ビルドさんの勝負運
No214
ビルドさんの勝負運
冒険者ギルドの食事処で働くビルドさんからハルジオンチェスの挑戦を受け対戦するまでのんびりと過ごしていた。
リリアーナは朝食や軽食を食べに来ている冒険者や旅人たちに給仕を行っている。
そんなリリアーナの姿をときたま横目でみる。
リリアーナはずいぶんと給仕がいたについてきてるな。まるで前の世界のウェイトレスを見てるみたいだな。ファミレスとかにあんな子がいたら一躍大繁盛だろうな。
リリアーナは見た目はまだ少女、まぁ美少女だがあと数年もすればこっちの世界での適齢期、いわゆる婚期が訪れるわけだけど....なんかちょっと嫌だな。下手な男に捕まらないようにしっかりと見張らなきゃなっ!
そんなこんなで色々な想像? 妄想? を考え、のんびりとした時間が過ぎるとようやくギルドの食事処が少し落ち着き始めビルドさんも暇になってきた。
ちなみに、マダラは注文した料理を平らげさらにおかわりまで食べてしっかりと夢列車に乗って行った。久しぶりに満足するまで好きなだけ食べれてさぞ満足だろう。
朝は口悪くマダラと言い合ったが、俺がいない間はそれなりに頑張ってくれたんだ。今日ぐらいは好き食わせてあげても良いかと思った。口には絶対に言わないが、これでもマダラにはだいぶ感謝してるんだから。
「ビルドさん、そろそろやれそうですか?」
「おうっ! この洗い物が終わったらやるかっ! リリアーナもそろそろ良いぞっ!」
と、ビルドさんはリリアーナに声をかけた。
「わかった。セイジロウ、約束通りチェスを教えて」
「わかってるよ。それじゃ、チェスを用意するからリリアーナは俺の隣に座って。あっ、好きな果実水を持ってきていいよ。代金は俺が払うから」
「んっ。ありがとう」
「こっちは終わったぜっ! プハァーーっ! 仕事終わりの一杯は最高だなっ!」
ビルドさんはエールを片手に声をかけてきた。
「まだ、午前が終わったぐらいでしょ。いいんですか、飲んじゃって?」
「ハッ! これが楽しみでやってるようなもんだ! あとは暇な冒険者たちが酒を飲みに来るくらいで夕方までは暇だから平気だよ!」
「それもありますけど....リリアーナに言われますよ?」
「ビルドは頑張ったから良いの。ご褒美」
と、タイミングよく果実水を用意してきたリリアーナがそう言った。
「えっ? ビルドさんは良いの?」
「んっ。ビルドは働き屋さんだからご褒美が必要。冒険者と一緒でエールが報酬」
リリアーナにしては甘い評価が返ってきた。なので、俺も便乗してみたが、
「セイジロウは働いてない。だから、一杯だけは良いけどそれ以上はダメだよ」
と、言われたので夕食まで大事な一杯は取っておく事にした。
そんなリリアーナとのやり取りを見て聞いていたそれを肴に旨そうにエールを飲み干し、続けて新しいエールを用意して見せびらかしてきた。
ふふっ! 良いでしょう。手加減は無しで徹底的に負かしてあげますよ、ビルドさん。ついでに、夕食も賭けてタダ飯をいただきましょうか!
「さて、準備出来たのでやりますか。び」さんも良いですね?」
「おう、いいぜっ! 俺の腕を見せてやるよっ!」
「リリアーナもいい? まずは、俺とビルドさんの勝負を見ながら俺がルールを説明してあげるから」
「んっ。いつでもいい」
と、ここに仁義無きチェスの戦いが始まった。
「まずは、それぞれの駒がどのように動くのかを覚えることが大事だよ」
と、俺は自身側のポーンを動かしてリリアーナに説明する。
「最初はなにが何だか分かんなかったが、やってるうちに覚えちまうよっ!」
ビルドさんもポーンを動かしてくる。
「んっ。駒の動きを覚える。次は?」
「そしたら次は予測を立てる事だね。相手側が動かした駒の意図を読んだり、自分の駒を動かしてどう攻めていくか」
「駒の読み合い」
俺はリリアーナに説明しつつ、次々と駒を動かしていく。ビルドさんもすでに手慣れた感じで序盤はどんどんと進んでいく。
「そう、駒の読み合い。思考の戦い。知略の掛け合いなんて呼ばれたりもしていたね。チェスとはいかに相手の思考を読むかによって勝敗が左右されるものだからね」
俺はビルドさんが攻め立てくる道筋を読んで先に潰していく。道筋に気づかれて潰されたビルドさんは悔しそうにしている。
「ふんっ! だが、勝負は終わってみなきゃ分からねぇっ! 相手の読みをさらに読み返していけば良いだけだっ!」
と、自分を鼓舞するようにビルドさんはクウィーンの駒を動かして俺のナイトの駒をとった。
「それは、悪手」
「だね、ナイトは囮でクウィーンを引っ張り出したんだ。さて、これで守りが薄くなったね」
俺はビルドさんの守りが薄くなった場所に向かって駒を進めた。
