余地があったとしても、同じ過ちを繰り返すことは問題だ」

「繰り返してなんかないでしょう? 聖一サンが部屋に招いてくれたのは、(あと)にも先にも一度だけじゃないですか」

「当然だ。私は私のコレクションをこれ以上(きみ)に壊されたくはないからね」


 容赦なく一言で切り捨てられて、コグマはググッと黙り込む。

 白砂サンは、更に続けた。


「私は自身の過ちを反省し、同じ過ちを繰り返さないように学習した。だが君は、デートの誘い文句からして、毎回同じではないか。更にセックスに関しても、最初のうちは相手の好みが解らずに上手くいかないことは致し方ないとして、その後も全く改善されないままなのは、問題ではないのかね?」

「どういう意味ですかっ?」

「少なくとも、相手が快感を得られたかどうかぐらいは、当たり(まえ)のマナーとして気を払うものでは無いのかと言っている」

「そんな、聖一サンの見てる外国ドラマのレイプ犯じゃあるまいし! いちいち相手に "良かった?" なんて、(だれ)も聞きませんよ!」

「いちいち訊ねろとは言ってない、相手の様子から察するのが、当たり(まえ)のマナーだと言っている」

「僕の気遣いが足りなかったって、責めてるんですか? 女みたいにっ!」


 言ってしまってから、コグマもさすがに "しまった" って顔をしたが、白砂サンの強張った表情はそんなモンじゃ無かった。

 そしてとうとう最大の爆弾発言が飛び出てきたのだ。


「君との行為の時、私は一度たりともイッてないよ!」

「え……えええっ!!」


 コグマの顔面が、蒼白になる。

 逆にいつもは血の気が足りないぐらい白い顔をしている白砂サンの(ほう)が、赤くなっていた。

 らしからぬ乱暴な所作で置いてあったアタッシュケースを掴むと、白砂サンはシノさんに振り返る。


「申しわけ無いが、失礼する」

「あ、聖一サンっ!」


 コグマを無視して白砂サンは部屋から出ていってしまい、コグマはオロオロと狼狽えた末に、(あと)を追うようにペントハウスから慌てふためいて飛び出して()った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