フローラ、若奥さんと言われる
No220
フローラ、若奥さんと言われる
俺とマダラ、リリアーナさんとフローラさんはハルジオンの街を出てルインマスの街へと辿り着いていた。
道中は、いつものように街道の中ほどまで歩きそこからはマダラの背中に跨がり最短距離でルインマスへと向かい一度の野営をへて無事に街へと着いた。
一季節ぶりにルインマスの街へ帰ってきた。門街で門兵へとギルドカードを提示して街中に入りすぐに宿を目指した。
以前にも利用し、フローラさんへの手紙に記した通り"餌付け亭" へと足を進める。
「フローラさん、見えてきました。あれが手紙にも書いた"餌付け亭" ですね」
「へぇ、あれがっ! 料理が美味しくてサービスも良い宿なのよね?」
フローラさんは見えてきた宿と俺の顔を交互に見ながら言ってくる。
「はい。あそこに泊まったら他の宿にはもう泊まれませんよ。まぁ、わたしはあそこしか知らないんですけどね」
「セイジロウさんがそこまで薦めてくる宿だから期待はしてるわ! さっ、時間も昼を回ってるから宿の予約をしちゃいましょうっ!」
フローラさんは嬉しそうに俺の手を握りながら足早に宿へと向かう。
その後ろから、通りの露店で買った串焼き肉を片手に食べながらついて来るリリアーナ。
その隣でチラチラッとリリアーナの串焼き肉を物欲しそうな目で見つつ付いて来るマダラ。
実際、露店ではマダラの分と買い溜めの分をちゃんと購入してある。が、マダラは歩きながら食べれないのか早く食わせろと言われるばかりにたまに俺にも視線を向けてくるのは知っていた。
『宿に着いたら自由行動に、ちゃんと飯も食わせるからそんな睨むなよ』
『ふんっ! ワレは久しぶりに旨い飯を期待して街を目指し着いてみればお預けとはっ! 宿に着いたらワレは食うからなっ! 満足するまで食べるんじゃっ!』
『はいはい....宿に着いたらマダラの夕食も頼んでやるから、さっき買った分で夕食までは我慢しろよ。近いうちに市場にも行くからその時には買ってやるよ』
『チッ...今日はそれで手を打つが、露店巡りも忘れるでないぞっ! ワレがいない間に旨い飯が出来てるかもしれんからなっ!』
と、宿を目指し歩きながらマダラと思念のやり取りをしていた。
まったく残念な従魔に育ったもんだな。出会った時には違う感じ....いや、プリンの時からすでにこんな感じか....扱いやすさ的には便利なんだけどなぁ....
フローラさんと手を繋ぎ歩いて目的の宿へと俺たちは着いた。
俺は久しぶりに訪れた宿の扉を開けた。
「こんにちはっ!」
と、嬉しい気持ちを抑えたつもりだったが声は自分が思ってる以上に大きく出た。
「おやっ? あんたかいっ! 久しぶりじゃないかっ! 元気そうじゃないか!」
と、肝っ玉母さんを思い出すような豊かな姿(ポッチャリよりとは違う、○ブと言ったらもう泊めてもらえないだろう)のロゼッタさんがカウンターから出てきて寄ってきた。
「お久しぶりです。と言っても一季節ですが」
「なに言ってんだい! 冒険者はいつ何があるか分からないんだからっ! 元気でよかったよ! それに、連れもいるじゃないか。リリアーナも久しぶりだねっ! 少し背が伸びたかねぇ」
ロゼッタさんは俺の隣にいるフローラさんを見てそう言い、リリアーナを見ては成長に気づいたようで微笑みを浮かべている。
「紹介しますよ、こちらがフローラさんで私の婚約者になります。正式では無いですが、すでにご家族の一部には認められてます」
俺はロゼッタさんにフローラさんを紹介し、フローラさんは綺麗なお辞儀をした。
「初めまして、フローラと言います。お話はセイジロウさんから聞いていて泊まるのを楽しみにしてきました」
「おやおやっ! あんたもなかなかやるじゃないかっ! それに若奥さんも堂々としていて、嬉しい事をいってくれるねぇ!」
「わたしも楽しみだった。また美味しい料理が食べたいのっ!」
リリアーナが一歩前に出てきて自分の気持ちをロゼッタさんに伝えた。後半は欲望に忠実な言葉だったが、成長なリリアーナにはしょうがないと思った。
「はっはっは! リリアーナも嬉しいねっ! 分かってるよっ! 料理の味は落ちてないから安心しな! それじゃ、部屋の手配と宿泊の予約をしようかね」
「えぇ。シングルを--」
「ダブルを一つにシングルを一つで。それから、日数は五日でとりあえずお願いしますっ!」
と、俺が言おうとしたらフローラさんが前に一歩出て言ってきた。俺は呆けた顔でフローラさんの顔を見ていた。フローラさんは顔を少し赤くしながらも堂々としている。
「そうかい。じゃ、それで予約して置くよ。鍵はこれだね。以前泊まってるから部屋の場所は分かるだろうね?」
「えっ、えぇ。分かります。ありがとうございます。あと、実は従魔の夕食に用意してくれますか?」
「あぁ、良いさねっ! ただし、料金はいただくよ」
「それで構いませんよ」
俺はロゼッタさんに言われた部屋へと向かい、部屋割りは案の定フローラさんと同室だった。
リリアーナは自室へと入り、俺とフローラさんは部屋へと入ると手荷物を置き備え付けの椅子へと腰かけた。
「フローラさん、ずいぶんと強引でしたね。まぁ、私は構いませんが」
「だってこうでもしないと.....それに、こ、婚約者だし...若奥さんだし...」
と、顔を俯かせて恥ずかしそうに小声で言ってきた。
「事前に言ってくれれば私の方で伝えたんですが、面目ありません。もう少し私が早く気づいていたら」
「そんな事ないわっ! わたしがセイジロウさんと一緒に居たかったからっ!」
フローラさんは俺の顔を見ながらそう言った。
はは、ずいぶんと愛されたなぁ。まぁ、俺もフローラさんが大好きだから良いんだけどね!
「ありがとう、フローラさん。その気持ちは凄くうれしいですよ」
俺は笑顔を作ってフローラさんの言葉にそう返した。
「っ!! さっ、さてと! 夕方までは時間も少ないから冒険者ギルドに行って手続きをしたゃいましょ!」
最後に噛みながらフローラさんは立ち上がると足早に部屋を出ていった。
「はは、冒険者ギルドでミスをしなければいいけど。まぁ、フローラさんだからその辺は大丈夫かな。さて、リリアーナとマダラはどうするのか聞いてこなきゃ」
俺はリリアーナの部屋へと向かいこの後はどうするかを聞きに行った。
その後、リリアーナとマダラはルインマスの街の観光に向かい俺とフローラさんは冒険者ギルドへと行き手続きをした。