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MAESTRO-K!  作者: RU
S1:赤いビルヂングと白い幽霊

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3.イケメン王子【1】

 MAESTRO神楽坂は、ネットの取引が主力の店だ。

 そしてコグマに告げた通り、シノさんが留守の時はカフェの営業は出来ない。


 俺は、アナログレコードの試聴コーナーの手入れをすることにした。

 店の売り文句に "ゆっくり試聴をしながら、美味しいお茶と軽食が楽しめます!" ってのを掲げているから、プレーヤーを二台、客が好きに使える形で常備している。

 軽食の部分は、キッシュの他に、煉瓦窯で焼いたピザとか惣菜パンがその日の気分次第で提供されるし、お茶は市販のティーバックだけどポットで出すから二杯半ぐらい飲めるのだ。


 もっとも、店にシノさんがいれば……だが。


 今日のようにシノさんが居ない、もしくは "気が乗らない" 日は、軽食の提供は止まる。

 だが俺が店長として店にいる限りは、試聴は可能……と言うスタイルだ。


 それ以前に、店の造りがどうみてもアナログレコードの店舗よりカフェスペースの方が広い。

 と言うのも、実はカフェの(ほう)にはかなり頼りがいのあるパトロンが付いているからだ。


 俺はそのパトロンってのを見たことが無い。

 ぶっちゃけシノさんから「出資者がいる」と聞かされているだけだ。


 ビルのリフォームをした時、シノさんは一階で真面目に店をやる気なんて、1%ぐらいしかなかったと思う。

 でもその謎の出資者と知り合ってから、閑散としていたフロアが、あっという間におしゃれカフェに変貌していた。

 その手腕にしろ、シノさんに対する肩入れの仕方にしろ、色々微妙な感じがしたので、俺はその謎の出資者を、とりあえず "エセ紫の薔薇のヒト" と呼んでいる。


 どんだけ財力があるのか知らないが、その "ぶっといパトロン" のおかげで、カフェはすっかりレトロモダ〜ンってな感じになったが。

 同じ空間に共存しているMAESTRO神楽坂の(ほう)は見劣りが甚だしくなった。

 エセ紫の薔薇のヒトは、アナログレコードにはなんの興味も湧かなかったらしく、こっちには全く出資をしてくれなかったからだ。


 ギリギリで、シノさんがどこかから調達したレコードのジャケットをおしゃれに飾って、下側にラックが付いている商品棚があるので、体裁は保たれているが。

 イマドキ、アナログレコードプレーヤーは、中古でも結構な高級品だから、メンテナンスは欠かせないのだ。


 現状、MAESTRO神楽坂の収支はギリギリでプラマイゼロ。

 シノさんのフトコロ……と言うか、俺の給料の出どころはメゾンの収入に頼っている。

 単純な話、高価なアナログレコードプレーヤーが壊れた場合、店の資金で買い替えが難しいのだ。


 俺が子供の頃、プレーヤーなんて一台三千円ぐらいで買えたが、イマドキは最低価格が一万円スタートとなる。

 この極貧古物商が、一万円をひねり出すのがどんだけ大変か? なんて、気まぐれにカフェにやってきた客には、理解できるわけもない。


 と言うか、敬一クンに聞いたら、アナログレコードって話に聞いたことはあっても、現物を見るのは初めてと言われた。

 カフェの客だって同じで、要するにプレーヤーの使い方を知らないのだ。

 だから菓子パンを食った油まみれの手で、レコードの盤面をいきなり掴む。


 なので、初心者向けに "アナログレコードの取り扱い方法(ほうほう)" とか "プレーヤーの操作方法(ほうほう)" なんかをイラストにして、貼り紙を見やすい位置に貼ろうと考えた。


 と言っても俺に画才などナイ。

 ネットで版権フリーのイラストを拾い、画像アプリで説明分と組み合わせた、ポップの親戚みたいな張り紙を作るのがせいぜいだ。

 ぶっちゃけパソコンの扱いだって、成人後に世に現れた新しいツールだから、そっちも最低限の扱い(かた)しか知らないが。

 今どきはそんな俺でも、無料のアプリを使ってなんとなく無難な出来栄えの物が仕上がるから、ありがたい。

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