結ばれた日
No223
結ばれた日
アンリエッタ邸をあとにした俺たちはその後、メイン通りを散策して回った。
「セイジロウ、あの店が見てみたい。良い?」
「良いよ、行っておいで」
「リリアーナ、わたしも一緒に行くわっ!」
リリアーナとフローラさんは気になったお店へと向かって入っていった。俺とマダラは特に気になる店でもなかったので、店の軒先で待つことにした。
『おい、セイジロウ。ワレの串焼き肉を寄越すんじゃ』
「今、食べるの? まぁ、別に良いけどさ.....ほらっ」
俺は通り沿いで買った串焼き肉をマダラに渡した。あとの数本はリリアーナの分だ。ここ最近のリリアーナはよく食べる。そして、食べても太った感じは全くない。背丈も少しだけ伸び、胸の膨らみも少しだけ膨らんだ......感じがする?
『ふむ、まぁまぁじゃな。ワレ的にはもう少しタレに物足りなさを感じるの。もう少し辛味というか舌に感じる刺激があると嬉しいのぅ』
お前はいつから食の評論をするようになった?
「お前は気楽な感じで良いよな....腹が減ったら飯を食べて昼寝をして飯を食ってれば良いんだからさ。.....はぁ....さっきのは何かヤバい感じがしたけど、なにもなくて良かった。マジで.....」
『なんじゃその堕落的な言い方はっ! 食は大事な事ではないか! マズイ飯を食べて誰が喜ぶんじゃ!?』
「.....前は食事に興味がなかったんじゃないのか? ってか、食わなくても平気なんだから食わなくいいだろ。無駄に食費が嵩むんだよ」
『ふんっ! 前は前じゃ。そんな細かい事を覚えて、さらにそんな地も涙もない冷徹な言い方をするとすぐにハゲるぞ?』
「そんな事でハゲるかっ!.....いや、ハゲるか? ハゲるの?」
『さあのぅ? ワレは知らんぞ。それより、さっきとはアンリとフローラの会話の事を言っておるのか?』
「うん。ほら、途中から雰囲気って言うか空気感みたいなのが変わったろ? マダラは気がついた?」
『ワレは特になにも感じはしなかったのぅ。戦闘時ならともかく、ただの会話ではわからん。....が、口調の感じからして互いに何かしらの繋がりは出来たとワレは思うが』
「繋がり? 何それ?」
『ワレに聞かれて分かるわけがなかろうが。それより、フローラとリリはまだ帰ってこんのか? ワレは露店巡りに忙しいじゃぞ』
「まぁ、確かに少し時間はかかってるみたいだな」
それからしばらくしてアンリエッタさんとリリアーナの買い物が終わりまた通りを散策して回った。
アンリエッタさんとリリアーナは物珍しいものが視界に入ると二人して駆け寄り互いに会話をしつつ買ったり買わなかったり。マダラは通り沿いにある露店料理に余念がない。嗅覚と感覚を研ぎ澄ませ、気になった露店料理を俺に買わせていった。ついでに、買い溜めように多く買っていきマダラの影の中に保管しておく。こうしておけば、劣化せずにいつでも出来立ての料理が食べれる。マダラと一緒にいればだが。
その日の夜、宿の食堂で夕食を食べたあと俺とフローラさんは宿の部屋で話をした。
「今日は、どうでしたか?」
「楽しかったわ。リリアーナとの買い物が特にね。まだ見てないお店がたくさんあるし、食べてない料理もたくさんあるから楽しみでしょうがないわっ!」
「それは良かったです。まだ、ルインマスの街に滞在しますからその間に楽しみましょう。それと....」
俺はちょっと言いにくいがやはりアンリエッタさんとの事を聞いておくべきだと思い意を決して聞いてみた。
「....アンリエッタさんはどうでしたか?」
「アンリエッタさんですか?」
フローラさんは特に何とも感じてないのか表情の変化はなかった。
「最初に見たときには綺麗な人だと思ったわ。見た目の年齢はわたしと対して変わらない風に見えるのに....エルフィン種ってちょっとズルいと思っちゃった」
「ズルい...ですか。まぁ、そう言われるとそうですかね。ある程度の外見的成長までするとそこで外見の成長はほぼ停滞する。.....でしたか」
良くあるファンタジー小説やアニメ、漫画で知るような設定通りの種族がエルフィン種だ。女性視点から見れば羨ましい限りだろうと俺は思った。
「わたしが知ってるエルフィン種の特徴もセイジロウさんが言ったものと一緒よ。女性からしたら羨ましいわ。....けど、逆に寂しいとも思うわ。わたしみたいに好きな人が出来た時に一緒に歳を取れない。年齢は重ねるけど老いが一緒にとれないのは寂しいとも感じるわね」
「それは、周りとの時間にズレを感じるって事ですか?」
「そうよ。年月が経てば誰でも老いていくなかで自分一人が取り残されていくのは寂しいでしょ? そう感じない人もなかにはいるでしょうし、いつまでも若い外見が良いという人もいるけど.....わたしは一緒に老いていく、時間を重ねていく方が良いわ」
まぁ、確かに賛否はあるだろうな。だが、自分一人だけが周りと違う時間を過ごすのは寂しさを感じるかもしれない。好きな人が老いていく中で自分だけがいつまでも同じ姿なのは.....
「.....そうですね、わたしもフローラさんと一緒に時間を重ねていく方が良いですかね」
「セイジロウさんがそう言ってくれるとわたしは嬉しいわ。でも、アンリエッタさんの事は否定しないでね。アンリエッタさんはそういう寂しさの中で生きているわけだから。わたしたちが思う寂しさを現実で実感してる人だから」
「それはもちろんですよ。種族が違っても多少外見が違う種族でも互いに尊重し会える事がわたしは一番だと思ってますから」
「ふふ、セイジロウさんはそういう所が一番素敵よ。わたしがあなたに彫れた部分でもあるわ」
フローラさんは俺の隣に座ると手を俺の頬にあて笑顔を向けてきてから、優しいキスをした。
「フローラさんはいつまでも優しい人でいてください。それから、自分の事だけじゃなく自分以外の人の為にそんな事をいうフローラさんでいて下さい」
俺はフローラさんの手を握り、優しいキスをした。
「もちろんよ。ただ、セイジロウさんも一緒にね。互いに尊重する事は大事だわ、でも間違っていたらそこを指摘するのも大事よ。セイジロウさんが何か間違っていたらわたしが指摘するし、わたしが間違っていたらセイジロウさんが指摘してね。二人が間違っていたらきっとわたしたちを見てるくれてる人が指摘してくれるわ。そうやって互いに成長しながら生きていきたいわ」
「そうですね。そうできるように私もがんばりますね。これからもよろしくお願いしますね、フローラさん」
「わたしもお願いね、セイジロウさん」
俺とフローラさんは互いに抱き合いキスをしながらベッドの中へと入った。
この日、二人は言葉と同時に体も結ばれた。