第5話.エリザベート
ちょっとシリアス回。
1/5タイトル変更しました。
第5話.エリザベート
「ヌラちゃん、状況は!?」
「うん、周辺に船影は無いよぉ、ただ前方にワープ反応あり」
「え!?ワープ申請は!?」
「今、宇宙ワープ空間管理局にアクセスしてみたけど、該当なし。どうやら無許可ワープだねぇ~」
「申請無しのワープ利用ってそれ、やばくない!?下手したら警察の追跡の可能性あるよ!?」
「警察じゃなかったら、あとは犯罪者だねぇ」
宇宙連邦が定めた規則に無断ワープ禁止法、というものがある。
しかるべき機関にこの宇宙座標から、この宇宙座標までワープします、と申請しなければならないのだ。
理由は簡単、ワープ後の事故を防ぐためだ。
ワープした先に他の宇宙船がいた場合は衝突ですむ。
だがもし、もし座標に偶然他の宇宙船がいたら最悪だ。
想像するだけでも恐ろしい。
ちなみに宇宙警察は緊急の場合は申請無しでもワープ空間を利用することが出来る。
凶悪な宇宙犯罪者を捕まえるとか、そういった場合だ。
しかし、このあたりに凶悪な犯罪者何ていないはず…。
「私たちを捕まえに来たのかなぁ」
オゥ…いたわ、脱走に未開惑星侵入、あと誘拐の極悪犯罪者が。
ボ、ボクのことじゃないヨ?ヴィスっちのコトダヨ?
「予想ワープ地点算出完了!緊急回避行動!」
「ヌラちゃん船長、格好いい~」
「ヴィスっち、余計なこと言ってないで引き続き周囲の警戒を!船が一隻とは限らないでしょ!」
そう、いきなり集団でワープしてきて取り囲まれる可能性だってある。
そうなったら、ボクたちは捕獲されヨイチさんだって…。
あれ?
ヨイチさんは警察に保護された後、多分地球に帰されるよね。
そっちのほうがヨイチさん的にはいいのでは…。
…自分勝手なボクを許してほしい。本当にごめんなさい!
と現実逃避している間に、前方にワープし終えた小型の宇宙船が現れる。
明らかに警察ではない。民間の小型船だ。
緊急回避行動を取っていなかったら、衝突していた可能性が高い。
その小型船はワープ空間から出現した後、その場所から動く気配が一切ない…。
どういう事だ?
「警察じゃなかったねぇ、どうする?」
「とりあえず安心だね。ヨイチさんにも警報は何でもなかったって伝えておいたほうがいいよね」
「そだねぇ~不安がってるだろうから。私が報告しとくね~」
「うん、お願い」
さてと、報告はヴィスっちに任せてこの船をどうするかな。
警察でもないのに無許可ワープなんて、完全にアウト。
さらにワープ空間から出てきた、という事は無人である可能性はゼロ。
ここから考えられることは、犯罪者が少なくても一人、あの船に乗っているという事だ。
問題はあの小型船に何人乗っているのかということ。
複数人乗っている場合は襲われたら太刀打ちできない可能性もある。
まずは相手の船を生体スキャンしてみる。…反応は1つか。
あの船と関わらにように無視してこのまま進むこともできるが、どうするか。
『あ、あの!』
聞きなれない声が、オープンチャンネル通信で船内に飛び込んできた。
『突然ワープしてごめんなさい!悪意は無かったんです!』
どうやら発信源は目の前の小型船からのようだ。
どうする?罠か?油断させておいて襲ってくるやつか?
「まず謝罪するなら相手にちゃんと面を合わせてするのが筋でしょう?」
あ、ヴィスっちが真面目モードになった!
オンオフのタイミングが本当に謎だわ、この子。
『あぁ!そうですよね!ワタシったらごめんなさい!!で…でも』
「でも?でも何なの?」
『顔を合わせるのは許していただけませんか?こ、怖いので…』
「は?怖い?こちらは衝突しそうになってもっと怖い思いをしているのだけど?
もし衝突して、私の大事な人たちに何かあったらどうしてくれるの?」
『うぅ…そ、そうですよね』
「ちょっとヴィスっち!何真面目モードになって上から目線で説教してんのよ!」
結局、謝罪したいという小型船からの申し出を受けることになった。
小型船から宇宙ホースが伸びてくるので、こちらのホースと接続。よし、ロック完了。
亜空間フィールドでホースの周りをコーティング。固定完了。
「いいじゃん~向こうが謝りたいって言ってるんだからぁ」
「そうかも知れないけど、状況ってもんがねぇ!」
「それに私がちょっと怒ってるのは本当だよぉ~?ヨイチに何かあったら許さないんだからぁ。
ヌラちゃんも、ヨイチを無事に家に帰してあげたいでしょ?」
「そりゃーそうだけどさ…」
ハッチの前に移動して小型船の人を待つ私たち。
この子…最近思考が単純になってきてきてないか?
