アンリエッタ邸での邂逅
No221
アンリエッタ邸での邂逅
昨夜は特に何もなく、翌朝は普通に目を覚ました。俺とフローラさんは簡単に身支度を整えると宿の食堂へと向かった。
「おやっ? 昨日はお楽しみじゃなかったんだね。せっかくの初日なのに何やってんだか」
「おはようございます、ロゼッタさん」
「おっ、おはよう、ご、ございます、ロゼッタさん....」
俺はロゼッタさんの言葉を華麗にスルーしながら挨拶をし、フローラさんは真面目に受け取り朝から顔を赤くしながらも挨拶をした。
なぜ、顔を赤くするのフローラさん?
「朝からからかわないで下さいよ。それと、果実水を二つお願いします。朝食はリリアーナが起きてから注文しますから」
「はっは、まったくあんたの若奥さんは恥ずかしがり屋だね。分かったよ、今後は控えるさ。適当に座んな、すぐに果実水を持っていくよ!」
俺とフローラさんは空いてるテーブル席に腰をおろし、ロゼッタさんが持ってきた果実水を飲んで一息ついた。
「ねぇ、セイジロウさん。ロゼッタさんはいつもあんな感じなのかしら?....その、嫌とは言わないけどちょっとからかわれるのは....」
「大丈夫ですよ、フローラさん。あれはロゼッタさんなりの気遣いですよ。いつもはあんな感じじゃないですから。気にしなくて平気ですよ」
「そっ、そぅ? なら良いんだけど。わたしはあまり他の街に出た事がないし、旅も今回が初めてだからどうしていいのか分からないのよね....もちろん、昔は冒険者として活動はしていたけどそれはハルジオンの街だけだったし」
「あまり肩に力を入れずにすれば良いんですよ。わたしもリリアーナも一緒にいますから、いつでも相談して下さい。それに、この街には友人も居ますからあとで紹介しますよ」
「最初はセイジロウさんに背中を借りるけど、いづれは隣に立つからちょっとだけ甘えさせてねっ!」
フローラさんは申し訳なさそうな顔をしつつ、可愛らしく首を少しだけ傾けながら笑顔で言ってきた。
....まったく朝から可愛いなぁ。ここしばらくはこうしたやり取りが無かったから刺激が強いっ!
「任せて下さい。一緒に頑張りましょうか」
そんな二人きりの時間もすぐに終わり、リリアーナが俺たちのテーブルに俺の隣に座った。
「おはよう、リリアーナ」
「なぜ、そっちに座るの? リリアーナ」
「んっ。おはよう、セイジロウ。フローラもおはよう。それと、朝はセイジロウと一緒。夜はフローラが一緒なんだから相子なの」
いや、どんな理屈?
「リリアーナはよく眠れた? 体調はどう?」
「よく眠れた。体調も大丈夫。今日は何するの?」
「朝ぐらいは別にセイジロウさんの隣を許してあげるわ。でも、夜はわたしが隣に座るからねっ!」
と、フローラさんは小さな少女に全力で対抗していた。
あれ? フローラさんてこんな感じだったっけか?
「まぁ、フローラさん。少し落ち着きましょうよ。全員揃ったんですから朝食を食べましょう」
俺はロゼッタさんに朝食を頼み、ついでにマダラ用の朝食を作ってもらうように頼んだ。
餌を与えとけばマダラは大人しくなるからな。
その後は今日の予定を話つつ、ボリューム満点な朝食を食べていく。
朝の朝食は、スープ、パン、サラダ、厚切りベーコンに焼き魚だ。俺とリリアーナは完食し、フローラさんは食べきれなかった。
フローラさんは朝食を食べきれなかった事に対してロゼッタさんに謝罪をしていたが、ロゼッタさんは笑いながら気にしていないと言ってくれていた。明日の朝食から量を調節する言ってきた。
ちなみに、朝食時に「朝からなんでそんなに食べれるのっ!?」
と、フローラさんはビックリしていた。
朝食を食べ終わって部屋で身支度を整えたら宿を出てメイン通りを歩く。もちろん、マダラは俺の影から出して一緒に歩いている。
「フローラさん、これから向かうのは以前お世話になったアンリエッタさんの屋敷です」
「手紙で知っているわ。腕の良い魔導具師ね。冒険者ギルドでもある程度の名前は知れてる人物よ。数々の魔導具を作り出し一代で莫大な富と権力の持ち主。ルインマスの街の権力者の一人」
「ずいぶんと凄い人ですね」
「えぇ、凄い人物よ。そんな人物と簡単に知り合って、いつの間にか友人になってるセイジロウさんにこっちが驚きだけどね。最初に手紙で読んだ時には目を疑ったけど、セイジロウさんならあり得ると思って同時に納得もしたわね」
メイン通りを歩きながらフローラさんとそんな話をする。
少しうしろではリリアーナとマダラが軒を重ねる露店に目を配りながら付いてきている。
『おい、セイジロウっ! あの露店は初めて見るぞ! あの露店の料理を買うから金を寄越せ!』
『リリアーナに幾らか渡してあるからリリアーナに買ってもらえよ。ついでに買い溜めの分も頼むよ』
俺はフローラさんとの会話の合間に思念でマダラとも話していた。
メイン通りを歩き時折、マダラとリリアーナが付いてくるのを街ながらアンリエッタ邸を目指して歩いて行った。
しばらくしてアンリエッタ邸に着くとドアノッカーを鳴らした。少しして扉が開くとそのには久しぶりに見るロンスグレーな老齢な紳士、執事のシバスさんが現れた。
「お久しぶりです、セイジロウ様。お元気そうで何よりです」
「はは、お久しぶりですね、シバスさん。そんな丁寧でなくて良いですよ。今日は急な訪問で申し訳ありません」
「いえ、セイジロウ様なら何時でも歓迎します。アンリエッタ様もお喜びになりますよ。それで、本日は....なるほど、そちらの女性が以前に話された方ですね」
「紹介します、私の婚約者でフローラさんですね」
「ご紹介に預かりました、フローラ・フェイ・ハルジオンと申します。以後、お見知りおきを」
と、貴族の娘らしく礼儀作法通りに挨拶をしたフローラさん。宿のロゼッタさんに挨拶した感じではなくきちんと貴族の習わしに乗っ取った挨拶だった。
「これは、失礼しました。改めてご挨拶させていただきます。主がアンリエッタの執事でシバスと申します。御無礼を平に容赦下さいませ」
と、シバスさんもいつもと違う礼儀作法でフローラさんに挨拶をした。
俺はその様子を呆けた感じで見ていた。
「ご丁寧な挨拶をありがとうございます、シバスさん。気遣いは嬉しいですが、出来ればセイジロウさんと同じように接してくれると嬉しいですわ。父の権力を傘にするつもりはありませんから」
「どうやらそのようですね。何とも、凛とした女性です。セイジロウさんは素晴らしい女性と縁があったようで」
「ありがとうございます。そう言ってくれるととても嬉しいですわ。今後ともよろしくお願いします、シバスさん」
「こちらこそでございます、フローラ様。さて、セイジロウさんを待たせるわけにも行きませんから、ご案内しましょう」
何やら俺の理解の範疇外でシバスさんとフローラさんのやり取りが終わったようで、俺たちはシバスさんの案内で裏庭へと案内された。




