誓いと新たなる旅立ち
No226
誓いと新たなる旅立ち
セイジロウたちがルインマスの街を出てから三日が経った。
「セイジロウさん、そろそろ野営の準備をしませんか? 先ほどの見かけた場所が良さそうでしたし」
「そうですね。今日は切り上げましょうか。マダラ、リリアーナ、悪いけど今日はここまでにしよう」
マダラとリリアーナに声をかけてフローラさんが言っていた場所まで戻り夜営の準備を始めた。
マダラの影の中から食材、調理道具、テント類を出して各自が動く。フローラさんとリリアーナは夕食の準備を。俺はテントの設営。マダラは周囲の警戒。四人(うち一人は一匹だが)で旅をするのはこれが初めてだが自然と役割分担が出来ていた。
夜営準備が終わりしばらくすると夕食が出来上がったと呼ばれ、各自の皿へと料理を盛り付けて渡していく。
今夜の夕食は女性陣は魚を使った料理で、俺は肉料理、マダラは肉料理と魚料理の二つ。料理を食べ始め各自が料理に舌鼓を打ちながら夜は更けていった。
夕食も食べ終わり食後の休憩を焚き火の近くでしていると、フローラさんが声をかけてきた。
「セイジロウさん、お茶を淹れました。どうぞ」
「ありがとうございます、フローラさん」
俺はフローラさんが淹れてくれたお茶を一口飲んでからホッと息を吐いた。
フローラさんは俺にお茶を渡すと隣に座り、お茶を一口飲んだ。
「お茶、美味しいですね。フローラさんが淹れたお茶を飲むのはいつぶりですかね?」
「ありがとう、セイジロウさん。んーっ?....そういえば、ずいぶんとセイジロウさんにお茶を淹れてませんでしたね.....これからは淹れる回数も増えてきますね。あっ! 新しい茶葉も幾つか買ってあるんで楽しみしていてねっ!」
フローラさんは首を傾げながら考えるも自分から淹れた記憶はずいぶんと掠れていたようで、少し落ち込んだ雰囲気を出したが。次の瞬間には笑顔を取り戻し、今後のお茶を楽しみしてと言った。
「分かりました、楽しみにしていますね。こうして二人でゆっくりとお茶を飲める時間だけで私は楽しいですが」
「それだけじゃダメよ? これから、たくさん楽しい事が待ってるんだからっ!」
フローラさんは俺の顔を見て力強く言った。俺は、お茶を一口飲んでフローラさんに聞いた。
「例えば、どんな楽しみが待ってるんですか?」
「えっ? ど、どんな? そうねー......見たことない景色とか....? あとは、服? 甘味や食事...?」
フローラさんから帰ってきた言葉はとても欲求に忠実な答えだった。
「そこはせめて、これからの私たちの未来とか言ってほしかったですね。まぁ、フローラさんの考えが分かっただけヨシとしときますけど」
「あっ! ち、違うわっ! つ、ついよ! アハハ.....はぁ....確かにちょっと率直過ぎちゃったわ。でも、セイジロウさんが言った、私たちの未来も少しは考えてるわ」
フローラさんは素直に自分の意思を認めた上で、自分たちの未来も考えていた事をいった。
「セイジロウさんにはやりたい事があるのは知ってるわ。そして、それが困難な道だということも。コレから先、たくさんの苦難、困難が待ち構えているし立ちはだかっている....かもしれない。そこは、先の事だから断言は出来ないけど」
俺はお茶を飲みながら黙ってフローラさんの話を聞いてる。薪のはぜる音がパチパチッと小気味良い音を奏でる夜空の下で。
「わたしはどんな苦難、困難があってもセイジロウさんについて行くわ。もちろん、ただついて行くだけじゃなくてセイジロウさんのパートナーとして、そして一人の仲間として。セイジロウさんが地面に手をつき膝を屈してたらわたしが手を差し伸べ肩を貸すわ。セイジロウさんが視ている光景を共に見る事が今のわたしの一番の楽しみねっ!」
そう言って、焚き火の炎に照らされたフローラさんの顔はとても素敵な笑顔だ。俺はその素敵な笑顔を脳裏に焼きつけてから言った。
「私はフローラさんに出会えて良かったと心から改めて思ってます。これからどんな苦難、困難があるか分かりませんがお願いします」
と、改めて一緒に付いてきたフローラさんに伝えた。
「えぇ、任せてもらっていいわ。そ、それと...あの...呼びすてでいいわよ?」
フローラさんは返事をしてから体をモジモジさせながら言ってきた。
「ほらっ! やっぱり仲間内で敬称を付けて呼ぶなんてよそよそしいじゃない? そ、それにっ! パートナーだから呼びすてでいいと思うのよっ! ねっ!」
慌てつつ力説するフローラさんは見ていて少し可愛いと思った。
「分かりました。では、呼び捨てにしましょう。....それと、私も少し口調を変えましょうか。公然の場以外は、俺でいこうか。フローラもそれでいい?」
と、ついでに丁寧な口調を解消した。
「........う、うん。それで、いいわ、せ、せ、セイジロウ」
フローラさんの顔は焚き火の炎に照らされて赤いのか、恥ずかしさから赤いのか。俺の名前を呼んだら俯いてしまった。
「最初は馴れないから少しずつでいいよ。俺はこういう切り替えを普段からしてるからすでに慣れてるけど」
「ウゥゥ.....分かってるわ。分かってたけど少し恥ずかしい....でも、なんか嬉しいわ。セイジロウとの距離がまた近くなった気がする」
と、互いに自然と手を握った。
「俺もそう思うよ。呼び名や口調を変える小さな変化だけど、その小さな変化で互いの絆が深まるのは良いことだと思う」
「そうね、小さな変化だけど疎かには出来ないわね。あとは、自分の気持ちを伝えられた事が良かったのかしら?」
フローラは俺の肩に頭をちょこんと載せ寄りかかりながら言ってきた。
「それもアルと思う。自分の思いを相手に伝える事は大事な事だから。俺も自分の思いや考えをフローラに伝えるようにするよ」
「そうね。セイジロウは話す前に行動を起こすからそこは話してから行動してくれると凄く助かるわ。それと.....たまにはわたしの喜ぶ言葉を言ってくれる事もね」
「あぁ......たまにね。(愛しているよ、フローラ)」
と、心の内でそう囁くとフローラの唇に自分の唇を優しく重ねた。
星ぼしが煌めく夜空の下で焚き火の明かりに照らされて一組の男女が互いのパートナーに誓いをたてた。そして、夜が明けると新たなる旅へと立っていった。
こんにちは、紫煙です。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
今作は、ここで一度終了となります。
この続きは改めて後日の投稿になります。
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