5.白い幽霊【3】
敬一クンが枝豆を茹でて、キャベツを籠盛りし、ホクトが一夜干しなど焼いたのをダイニングテーブルに並べて、食事タイムになった。
でもシノさんは自分が招いたコグマのことなど放ったらかしで、すっかりホクトと喋り込んでいる。
「で、アマホクはケイちゃんのどーゆー友達? 同級生? 部活?」
「同級生で部活で幼馴染で婚約者です!」
「はああ?」
思わず俺が変な声を出してしまったら、敬一クンが苦笑しながら顔の前で手を左右に振った。
「幼稚園の頃の話です、ままごとの」
「ままごとじゃない、あれは婚約! 結婚の約束だ! 俺の心は永遠に変わらない!」
「昔からこんなことばっかり言ってるんです、こいつ」
ホクトは真顔で婚約を強調していて、敬一クンは笑って流していて、俺はなんと言っていいのか判らなくなり、口を噤んだ。
「じゃあアマホクも鎌倉の子なん?」
「いえ、俺は名古屋です。ケイは子供の頃、名古屋にいたんです」
「俺の母が亡くなった時、父が多忙だったので、しばらく母の実家の祖父母と叔母が俺の面倒をみてくれてたんです。そのあとお義母さんが来てくれたので、俺は家に戻りました」
「ふーん、ナルホドナルホド…」
「幼稚園の頃のケイは、そりゃあ可愛かったですよ! もちろん今も可愛いですけど!」
「ウンウン、そうじゃろそうじゃろ」
ホクトはミナミのことで話を聞きに来たんじゃなかったっけ? と思ったが。
ホクトはミナミのことなど、もうどーでもよくなっちゃってるみたいに敬一クンのことばかり語りまくり、それをまたシノさんが、ふんふん言いながらいくらでも聞いている。
なんなんだろうかこの状態…。
「お兄さんはケイと一緒に寝てるんですって?」
「うん、ベッドの出物がナイんじゃもん」
「ケイ、結構寝相悪いでしょう」
「うんにゃ、そんなこたぁねェよ」
「そうですか? 俺は幼稚園のお昼寝の時、しょっちゅうケイにパンチされましたよ」
「そうなん? 俺はナイなぁ? あー、でも抱きつかれてチューならしょっちゅうされてるナ〜〜」
「えええっ!!」
今度は俺のみならず、ホクトも俺とユニゾンで変な声を出していた。
「ケイ! 婚約者がありながら、そんなことしちゃダメじゃないか!」
「婚約もチューもしてないぞ」
「ケイちゃん寝てっから覚えてねェだけだヨ〜〜」
シノさんがニシシと笑ってるので、ああこりゃフェイクだと気付く。
まったくもう…と思いながら横を向いたら、コグマが、はぁ〜と溜息をついていた。
そういえば普段なら、こういう時に俺とユニゾンするのはシノさんに気のあるコグマのハズなのに、心ここにあらずって感じなのがさすがに気になってきて、俺の方からコグマに声を掛けてしまった。
「小熊さん、どうかしたの? なんかいつもと違うんだけど…」
俺の顔を見たコグマは、他のメンツをちょっと伺ってから、落とした声で言った。
「実は僕、変なものを見たんです」
「変て?」
「たぶん、幽霊…」
「ええーっ!!」
「ヘタレン何度もウルセーなあっ、コグマ何の話をしてんだよ!」
「え…、いえ…、あの…、だから…」
「だからなんだっ、早くハッキリ言えっ、苛つくなあ!」
シノさんにガンを飛ばされて、コグマは叫び返すように言った。




