[序章]#3 森の奥の洋館
担任と合流し、しばらくの間森の奥へと歩を進めると、そこには巨大な洋館があった。
森は鬱蒼と茂っており、いつどこからあの異形が出てくるかもわからない恐怖がある。
洋館はまるでホラー映画で見たような不気味さを醸し出していたが、怪我をしている生徒もいるため、僕たちはそこに入る以外の選択肢を持たなかった。
中に入ると、朽ち果てていると言うほどではないが、何年も人が入った形跡はないようだった。
洋館に入ってすぐ左手側、応接室だと思われる部屋に僕らは集まる
「……みんな、無事……か?」
「春日居先生! 血が!」
委員長が担任の近くに駆け寄る。
さっきは気がつかなかったが、春日居は左脇腹から大量の血を流しているようだった。
「さっき、僕を、バスの中から……!」
ぐずぐずと泣いているのは、湊。演劇部に入っていて、実は女装家なのではないかと言うくらい中性的な男子だ。
友達も女子が多く、なんちゃって毒舌キャラでクラスでも人気者だ。
洋館の中に避難できたのは僕を含めて12人。
男女はちょうど半分ずつ。
僕、桐川。
担任の春日居。
クラス委員長の愛山。
バスケ部の長嶺と湊は泣き続けている。
それから、佐々木、甲斐田、前田、塁井、和久津、橘――
そして、西牧。――西牧由香里。
「ここって……どこなの? さっきの、アレって……!?」
放送部の女子、佐々木が誰に言うでもなくひとりごちた。
確かにここはどこなのだろう、広葉樹とか針葉樹とかの違いではなく、明確に日本では、いや、現実では見たことがないような森が広がっていた。
それに、アノ、異形。
「わかんねぇよ……! でも、ヤバい奴がっ……!」
柔道部の男子、クラスでも一目置かれる存在である甲斐田が太ももを殴りながら応える。
「ねえルイくん……大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ、まえちゃん」
野球部の塁井と、その彼女でもあり部活のマネージャーでもある前田が手を握り合っている。
先ほど春日居が肩を貸していたのは塁井のようだ。
塁井も太もものあたりに傷を負っているようだった。
「夢? いや、い、異世界?」
部屋の隅の方で高身長な身体を小さく縮こませながらガタガタと震えているのはクラスでも有名なオタクキャラの和久津だ。
オタクだがバレー部にも入っており、ヒョロガリというよりは引き締まった身体をしている。
「……ちっ武器になりそうなモンはねーか」
部屋の戸棚などを開けながらブツブツと喋っているのは帰宅部の橘。
バイクを乗り回し、普段からサバゲーを大学生サークルに混じって楽しむような、ちょっと変わった奴だ。
「……」
そして俯き喋らず、僕のちょうど正面に座っているのが、西牧由香里。
僕の、幼馴染だ。
幼馴染といっても、産まれた時から家が近いだけ。
小学校高学年になる頃には交流は途絶え、高校になってから交わした会話はほとんどゼロに等しい。
「……みんな、春日居先生から話があるって」
委員長が僕らに声を掛ける。身体の左側には肩を貸す担任がいる。彼女の手は血まみれになっていた。
「みんな……無事か?」
担任が左脇腹を抑えながら、苦しそうに話し掛ける。
「ここが、どこなのか、先生には見当もつかない……。けど、必ず、助けが来るはずだ……。」だから、それまでの間……ここから動かず、に……。みんなで協力をし――」
ピンポンパンポン♪
「――!? なに!?」
担任の言葉を遮るように、校内放送のような気の抜けたチャイムが館内に響き渡った。
【はいどうも〜はじめまして! クエストマスターでーす】