1.朝の恒例行事【1】
朝八時、枕元に置いたスマホのアラームが鳴る。
俺は身支度を整えると、部屋を出て、上階のペントハウスへと向かう。
俺こと多聞蓮太郎と、シノさんこと東雲柊一の馴れ初めを話始めたら、それこそ夕方になってしまうので、ここでは割愛する。
現状、俺はシノさんの持ちビル "キングオブロックンロール神楽坂ビル" 内の賃貸「メゾン・マエストロ」で暮らしていて、シノさんを起こすのが日課となっているのだ。
ちなみに、シノさんは俺の幼馴染で、想い人でもある。
「おはよう、シノさん」
ペントハウスには施錠がされていないので、俺は勝手知ったるナントカで中に入り、寝室で未だ朝寝坊を満喫しているシノさんを起こす。
「なんだよ〜、まだいーじゃんか」
「良くないの。ほら、起きて。敬一クンと、シノさんのコトちゃんと起こすって、俺は約束してるんだから!」
「ん〜、も〜、ケイちゃん余計なコトを…」
ブツブツ言いながら、シノさんはベッドから抜け出した。
「エービーシーサンドでいいか?」
キッチンに立ったシノさんが言った。
シノさんが冷蔵庫から取り出したのは、近所のパン屋で買った八枚切りの食パンとクリームチーズ。
それと、バナナスタンドに下がっていたバナナだった。
棚から取り出したホットサンドメーカーに、既にパンが仕込まれている。
「なにそれ?」
「アップル、バナナ、クリームチーズで、エービーシー」
「りんごが……どこに?」
「昨日、メシマズが鎌倉の有名店で買ったとかゆー、ジャムのセットを送ってきてさぁ。ちぃと味見したら、りんごジャムが結構イケたんだよ」
「同じホットサンドなら、ハムとチーズとかいわれ大根……みたいな方がいいんだけど……?」
「あ、かいわれ大根なら、ケイちゃんがそこの窓辺で育ててるぜ」
シノさんは屋上にプランターの菜園を持っているけど、それに啓発でもされたのかと思ったら、窓辺に置かれているのは豆苗の根っこだった。
「シノさん、これまだ、芽が出てないよ」
「うい? そーだった? んじゃあ冷蔵庫から好きな具材を出せい。先に俺のを焼いちゃうから」
冷蔵庫の中を見ると、スライスチーズとハム、それにシノさん特製のポテサラがあった。
野菜室にしなびたかいわれ大根もあったので、具材は希望通りのものを作ってもらうことにして、俺はポテサラを器に盛る。
このポテサラは、シノさんの作り置きおかずの一つなのだが、毎回具材が違う。
ぶっちゃけ、冷蔵庫の残り物を一掃する時に作られるおかずなのだが、それが毎回なんとなく旨いので、俺の好物のひとつなのだ。




