[間章]桐川の視点・1
館の中でしばらくの静寂が続いた。
春日居は並河さんだった存在と共にグチャグチャに潰され、委員長は突然呪いのような言葉を放ちながら死んでしまった。
何も理解できていない状態の僕たち。
しかし、すぐに、その静寂すらも打ち砕くありえない光景が目に飛び込んできた。
「グ、ギギギ、ガガ」
委員長の手が歪な形に曲がりながら動き始めた。
「い、いいんちょ?」
長嶺さんが駆け寄ろうとするが、すぐに躊躇する。
180度近く首が周り身体は関節を無視して曲がっていた。
――まるで、化け物のように。
「さっきの、並河さんみたいに? え? でもなん、で?」
委員長はしばらく身体の感覚を確かめるように関節を動かすと、一気にこちらに向かって四つん這いの形で移動してきた。
カサカサとまるで大型の昆虫を思わせるような動きが不快感を伴う。
「ひっ、いやあああああ!!!」
委員長は近くにいた長嶺さんに飛びかかってくる。
長嶺さんは叫ぶだけで何も動けない。
「うりゃ!」
橘が手に持っていた小刀で委員長の肩を切りつける。
「AAAAAAAAAAAA!!!!」
委員長が飛び上がって長嶺から離れた。
「みんな、こっちに!」
野球部の塁井が大きな扉の近くで声を掛けた。
近くにいたクラスメイトたちが急いで避難する。
担任の近くで座り込んでいた和久津は、甲斐田が手を貸す形で起こし、剣を振り回しながら委員長を牽制した。
全員が扉の奥に行ったというタイミングで、いつの間にか橘が拾っていた委員長の弓で委員長自身を射った。
矢は委員長の脇腹を貫き、委員長だったものは悲鳴をあげ転げまわった。
「っしゃ!」
その隙に扉を閉じ、近くにあった椅子や机などで扉を塞いだ。
今のは一体何だったのか、落ち着く間もなく、不快な声が僕たちの脳内に響いた。
【はいどうも〜! クエストマスターでーす】
陽気な声に眉間が寄る。
【尊い犠牲はありましたが、見事! 化け物を撃退することが出来ました……が! このまま館から出ることは出来ません〜! なぜなら! まだ、事態は収拾していないからです!
いや〜面白いことになりましたね!
懸命な皆さんだったらすでに気がついている方もいるかもしれませんが、先ほど起こったことは全て、彼らのスキルのせいなのです!!
担任教師の春日居さんの表スキルは「熱血教師の心得|シェパードズ・メソッド」生徒たちに対する絶対指示でした。
ですが!
裏のスキルは「地獄へ道づれ|ゴートゥーヘル」
特定の条件下で死を道連れにすることができ、それは委員長の愛山さんに発動されました〜!
肝心の委員長の能力は、皆さんには明かしていなかったようですが「委員長は引き受け上手|エンパシー・シンパシー」他人のダメージを自分に引き受けることができる能力でした!が、こちらは発動することがなく、裏のスキルのみが発動されました。裏のスキルは「責任転嫁は私の癖|オルタナティブ・ワークス」
対象を「みなさん」として、春日居先生の死のスキルが今皆さんへと移行されようとしております! 肝心の委員長さんはというと、身体は死の状態になっているにも関わらず、死の効果が移行状態になってしまったため、呪いによって動かされる、まさにゾンビのような状態になってしまったのです〜!!!】
「全員が、対象?」
「なんで委員長のやつ、何も言わないで……」
【私もこんな事態になるとは思っておりませんでした!
ですが起こったことは起こったこと!
みなさんはこの呪いの連鎖を断ち切り、全ての不幸を断ち切って、見事館から脱出を試みてください〜!】
脳内の陽気な声が断ち切れた。
残された僕たちの疑心暗鬼な空間を遮るように、扉の向こうで委員長が、吼えた。