相手が武器を隠し持っていたらどうする気なんだか。
ヨイチさんの匂いを嗅ぎすぎで頭がハイになっちゃってるのだろうか、心配になる。
と、ヴィスっちの心配をしてる間に、ハッチが開く。
「お、お邪魔します。この度は本当に申し訳ありませんでした!」
ハッチが開いたと同時に謝罪が始まった。
なんか最近謝罪ばっかりしてきたから、逆に謝られるのはなんか新鮮。
しかし、そんなのんびりした考えも相手の姿を見て吹き飛ぶ。
知ってる姿だった。いや、正確に言うと一方的に知った姿だ。
スタンダードな頭部一つに手足が2本のタイプ。
頭部には金色の長い体毛。
長身でスリムなスタイル。
宇宙ニュースで一時世間を騒がせた宇宙犯罪者!
A級惑星のかなり権力のある家出身で犯罪者になったという事で大々的にニュースになっていた。
確か、名前は…なんだっけ。ニュースであれだけやってたのに覚えていないな。
監獄惑星に収容されているのは知っていたが、ボクたちとは違うA級の施設に収容されていたので顔を合わせるのは初めてだ。
あの監獄惑星の隕石落下事故で脱走していたのか!
それにしてもさすがA級惑星の筋金入りの犯罪者、脱走も無申請ワープもやってのけるとは…。
まさに極悪非道!
「それ私たちが言っちゃダメなやつだよぉヌラちゃん」
うっさい!
ボクは違うぞ!意思がちょっと弱いだけで、あくまで善良な一般犯罪者だ!
「私はエリザベートといいます。本当になんと謝罪をした…ら…」
あぁ、そうだエリザベート!A級惑星ゴルマッチヨ星出身の特A級犯罪者!
すっと下げていた頭を上げてこちらを向いたエリザベートは急に固まった。
どうしたのだろうか。
「ちょ…ちょ…」
ちょ?
「超凶悪犯罪者コンビ~!?」
ちょっと待て誰が超凶悪犯罪者だ!
それはヴィスっちだけだよ!
ボクは善良な犯罪者だよ!
待って、勝手に気絶しないで、お願い!せめて訂正してから気絶しろ~!
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あぁ、またこの夢だ。
暗い、暗い部屋の中で私は独りぼっちで座っている。
落ち着く。真っ暗闇の部屋の中では、私の姿を見られることはない。
ここはいい。やはり暗闇の中、独りでいるのが落ち着く。
でも、心安らぐのはここまでだ。
この後の悪夢の展開はいつも変わらない。
この夢、昔からずっと見てきた夢。
監獄に収容されてからは見なくなっていたのだが、近頃また見るようになった。
何時からだろうか。
監獄惑星に隕石群が降った日、私は引き籠っていた独房からここは危険だからと他の囚人と共に移動をさせられた。
耐えられなかった。
他人の目がただひたすらに怖かった。
ずっと独房で独りぼっちでいられたならば、どんなに幸せだったか。
足元からの震えが止まらない。
鼓動の音がやけにうるさい。
こっちを見るな。
ワタシの…ワタシのこの醜い姿を見ないで…!
気が付いたら小型宇宙船で監獄惑星から飛び出していた。
何てことを…とも思ったが、この小型船にはワタシ独り。
誰もワタシを見ていない。あぁ、落ち着く。
もう監獄惑星に戻る気は無くなっていた。このまま誰とも関わらず世捨て人として生きていこう。
そう決心した頃から、この夢再び見るようになった。
ほら、悪夢が始まった。
あぁ、声が聞こえてくる。
「ほら、見ろよ。あれがかの有名な名家アンデルフィア家のエリザベート様のお姿だぜ…」
「…うそでしょ?何?あの気味の悪い姿…」
「うわ、こっちを見てるぞ?」「もうほっといて行こう!」
「エリー!なんで貴様みたいなのが…我が家の恥だ!」
「同じ血がつながってると思うとゾっとするね。僕の前に姿を見せないでくれないか?」
やめて…。やめて…やめて!
「部屋から出るなといったでしょ!?なんで母親のいう事が聞けないの!!」
「せめてもの情けだ!飯くらいはくれてやる!」
「この家は先に産まれたアンタよりも僕が継ぐ事になったから。恥ずかしくないの?」
ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい!
みんなに迷惑かけてごめんなさい!
大人しくしています!息もなるべく静かにします!
視界に入らないようにしています!
だから…だから!