リリアーナはすでにそれぞれの駒の動きを覚えたのかそう言った。
「なっ! だが、まだだっ!」
ビルドさんは自身側の駒で守り固めようとするがすでに手が遅れ始めている。このまま行けばあと数手でチェックができる。
「このままだとビルドが負ける」
「そうだね、あと数手で勝負は決まるね」
「んなっ! くそっ! これならどうだっ!?」
ビルドさんは最後の足掻きのように駒を動かすが俺はすでにその動きを読んでいる。
「まだまだですね。はい、チェックです」
「あーっ! くっ、くそっ!」
「そっちに動かしても逃げ場ない」
「その通りです。チェックメイト。勝負ありですね」
「だぁーっ! また負けちまったかっ。今回は行けると思ったんだがな」
ビルドさんと俺の対戦は俺の勝利で終わった。
「どうかな、リリアーナ。チェスのおおよそのやり方はわかった?」
と、リリアーナに聞いてみた。
「んっ。駒の動きは覚えた。次は私がやってみたい」
「だ、そうですよビルドさん。リリアーナと対戦してみますか?」
「いいぜっ! セイジロウには負けちまったが次はそうはいかねぇぞ。見るのとやるのじゃ違うって事を俺がリリアーナに教えてやる」
と、ビルドさんはやる気満々でチェスの駒を並べ始めた。
「リリアーナは今回が初戦ですから、お手柔らかお願いしますよ」
「わーってるよ。程々にしてやるよ!」
と、言っているが本当かどうかは怪しい。
「リリアーナ、まずは無理をせずに冷静に盤面を見るんだよ」
「んっ。大丈夫。セイジロウは隣で見ていて」
「じゃ、並べ終わったみたいだから始めましょうか。先手はどっちが?」
「先手はリリアーナでいいぜっ! 今回が初戦だからなっ。」
ビルドさんはリリアーナに先手を譲ると言ってきたの先手はリリアーナからとなった。
「じゃ、互いに待ったなしでやりますよ。ちなみに、何か賭けますか?」
「そうだな、果実水あたりでいんじゃねぇか? リリアーナは負けたらどうするんだ?」
「わたしはビルドにエールでいい」
「なら、それでいきますか。負けた方が相手に奢るという事で.....では、始めて下さい」
ビルドさんとリリアーナの対戦が始まった。
序盤は特に変化なく互いに相手の出方を伺ってる状態で進んだ。
「はっは! 初心者のリリアーナにはまだ負けるわけにはいかねぇな! ほれ、そろそろこっちから攻めていくぞっ!」
と、ビルドさんがそう言って手を進めてきた。
「んっ。対戦に熟練も初心者もない。結果がすべて」
リリアーナはビルドさんの挑発には乗らずに冷静に戦況を見て駒を進める。
「それも一理あるが勢いは大事だぜっ!好機を逃せば戦況は変化するっ!」
少しずつビルドさんの駒がリリアーナの駒を削っていくがリリアーナは冷静に対処していく。
「ビルドは油断しすぎ。もっと相手の戦況を見るべき」
と、ここでリリアーナが動き始めた。
「はっ! 今さらそこを動かしても無駄だぜっ! 先に俺がキングをチェックしてやるからなっ!」
ビルドさんの駒が進み徐々にリリアーナのキングの駒に進むが、
「ビルドは甘い、最弱が最強になる事も考える」
リリアーナのポーンがプロモーション、いわゆる格上がりになった。リリアーナはポーンからクウィーンに変化した。
「なっ! そりゃなんだよっ!?」
ビルドさんはポーンの変化に驚いていた。
「プロモーション、ルールはきちんと把握するべき。最弱だからといって蔑ろにしていいわけはがない」
ここで一気に戦況が変わりビルドさんは防戦に追いやられついにはキングがチェックメイトされて敗北した。
「ビルドの負け。果実水はわたしが勝ち取った」
リリアーナはニコリっと微笑んで俺に向かって手を上げてきた。俺は、手を上げてるリリアーナにハイタッチをした。
パンっ!
「うん。初戦にしてはいい戦いだったよ。ルールもしっかりと把握して戦況も冷静に見ていたしね」
俺はリリアーナの頭を軽く撫でて誉めると、リリアーナは目を細め嬉しそうにしていた。
「くっ、くそっ! まさか、ポーンが変化するとはっ! ちっ、負けは負けだ。約束通り果実水は俺が奢ってやるよっ! って、事で今度はセイジロウと再戦だ! 次はこうはいかねぇからな!」
と、ビルドさんからの再戦を受ける事になった。
「しょうがないですね。それでは、次はフライドポテトでも賭けますか。少し小腹らが空きましたし。リリアーナも食べる?」
「んっ」
「じゃ、二人前で」
「はっ! 上等だぜっ! なら、俺はエールと唐揚げだっ! それじゃ、勝負だっ!」
こうしてのんびりとしたある日の日常が過ぎていった。
もちろん、ビルドさんとの勝負は俺の勝ちで終わりフライドポテトをゲットした。