7.ヘンクツ王子・天宮南【1】
そんなワケで今日もホクトがやってきた。
以前に「竹橋から日参して夜まで居続けなのは大変じゃない?」と訊ねたら、「竹橋と神楽坂なんて、名古屋と鎌倉に比べたら隣近所も同然ですよ」と爽やかな笑顔で返されたことがある。
よく解らないがスゴイ熱意だ。
でも今日のホクトは仏頂面で店の中を覗き込み、俺のことをチラッと見ただけで、無視してそのまま出て行こうとした。
「天宮クン、どうしたの?」
声を掛けたら立ち止まり、不愉快そうに俺を見て、ボソッと言った。
「ヘタレうるさい」
なにそれと思ってビックリしてたら、キッチンから出てきたシノさんが言った。
「あー! アマミーやっと来たのかよー! 取り置きのキッシュ、カッチカチになっちゃったぞー!」
えっコレ、ホクトじゃないの!?
ってガン見してしまうくらい、ミナミの顔はホクトの顔とソックリだった。
従兄弟というより双子みたいで、言われれば確かにコッチの方が年上のようだが、しかしそれは服装がそんな感じだからで、並べて見たって騙されそうなくらい似ている。
別々に見たら、絶対区別なんかつかないだろう。
しかし顔はクリソツでも、態度はまったく似てなくて、ホクトは敬一クンに対してはちょっと変だけど、基本は明るく爽やかなイケメン王子だ。
対するミナミは、イケメンだけどなんかヤな感じの、根性の曲がった偏屈王子って感じだ。
ミナミはシノさんが出てきた途端に、チャッと花束とケーキの箱を取り出した。
デッカイ花束とケーキの箱をそれまでどこに隠し持ってたのか、俺には全然ワカラナイ。
そしてミナミはまるで猫好きが猫を撫でるように、シノさんの頭をナデナデしながら、
「キッシュでランチさせて」
と言って、俺の姿なんか見えてないみたいに、そこのテーブルを陣取ってしまった。
テーブルの上には、コンビニで買ってきたらしい苺牛乳。
そして、シノさんが出してきた真っ黄色なアマミー・スペシャルを食べ始める。
──なんなんだコイツわ!
…と思いつつ、俺は横目でミナミのことを睨みつけ、胸の中で「早く帰れ!」と唱えていた。
我ながら情けない抗議行動だケド、得体が知れないミナミは不気味で、他にどうしようもなかったのだ。
俺の念はサッパリ通じず、一時間経ってもミナミはそこにいて、シノさんと喋っていた。
喋ってたとゆーか、喋ってるのはシノさんばっかりで、ミナミはほとんど何も言わずにシノさんの話を聞いていて、時々シノさんの頭をナデナデしている。
その様子は、シノさんの浮気どうこうを疑う以上に、ミナミの変さが尋常じゃない。