ふと、すべての音が消えた。
周りの声も、ワタシの呼吸の音も鼓動さえも。
ワタシの目の前にはもう一人のワタシが立っている。
もう一人のワタシはニヤニヤした目でこちらを見ながら、嬉しそうに笑っている。
じんわりと心の底から殺意が溢れ、ワタシを包んでいく。
なんで、ワタシはこんなにも醜いのだろう。
自分を、宇宙を呪う。
ゆっくりと立ち上がると、目の前でニヤニヤしているもう一人のワタシに手を取られ連れていかれる。
やがて一つのドアの前にたどり着く。
この先の展開も、すでに知っている。
このドアの向こうには、何十人もの醜いワタシがいて、皆手招きをしている。
そしてワタシもその何十人の中の一人になっていくのだ。
ほら、ドアを開けて…。
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はっと目が覚めた。
ここは…あの大型宇宙船の中か。医務室っぽいところに寝かされている。
確か…そうだ、今世間を恐怖のどん底に陥れている超凶悪犯罪者コンビに捕まってしまったのだ。
警察の発表によると、監獄惑星を脱走した後未開惑星に侵入し、現地の生物を虐殺しまくる。
さらには人質として何匹もの生物を引き連れて警察を脅し、少しでも近づくと人質を殺しているそうだ。
他にも未開惑星の生物を洗脳したり、生体実験に使ったりしているらしい。
ワタシみたいな世捨て人と違って本当の極悪人!
たしかニュースによると、ヴィスコンティとヌラリカだったか。
そんな二人の船に衝突しそうになるなんて、本当に運が悪い。
ワタシもきっと無事に生きて帰れないだろう。
どうにかして許してもらえないだろうか。
こんなにも醜く、親からも疎まれ愛情なんか知らずに育ってきた。
けど、それでも死にたくないという一心でここまで生き延びてきた。
逃げ出したりしたら、宇宙の果てまで追いかけられるかな…?
そんなことを考えながら寝ころびながら天井を見ていると
ガチャリ
部屋のドアが開いた。
「あ、気が付いたんですね。良かった…心配しましたよ!」
ドアから入ってきたのは、私と同じタイプの形をした種族だった。
あれ?あの凶悪犯罪者たちは?と思っていると、その生物はワタシのほうにトテトテと小走りで寄ってきた。
そして、ワタシの額にかかっていたタオルを取って、新しいタオルを置いてくれた。
今になって気が付いた。頭にタオルが置いてあったのか…。
ひんやりとした気持ちのいい感覚。
頭がスーっと冴えていく。
「あ、あの…」
「あ、無理に話さなくてもいいですよ。聞いたところ急に気を失ったそうで…しばらくはこの医務室でゆっくりしてください」
なんだろう、この生物は…私の姿が恐ろしくないのだろうか。
ニコニコと嬉しそうにしている。
今までさんざん悪意と恐怖の目で見られてきたからだろう、そういった敵意や嫌悪感に敏感に察知してしまう。
だが、この子の目からは敵意や嫌悪感は感じられない。
ただ純粋な心配だけが伝わってくる…。
「っても、俺の船じゃないんで、ゆっくりして、なんて偉そうなことは本当は言えないんですけどね」
照れくさそうに頭をポリポリと掻いている。
状況がつかめない。がこれは聞いておかなければ…。
「あ、あの貴方は…?」
「あぁ、俺ですか。俺の名前は」
「ヨイチだよ~!」
「…ってあの…」
いつの間にかヴィスコンティがその横に立っていた。
ひぃ、凶悪犯罪者!
「ヴィスさん、ちょっと向こうに行ってて!」
「え~ヨイチが心配だから護衛につてるんだよぅ」
「いいですから、ここは出てってください」
「ぶーぶー」
「ほら、部屋の外でヌラリカさんが待ってますよ」
ヨイチとよばれた人に追い出されるヴィスコンティ。
あれ?本当に超凶悪犯罪者なのかな…?
「ふぅ、やっと静かになった。体調は大丈夫ですか?頭痛とかはありませんか?」
「あ、はい…大丈夫です」
「倒れた時に変なところを打っていたら大変なので、しばらく安静にしておいてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
何なのだろう、このヨイチと呼ばれた人は。
「では、俺も外に出ているので何かあったら枕もとのボタンを押してくださいね。コールが鳴るそうですので」
「あ、あの!」
「はい、なんですか?」
ヨイチ君が去ろうとしたので思わず呼び止めてしまった。
何でだろう。
こんなことを聞いてどうするのだろう。
あの敵意や嫌悪感のない瞳を見てしまったからだろうか。
ワタシが傷つくだけなのは解っているのに、聞かずにはいられなかった。
「私の、この醜い姿を見て…ヨイチ君…は何も思わないんですか?」
「…え??」