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第3話.悪夢は終わってなんかいない

第3話.悪夢は終わってなんかいない


「警部、辺境惑星周辺に全部隊、配置完了です」

「うむ、ご苦労。犯罪者どもめ…絶対に逃がさんぞ」


ここは地球のはるか上空の宇宙空間。

宇宙歴始まって以来の大犯罪者どもを確実に捕まえる為に、宇宙警察本部からも多くの応援が駆けつけてくれている。

すでに地球周辺はベレベレの一匹も逃がさない万全の体制だ。

これらを指揮するのは、宇宙警察辺境第11系銀河支部が誇る大エースの吾輩である。


「警部!オープンチャンネルで地球からメッセージ!おそらく犯罪者どもからです!」

「なんだと!全部隊にチャンネルの共通化!あと逆探知も忘れるな!」

「通信、入ります!」


監獄惑星を襲った隕石。

その事故に紛れて凶悪な犯罪者どもが脱走するという前代未聞の大事件。

中央本部は大荒れした。

こんなことは初めてなのでどう対応したらいいかが解らず右往左往しているそうだ。


これは大チャンスだ。

思わずニヤリと笑みがこぼれる。いかんいかん、部下に見つかると不審に思われる。

警部になったところまではよかった。

中央でエリートコースに乗るはずだった。

が、いかんせん吾輩は優秀すぎた。多くの嫉妬とやっかみを買いすぎた。

気が付けばこんな辺境にまで飛ばされて…!

だけども、それもここまで。

吾輩がこの犯罪者どもを捕まえさえしてしまえば、辺境の一警部から一気に英雄だ。


前代未聞の大犯罪者どもを、部隊を華麗に指揮して一網打尽にした大英雄。


これが吾輩の今後の肩書となる。

悪くない、いや悪くないどころかすごくいい!


『あー…初めまして、宇宙警察の皆さん。私はヴィスコンティという者だ』


無線から声がした。

声を聴いて、なるほどなと思った。

こいつの声からは感情というものが読み取れない。

一体何を考えているかわからない。

平坦で、残忍そうな冷たい声。

典型的な犯罪者じゃないか。

こいつが、この声の主が今回の主犯、そして吾輩の栄光への踏み台となってくれる人物か。


『突然だが、私たちは今この地球という星の生物を一人保護している』


「なっ!!」


なんだと…!こいつ今何と言った!?

思わず我が耳を疑った。

周りの部下たちもざわめきはじめる。無理もない…!

未開惑星性に侵入しただけでなく、その星の生命と接触。挙句の果てに保護だと!

保護というのはおそらく…人質、という事か!


『ついてはこの生物の身を守るため、警察の皆さまにはしばらく大人しくしておいていただきたい』


やはりか!

こいつらを捕まえようと動いた瞬間、人質の命は失われるであろう…。

そうなれば、吾輩は間接的にではあるが未開生物の命を奪ったという事になる。

もはや取り返しのつかない失態。

中央に戻るどころか、出来損ないの烙印を押され警察にいられなくなる可能性すらある…。

ど、どうすればいいのだ…!


「け、警部…どうしますか?」


部下よ、そんな不安そうな顔をするんじゃない。

今一番泣きそうなのは吾輩なのだ…!


「し、仕方がない。生命を守ることこそ吾輩たちの一番の使命。ここは奴らの言う事に従うしかあるまい」


ここはぐっと我慢だ。

隙を見せるまで、なんとか粘るしかあるまい…!


「全部隊に告ぐ!指示があるまで奴らを追いかけることは禁止!手を出すことは許されない!後方にて待機だ!」

『フフフ、賢明な判断だ。では失礼するよ』


ヴィスコンティと名乗った者の勝ち誇った声が船内に響いた。


-----------------------------------------------------



「というわけでヌラちゃん~無事に逃げられそうだよぉ?」

「アンタ本当に何やっとんじゃー!」


真面目モードのまま、ちょっと電話してくるね~と言いながらコクピットに向かったヴィスっち。

何するんだろうと思い、見ていたらとんでもないことをしでかしやがった。

すっかりいつものオフモードに戻ってしまっている。


「え~けどさぁ、私は別に間違った事は伝えていないよぉ?」


そう、実際に間違ったことは言っていない。

気を失って倒れた生物を医務室に運んで命が無事なのかを調べた。

ついでに怪我を治そうとしているので、警察がこの星に突入してきたら怪我の治療が出来なくなってしまう。

当然、私もヴィスっちもこの生物をどうこうしようという気はさらさらない。

怪我を治したらさっさとおさらばしてもらう予定だ。

そう警察に告げたところ、向こうが勝手に勘違いして警察を引き上げさせ追いかけない宣言をしたのだ。


けど…けどさぁ!


