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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
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思い違い

No64

思い違い





 翌日は冒険者ギルドでプリンの仕込みをしてフレンチトーストを完売したら、ラム爺のトコに顔を出した。

「ラム爺さんいますかー?セイジロウですけどー...」

「なんじゃあっ!!....なんじゃ、セイジロウか、めずらしいのぅ。どうしたんじゃ、家具でも買いに来たのか?」


「いえ、ちょっと相談がありまして....」


 ラム酒さんに冒険者ギルドの食事処で人手不足の話をした。


「なんじゃ、またその話しか...正攻法ならギルドで依頼を出して集めるのがいいじゃろうな」

「それは分かってるんですが、どうも集まりが悪いというか....全く来ないらしいんですよ」


「まぁ、そうじゃろうな....冒険者ってのは素行が悪いからのぅ。それに、下品じゃし乱暴もするからの、普通に働くには除外するじゃろ」

「あーー、やっぱりですか....何となくソレはあるなぁとは思ったんですよね...でもそれだけじゃ全然集まらないって事は無いですよね?」


 他にも人が集まらない原因はあると思うんだけど....


「そりゃ....まぁ....あるだろうな....」

 ん? 何かラム爺にしては歯切れが悪いな....

「どうしたんですかラム爺? 思い付いてるなら教えてほしいのですが? 最悪、依頼報酬を上げても人手が今は欲しい状況何ですが...」


「いや...なぁ...話を聞いただけなんだが、俺もギルドの食事処には直に行ったことがないから何とも言えんが....セイジロウの従魔が多分怖いんじゃないか?ついでにセイジロウもな」


 えっ? マダラが....でも分からなくは無いけど、俺も怖がられてるの?


「セイジロウはあまり噂とか知らないみたいだから言うが、冒険者ギルド内に恐ろしい魔物を飼い慣らしてる冒険者がいるって、わりと有名な噂があるんだよ」


 ラム爺の話を聞くと、どうやらギルドの食事処でマダラが寝転がってるのはすでに街中では知られてる話だそうだ。しかも、それを飼い慣らしてる俺も結構な有名人みたい。


 で、見た目が怖いマダラとそれを従魔にしてる俺がギルドの食事処で連日連夜、食事処で命令を出させて無理やり働かせ、命令に従わないヤツをマダラが噛み殺してる。なんて、噂の1つがあるとラム爺が言った。


「えぇ....そんな事があるわけ無いじゃないですか....」

「まぁ、そりゃ俺はセイジロウを知ってるからな。だが、セイジロウを知らないヤツやマダラと一緒に街中を歩いていれば噂を鵜呑みにしちまうヤツだっているだろ」


「でも...食事処では大人しいし他の冒険者達もだいぶ慣れてますよ。それに、従魔の印だって付けてますよ?」

「だとしてもだ。直接的な接点なんて街で暮らす人は無いだろ? それに、冒険者達の素行が悪いのは事実なんだ。一度悪い噂が立つと幾つも尾ひれつく。最初は小さな噂だったかもれないがな」


 なんて事だ.....良かれと思ってた事が....冒険者達に受け入れ始められてたから、てっきり街にも受け入れ始めたと勘違いをしていた。


 冒険者達と街に暮らす人の考え方や視線は違うと何で気づかなかった....そうだよな、巨体で見たこともない獣を隣に侍らせて歩いていれば誰でも恐怖を感じるよな...


「セイジロウが従魔に優しくするのは分かるし、冒険者達の仲間に受け入れてもらいたいと行動する事は分かるが、他者からの視線をもう少し良く考えるべきだったんじゃ」


「えぇ、そうですね...ラム爺が言ってる事は正しいと私も思います。私が早くに気づくべきでした...」

「落ち込むのは分かるが、良かれと思っての事じゃ。ただの噂だし被害が出てる分けではないんじゃ。人手も冒険者経由で話を聞いてみるのもいいじゃろ」


「そうですね、そういう噂がある事が聞けただけでラム爺のトコに来たかいがありました」

「そうか、まだ幾らでも挽回はできるんじゃ。.....で、他には何かあるか?せっかくだから全部聞いてやるぞ?」


 ラム爺の申し出にのり、リバーシの話を聞いた。リバーシの販売窓口を商業ギルドに移した事によって円滑に進んでるそうだ。リバーシ制作用に従業員を雇い売り上げも上々らしい。


 商業ギルドもリバーシ販売の販路を広げる動きを見せてるらしく、ラム爺のトコに来る制作依頼も当初より数倍になってると言ってくれた。ついでに、利権による俺が受けとる金は随時、冒険者ギルドの口座に入れらてるから確認をしておけとも。


 そして、リバーシを幾つか売ってもらったらラム爺の店をあとにした。


 しかし、人手不足の原因が俺達にあるとは....でも、冷静に考えればそうだと今ならわかる。


 例えば、ライオンを手綱も無しに街中を連れ歩いていたら? で、『僕の言うことは聞くから大丈夫だよー』って言っても信じられる訳がない。


 近くの居酒屋に入ったらライオンが近くで寝転がっていて、『怖がらなくていいですよ、私の言うことは聞きますからー』って、言っても信じられる訳がない。


 俺がやっていたのはこういう事だ。事情を知らない人達が怖がるのは当たり前だし、事情を説明した事なんて無かった。考えが浅かった。


 異世界ファンタジーの物語のように、モフモフとかマスコットとかですぐに仲良くしてくれたり、人気者になったりすると思っていた。だが、冒険者の中にはマダラを良くしてくれる人はいるが、大多数の人達に俺達は良く思われてないのが現実だった。


 俺は小さな溜め息を吐きつつ、夕方から始まるギルドの食事処の依頼に気持ちを入れ替えて冒険者ギルドに向かった。


▽△▽▽▽△▽△▽


 今日も陽が暮れてから忙しく、注文数から考えても売り上げは上々だと分かった。時間が経つにつれて冒険者達も少しずつ街中へと向かったいった。


 客数が少なくなり給仕に余裕が出来た頃、常連の冒険者に噂について話を聞いてみた。


「--それか....確かに聞いた事はあるぜっ。でも、俺らからしたら何て事はねぇよ。初めて見た時は驚きもあったが、マダラが俺達に害をなさないと分かれば気にする程じゃねぇ」


「街で暮らすヤツからすれば、従魔ってのは魔物と変わらねぇと見るからな。中には区別がつくヤツもいるが、大半は怖がる。だが、何もしなきゃ自然と慣れるさ」


「俺らが慣れるみたいにな....マダラッ!肉がいくぞぉー!ホレっ!!」

 話していた冒険者が骨付き肉を寝転がるマダラ目掛けてなげると、マダラは飛んできた骨付き肉を器用に口で掴み食べ始めた。


「なっ!! 最初はこんな事も出来なかったが今じゃこんなもんだ。他の冒険者だって肉をやったりピザをやったり、中には目の前で一緒に酒を飲んだりするヤツもいる。あまり気にすんな! 主がしっかりしなきゃどうにもなんねぇぞ!」


 と、冒険者達は話を切り上げて食事処をでていった。


 その後はいつものように片付けをしてから自宅に向かう。自宅に向かう途中で話を聞いた冒険者の言葉を思い浮かべ、今後の事を考えつつ自宅につく。


 部屋で思考を巡らすが良い考えが浮かばす眠りについた。

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