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第4話.感覚がマヒしている

第4話.感覚がマヒしている


目の前で土下座しているナメクジ人間。

その横で蠢いているタコ星人。

固まっている俺。


え?何この状況。


「ほらヴィスっちも、何やってんのさ!謝って!!」


ナメクジ人間が土下座しながら、顔だけをタコ星人に向けて言っている。

そんなこともお構いなしにタコ星人はこちらに向かってくる。


「初めまして~。私はヴィスコンティって言うんだ。気軽にヴィスって呼んでねぇ」


なんとその不気味なタコは俺に向かって挨拶をしてきた。

意外とかわいい声なのが、無性に恐怖心を煽る。

ヴィスコンティ?ヴィス?何言ってんだこのタコは…。

呆気にとられて何も言えない。


え?何この状況。


「あれぇ?もう宇宙言語は解るようになってるはずなんだけどなぁ、言葉通じてないのかなぁ?」


そういえばこいつらの言葉が解る。

え?宇宙言語?ん?ん??理解が追い付かない。


「ん~まぁいいか。とりあえず、匂いをかがせてもらってもよろしいかな?」

「ヴィスっちのアホー!」


あ、ナメクジ人間がタコを取り押さえた。


「ほんっとごめんなさい!この子アホなんです!!許してください!!!」

「痛いよぉヌラちゃん~」


タコがナメクジに取り押さえられながらウネウネしている。


え?何この状況。

なんでタコとナメクジの漫才を見せられているんだ?


「え~っと、すいません。ちょっと確認させてもらってよろしいでしょうか?」


俺は意を決して二人に話しかける。

言葉は聞こえはするが、果たして通じるのか…?


「あ、はい!何でも聞いてください!」


ナメクジが顔をすごい勢いで上げる。

言葉は通じるみたいだ。よかった。

こちらに危害を加える様子はなさそうなので、一安心。なのだが…。

いや、ごめん。ちょっと怖いからこっちをガン見するのは勘弁してくれ、マジちびっちゃうから。


「あなた方は一体…何なんでしょうか?」

「あ、ごめんなさい!自己紹介が遅れました!」


いや自己紹介とかそういうことでは無いのだが…。


「ボクはヌメール星人のヌラリカ・ヌラッタといいます。ヌラちゃんって呼ばれていますけど好きなように呼んでください」


活発そうな明るい声だ。

ヌラちゃん…いやそれよりも気になる単語が。


「えっと…ヌメール星人?」

「はい!えっ、もしかしてヌメール星の事ご存じですか…?」

「いや、すいません。聞いたことがちょっとないので…」

「そ、そうですよね!」


もしかして、彼らは宇宙人なのか…?

そういえばさっきも宇宙言語とか言っていたもんな。

というとこのタコも


「もう一回自己紹介しとくねぇ。ヴィスコンティ・アントワーヌだよぉ。ヴィスって呼んでねぇ」

「ア、ハイ」

「それにしてもヌラちゃん、実は緊張してるでしょ~?」

「えっ!?そりゃ緊張はしているけど、なんでさ?」

「だって未開D級惑星の子が他の惑星について知ってるわけないでしょ?」

「そ、それはそうだね。ってかほっといてよ」

「ところで君の名前は何て言うのかなぁ?何て呼んだらいいのぉ?」


ちょっと落ち着いてきた。

タコがヴィスでナメクジがヌラリカだな。よし、覚えた。

目の前の二人は友好的な感じだし、とりあえず一度冷静になろう。


「えっと、初めまして。木多喜きたき 陽一よういちと申します。呼び方は好きに呼んでくださって結構です」


…ちょっと他人行儀すぎたかな?

いや、初めて顔を合わす人…人か?

まぁいいや、初対面の人に馴れ馴れしくタメぐちで話すとか社会人としてありえないからな。

ビジネスマナーは大事。


「ヨイチかぁ!いい名前だねぇ!」

「ヨイチさん…ではこれからそう呼ばせてもらうね」

「え、いや、よういち…」

「ヨイチー!」

「ア、ハイ」

「じゃ~さっそく匂いをかがせてもらっていい?」

「ヴィスっち退場」


ヴィスがヌラリカさんに連れていかれた。

ナメクジに首(?)を掴まれて連行されるタコ…非常にシュールな光景だな。

外につまみ出されたヴィスは「この人でなしー!匂いを独り占めする気だ!」とかなんとかドアの外で叫んでいる。


「ヴィスっちのことは気にしないでください…あの子、ちょっとアレなんで」


申し訳なさそうに頭を下げるヌラリカ。

この人は苦労人っぽいな…思わず親近感を感じてしまう。


おっといかんいかん、親近感を感じる前に一度現状を確認せねば。


「まず、ここは一体どこなんですか?」


まずは場所の把握、どこかの家に無断で押し入ってるとかだと色々まずいからな。


「えっと、ここはボクの宇宙船の医務室だよ」


そっか、宇宙船か。誰かの家じゃなくて安心したよ。


…は?宇宙船??

この思いっきり高校の保健室みたいな部屋が?冗談だろ?


「で、今この船は地球から32億スペクタクル離れた通常空間を航行中なんだ」


なにその聞いたことのない単位。わかりやすい言葉で説明してよ…。


「簡単に言うと、3つ隣の銀河系にいるんだ」


銀河…3つ隣…あぁもう理解が追い付かない。

嘘だろ?航行中?じゃぁここは宇宙のど真ん中ってことか?