「ほら、警察がひいてくれている間にこの星からおさらばしようぉ」

「え!?あの子はどうすんのよ!?」

「ここまできちゃったら連れていくしかなくない?」

「誘拐犯だ!!」

「でもタイミング的に今しか私たちが生き残る道、無いとおもうなぁ」

「うぐぐぐ…」

「ほとぼりが冷めたら、またこの星に来てこの子を返してあげればいいじゃん」

「…仕方ない。あぁ、本当にごめんなさい」


未開惑星の生物さん、本当にごめんなさい。

さっきまでは警察に自首しようとか考えていたのに逃げることが出来そうになるとそちらに飛びついてしまう。

我ながら意思の弱さが嫌になってしまう。

こんな意志の弱さだから宇宙スピード違反なんていう凶悪な犯罪を引き起こしてしまったのだ。

更には脱走と、今また誘拐まで…。

でもボクだって命は惜しい。自分勝手な奴だと罵ってくれて構わない。

罪悪感で潰されてしまいそうだ。ってか吐きそうだ。







「あ~、そういばあの子回復させるついでに生体強化しといたから~」


吐いた。


「うわぁ、ヌラちゃん汚い!こっちこないでよぉ!」



-----------------------------------------------------





…ここはどこだろう。

見たことのない部屋で目を覚ました

寝っ転がったままゆっくり顔を動かして回り様子を見る。

なんだか学校の保健室を思い出すような感じだ。

ベッドの横には仕切りがたっておりカーテンもある。

部屋の中心部くらいには太めの長机と長椅子。

ドアの横には棚がいくつもあって、本がたくさん並べられている。

壁側には勉強机っぽいものがあって、何だろう。変なキャラクターの人形が置いてある。


俺はなんで保健室で寝ているのだろう。

確か、仕事を辞めた。

最後の出勤日だった。

終電で家に帰って…こっから先が…思い出せない。いったい何があったんだろう。


あ、もしかしてコレあれか!?

ラノベとかでよくあるやつ!

そう、転生だ!!

保健室ってことはファンタジー世界に転生ではなさそうだな。ってことは過去、もしくは別世界へ転生か!

ウッヒョー!

テンション上がってキター!

夢だったんだよなぁコレ!

でも、ってことはだ、よく考えるとは一回俺は死んでしまったのか?

なんか神様的なものと出会って、チート能力とか授かった記憶はないんだけど。

でも過去の記憶はある。

そういえば今まであった慢性的な胃痛と頭痛が無いな。

体はばっちり健康体に戻っているみたいだ。

これは…若返り転生キター!!

すべての記憶を持ち越し健康体で2度目の人生か。

強くてニューゲームじゃん!

チート能力がないのは残念だが超イージーモードだぜ!


今度の人生は絶対に彼女作る!超作る!

あ、でも一人だけでいいや。

ラノベでよくあるハーレムは正直憧れる。男の夢だ。

でも、俺そんなに甲斐性ないしな~。

一人の女の子に持ちうるすべての愛をつぎ込むんだ。

ん~愛が重いかな?いや、そんなことないよね!うんうん。


やっべぇ!社会人になってから封印してきた俺の中の厨二心が騒ぎ出すぜぇ!


コトン


ふっと何かがベットの下に落ちた。

これは…俺のスマホだ。


ん?


転生したのにスマホはそのまま?

へー…最近のはそういうのもあるのかな?

過去または別世界に転生して…るのかこれ?

死んでその身一つで転生するのはよくある設定だが…。

待てよ…俺は一回死んだんだよな、多分。

うん、そうだ。確実に「あ、今日俺死ぬわ」って思う出来事があったはずだ。

でも何だ?どんな出来事があった…?


終電で帰ったあと、一体何があった…思い出せ!思い出すんだ!

家に帰ってから…いや違う。家に帰った記憶がない。

帰る前に何者かと遭遇したんだ。そう、アレは…


ヒタッヒタッヒタッ


何者かの足音で思考が停止する。

そうだ、嗚呼、なぜ俺は思い出してしまったのだろう。

俺は家の前で…見てはいけないものを見てしまったのだ。

思い出すだけで全身に寒気が走る。血の気が引いていくのが解る。

俺は死んでなんかいない、それどころかあの恐怖はまだ続いているんだ…!

確かにホラーな本とかゲームは大好きだ。

でもそれがまさか自分の身に降りかかってくるなんて…。


ヒタッヒタッ


足音が止まった。

保健室の窓の外には二つの影が見える。

何かあったら戦えるようにベットから起き上がり、武器になりそうなものを探す。

俺の携帯と鞄…ダメだな。

何か、何かないのか!


く、こうなったら覚悟を決めるしかない。

ドアが開いた瞬間タックルでもかましてそのまま逃げ切るしかない。

幸運にも体調はすこぶる良い。行ける!


ガチャリ


ドアが開く。


覚悟は決めたはずだった。ソレを見るまでは。

1つは闇の中で見たナメクジ人間。

もう1つは身長180センチほどの明るい茶色のこけし型のボディに緑色のタコの足がついているという、とても不気味な姿をしていた。

こけし型の上部には3つ、紅い目が付いておりギョロギョロと動いている。

あ、コレはダメな奴だ。

タックルを仕掛けてもあの怪物を転ばす事すらできないであろう。

まるで大きな岩の前に立った感覚。

絶望が心の中を支配する。


悪夢は終わってなんかいない。


覚悟はすぐに打ち砕かれた。

呆然と立つ俺を見たナメクジ人間は、ナメクジとは思えないスピードで動き出した。

そして…。







「申し訳ございませんでしたー!!!!!!」


それは見事な、美しいジャンピング土下座だった。

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