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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
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フローラへの手紙と2つめの倉庫整理

No88

フローラへの手紙と2つめの倉庫整理




 親愛なるフローラさんへ

 体調はどうですか? 仕事のし過ぎで無茶をしてませんか? 日々暑くなってきてますから、体調には気をつけて下さいね。


 お手紙を読んで早速、返事を書いてます。ルインマスでの生活も慣れ始めました。冒険者ギルドでも依頼を受けてなんとか生活してます。


 ルインマスは海上貿易で成り立ってる街なのはご存知の通りだと思いますが、私は初めて来た街なので驚くべき事はたくさんあります。


 今回は、定宿にしてる"餌付け亭" の話をしましょう。"餌付け亭" は、恰幅の良い気さくな女将ロゼッタさんと、少し寡黙だけど料理の腕は一級でロゼッタさんの旦那さんとの夫婦で経営してる宿です。他に数名の従業員もいますね。


 毎朝出される朝食は、ボリュームたっぷりで朝から精がつきます。朝食メニューは、魚料理、肉料理、野菜スープ、ベーコンにバゲット、果実水ですね。


 私のイチオシは魚料理です。これが素晴らしく美味しいんですよっ! 味付けは至ってシンプルなんですけどね。多分、塩と胡椒、ハーブを数種類と臭み取りのショガンは使ってますが、ただそれだけなのに何故あんなに美味しいのか.....謎です。


 今朝食べた魚料理も美味しかったんです。焼き魚の魚肉を口に入れて食べると、肉汁と魚の旨味が口内にひろがり、同時にハーブの香りが鼻腔を通り抜けます。


 魚肉には歯応えがあって、程よく咀嚼できてホロホロとほどけてから、喉の奥に滑り落ちて行くんです。味加減も抜群で、濃くも無く薄くも無い絶妙な味付けです。


 あと、ステーキ肉と魚肉をバゲットに挟んで食べても美味しいです。ステーキ肉のジューシーな肉汁と魚肉の肉汁がバゲットに染み込み、互いの肉汁が合わさりさらに食が進みます。


 もちろん、料理だけじゃなく部屋の掃除も抜かり無くやってくれます。シーツは綺麗に敷かれ直され、部屋の床ボコりも清掃してくれます。


 2、3日に一度、備え付けの花瓶の差し花も交換してくれます。ささやかな気遣いが嬉しいですね。


 宿の名前だけを聞くと、ちょっとおよび腰になりますが、泊まって理解するでしょう。なぜ、冒険者や船乗りがこぞって泊まりたがるのかが.....


 宿泊費は少し高めですが、対価に見合った宿だと私は思ってます。ぜひ、フローラさんにも泊まっていただきたい。


 一緒に"餌付け亭" に餌付けされませんか?


 貴女の事が大好きなセイジロウより。


▽△▽▽△▽▽▽▽▽△


「ふぅ....これでフローラさんもルインマスに来たら絶対泊まるな...ククク」

『何が可笑しいんじゃ? どうせ、馬鹿な事を書いておるんじゃろ?』

 マダラが手紙を茶化すような思念を飛ばしきた。


「失敬だな、君は。俺はオススメの宿の話と料理の話を、フローラさんに分かってもらえるように書いただけだ」

『....他には書いてないのか?』


「まぁ、他に書きたい事はあるけど...あまり心配かけるものな....それに、フローラさんはルインマスには来たことあるって手紙には書いてあったけど。仕事だったらしくて泊まったのはギルド施設だったらしいから俺が良い宿を教えてあげるんだっ!」


『...いや、宿とか料理は別にあとでも良いじゃろ? もっと、他に無かったのか書くことは?』


「いや、大事だろ? 宿は。女性なら環境に気を付けるし身嗜みも大事だ。ゆっくり休めて旨い料理がある宿は貴重だぜ?」


『お主.....いや、そうじゃな。フローラも喜ぶじゃろうな。自分を気遣うセイジロウに』

「だよなっ! 明日はこの手紙をギルドに出してから、アンリエッタ邸に行って倉庫整理だな....あっ、手紙セットはしまってくれ.....んじゃ、おやすみマダラ」


 きっとマダラは思っただろう。自分の主の残念さに.....恋人に出す手紙の内容が、食レポなのはこの世界でセイジロウだけだと.....


 マダラは心の内でフローラがこの手紙を読んで、セイジロウに呆れないよう少しだけ願った。


▽△▽▽▽▽△▽▽


 翌日、セイジロウは"餌付け亭" の朝食を食べてから身支度を整え冒険者ギルドに立ち寄って、フローラ宛の手紙を出してからアンリエッタ邸に向かった。


 俺とマダラはアンリエッタ邸に着き執事のシバスさんに挨拶をする。

「おはようございます、セイジロウ様。本日は、新しい倉庫にメイリーンと一緒に行っていただきます」


「はい、二つめの倉庫ですね。ここから近いのですか?」

「徒歩で数十分ですので、馬車を用意しますからしばしお待ちください」

 シバスさんに言われて馬車が用意されるのを待っていると、一台の馬車が現れた。


 前の世界で聞いた事がある馬車に似ていた。それは、キャリッジ型の箱馬車だった。見た目は豪華絢爛とはいかないが、細やかな所に職人細工が適所に飾られていた。


 箱自体の材質は、木材を使用されてると分かる。外装色は黒色で汚れが目立たないと思われるが、実際には黒色は汚れが目立つし艶も手入れをしないと無くなってしまい、みすぼらしくなる。


 馬は4頭引きと贅沢な馬車が、たかが倉庫に向かうだけに使用するとは....さずがアンリエッタさんなのか?


 そんな贅沢な馬車を見ながら内心でビビってると、

「セイジロウ様、お待たせしました。では参りましょう」

 と、メイドのメイリーンさんが現れに人で馬車に乗り新しい倉庫に向かった。ちなみに、マダラは影の中に入ってもらった。


 そして、馬車に揺られて数分後にアンリエッタさん所有の倉庫についた。馬車から降りて倉庫を見ると、外観は前の倉庫とあまり変わらない。大きさもほぼ一緒に見えた。


「では、中に入りましょう」

 と、先を先導して扉を鍵で開け入っていく。魔力灯を点けると、

「.....あぁ、ここもですか....」

「はい、前回同様ですね....品目数も前と同じくらいでしょう」


 俺は、魔力灯で明るくなった倉庫内を見渡すと、前の倉庫の整理前を思い出した。あちこち雑に積まれた木箱の山が幾つも出来ていた。棚にも乱雑に入れられ木箱も視界に入る。


 メイリーンさんから渡された品目書にざっと目を通すと前回と同じ数くらいだと分かる。


「そうですね、整理時間も前回と同じくらいでしょう。昼は歩いて戻りましょうか?」

「いえ、迎えに来ますので。それでは、お任せしてよろしいですか?」


「はい、任せて下さい。昼もよろしいお願いします」

 と、メイリーンさんと挨拶を交わしてマダラを影から出す。


「さて、今日からまた頑張りますかっ!」

『ふむ、すでに慣れたものよ。手早く片すぞ』


 俺とマダラはメイリーンさんが昼の迎えが来るまで黙々と倉庫整理に汗を流した。

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