「ん?でも宇宙って無重力ですよね?なんか無重力って感じしないんですけど…」

「あぁ、それはねこの宇宙船に簡易重力路が搭載されていて重力のベクトルを固定してるからなんだ」


またわけの解らん単語が出てきたぞ。


「それだけじゃないよぉ」

「うわぁあ!!」

「ヴィスっち!どっから入ってきてんの!?」


タコが、いやヴィスが足元の床から這いずり出てきた。

心臓が止まるかと思った!いや、マジホラーだから止めてくれ…。

ニュルリと出てきたヴィスは俺のすぐ真横で蠢いている。

なんだか「ムフームフー」って聞こえるが何の音だろうか。


「ヌラちゃん忘れたの?私は特一級クンカー資格所有者だよ?いい匂いの為ならなんでもするよぉ?」

「なんなのその執着心は」

「フフン、照れるよぉ」

「褒めてないよ?」


「あのー話を進めていただけませんか?」


この二人を放っておいたら脱線しまくる。

こちらで話の主導権を握ってやらないと話が進まないタイプだな。

前の職場にもこんな子がいたなぁ、半年くらいで辞めちゃったけど。


「あ~ごめんねぇ。話、続けるねぇ」

「お願いします」

「簡単に説明するとね、勝手に生体強化を施したから宇宙酔いとかは感じないんだよぉ」

「ほんっと~~にゴメンなさい!!!!」


…おい、おいおい、おいおいおいおいおい!

生体強化!?

何されたの!?俺一体ナニをされたの!?


「ボクから説明しますね‥。出会った時、突然ヨイチさんが気を失ったのです。

だから命が無事か確認するた為に、医務室に運びました。そこで生体スキャンをしたら、内臓系の器官が非常に弱っていたので…。

だから勝手に(ヴィスっちがやったんだけど)治療を…」

「あぁ、だから体の調子がいいのか…」

「私もしゃべるぅ~そっからね、宇宙に出るんだから宇宙酔いしないようにとか、言葉が解るように頭部を中心にちょこっとねぇ」


え!?脳をすでにやられてる!?


「あ、でも安心してください!言語機能と感覚機能のみの強化なので液体に浸かっただけです!」

「じゃあ、手術とか脳をいじくったと体を切って何かしたとかいう事は…?」

「ないです!そんな恐ろしいことできませんよ!」


よくわからないが、お風呂に入ったようなもんか?

まぁ体調はいいし変なことはしてないと言っているが…。

とりあえずちょと状況を整理してみるか。


まずここは地球ではない。目の前の二人は宇宙人。

今、俺は宇宙船に乗っていて地球とは違う銀河に来ている。

俺の許可、ってか同意なしで。


ん?


あれ?この状況もしかして…。


「あの…ヌラリカさん、つかぬ事をお伺いしますが」

「なんでしょうか?」

「これってもしかして…誘拐でしょうか?」

「……」


シーン

あれ?ヌラリカさんが固まってしまった。

何かまずいこと言ったかな?

いやいや、そんなことはないはずだ。

何で俺をこんなところに連れ出しているのか、何か理由が…ってか何で俺?


「すいませんでしたぁー!」


再びヌラリカが土下座。


「俺、誘拐されたんですか!?お金なんて持ってないですよ!?」

「ちちち違うんです!」

「ムフーちょっと状況説明が必要だねぇ~ムフー」


ヴィスによる、よくわかる状況解説。

二人は宇宙犯罪者で、監獄惑星というところを脱走してきた、と。

警察から逃走中、地球に逃げ込んで俺を人質にして逃走を続けている。

つまり凶悪犯に人質として捕まっているという事か。


人質、からの誘拐。

あれ?これめっちゃ質が悪いのでは?


「大丈夫です!」


ヌラリカが声を上げる。


「絶対にヨイチさんには危害を加えませんし、かならず地球に返します!信じてください!」


いやいや、信じてと言われてももうすでに見た目から信じられない見た目なのだが…。

けど、宇宙犯罪者ねぇ…なんか目の前であたふたしながら土下座している姿を見ると凶悪な感じには見えない。

いや、見た目は恐怖なのだが。

ただ嘘をついている感じもないし、悪意も感じない。

申し訳ないという感情は素直に伝わってくる。

仕事でずっとお客さんに頭を下げ続けていたからだろうか、謝罪に関しては本気なのは解る。

さて、どうしたものか…。

生体強化されてるおかげか、こんな状況なのに意外にも落ち着いている。

別名、感覚がマヒしている、ともいう。


どうであれ、ここはジタバタしても仕方がない。彼女らを信じるしか選択肢はない。

大人しくしていればひどい目には合うまい。

あぁ、でも俺がいなくなって家族は心配するだろうな…。


「ちなみに地球の電波に侵入してこっちからコンタクトを取ることはできるよぉ~」


出来るのかよ!どんな仕組みだよ!

ってか考えていることを先読みするのは止めて!

まぁでも地球に連絡できるのはちょっと安心した。

後でちょっと家に電話して…誘拐されてることは言えないけど、安心させないとなぁ。

仕事をもうちょっと続けることになったから、まだまだ家には帰れないよ、とかいう設定で行くかな。


ビーッビーッ、キケンダヨー、ビーッビーッ


考えていると突然、変な音が聞こえてきた。

これは警報音か?


「ヌラちゃん!」

「わかってる!ヴィスっちはレーダーで周囲の警戒を」

「ラジャー!ヨイチーちょっと行ってくるねぇ。ここを動いちゃダメだよぉ」

「ごめんねヨイチさん、何かあっても絶対にキミを守るから!」


あら、なにこの格好いいナメクジは。

二人は俺を残したまま、保健室から走って出ていった。


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