いつの間にかツケを覚えていたマダラ
No213
いつの間にかツケを覚えていたマダラ
改良版のハルジオンチェスが完成し、しばらくぶりにゆっくりと過ごした数日後、いつもの日常が戻ってきた。
朝、目を覚まして身支度をしてから宿の食堂へと向かった。
空いてるテーブル席につくと給仕の女性に黒茶を頼んでリリアーナが起きてくるのを待つ。
今日はどのように過ごすかを頭の中で考えてると、リリアーナが起きてきてテーブル席の対面に座った。
「セイジロウ、おはよう」
「リリアーナ、おはよう。何か飲む?」
「んっ。いつもの」
と、俺は女性の給仕に黒茶と朝食を頼んだ。
「さて、今日からはある程度時間が作れるようになったから。今までありがとう、リリアーナ」
と、ハルジオンチェスにかかりきりだった事に対してリリアーナに感謝を伝えた。
「んっ。セイジロウがやりたかった事だから気にしてない。これからは一緒に冒険する?」
「そうだね、大丈夫だよ。リリアーナは何かしたい?」
「もっと違う場所に行ってみたい」
「そう、なら色々と調べてみよう。他の場所で色々なものをみたり、違う街で美味しいものを食べるのもいいしね」
と、リリアーナとの今後の予定について話をしつつ、朝食が用意されたので食べ始めた。
朝食を食べながらとりあえず今日の予定をリリアーナに聞くと、午前はギルドの食事処でビルドさんの依頼を受けると言ってた。
午後はいつも通りマダラとの訓練をするらしいが久しぶりに時間が出来たので、午後はリリアーナと街中の散策に繰り出すことにした。もちろん、マダラも一緒だ。
俺とリリアーナは朝食を食べ終わり身支度を整えて冒険者へと向かった。
『やっとチェスとやらの用が終わったようじゃな。ずいぶんと入れ込んでおったがどうなんじゃ?』
俺はメイン通りをマダラとリリアーナで一緒に歩きながら思念でマダラと会話する。
『まぁ、それなりの物が出来たよ。もう少しでお披露目をするみたいだから一緒に見に行こうか? たぶん、露店とかも出るはずだからそれを買って食べながら観戦するか』
『ほぅ、期待に満ちた答えじゃな。セイジロウが入れ込んでチェスとやらを見てみよう。それと、露店での料理も忘れるでないぞ? いままで満足に食べれなくなった分を買うのじゃ!』
『んっ? なんだビルドさんのとこでたべてないのか?』
『リリが働かなければ食わせてくれんのじゃよ』
と、マダラの声のトーンが下がり顔も少しうつむきかげんになってシュンっとしていた。
『いや、働けばいいだけじゃん。どうせ、いつもの場所で寝転がっていたからだろ?』
『そうじゃが、べつにワレは良いではないかっ! リリが働いてる時はワレは大人しくしていた方が良いじゃろ? それに、リリの訓練にはしっかりと付き合っておるし。食い物ぐらい好きに食わせてくれても良いとは思わんか?』
って、言われても.....リリアーナってそんなに厳しかったっけか?
『まぁ、マダラの言ってる事は分かるけどな。今日からは俺も一緒に行動するし、今夜はたらふく食わしてやるから。なっ?』
『約束じゃぞ? 最近は、パンとフライドポテト、唐揚げにピザぐらいしか食べてないんじゃ。前なら肉を注文しておったんじゃが、リリが言ってからは注文出来なくなっておったからの』
『おまっ、それは食い過ぎだろっ! そりゃリリアーナがそう言うわけだ....しかも、昼と夜だろ?』
『そうじゃが? まぁ、たまにその間にも注文するがの。プリンは定番じゃし、あとは串焼き肉もじゃな』
『.....お前、それって全部どうやって頼んでるんだ? リリアーナが許可してたとは思えないが...』
『そんなのセイジロウが払うと言えば料理が出てくるじゃろ? 何を言っておるじゃお前は?』
お前がなに言ってるんだよっ!
『何を言ってるのはお前だよっ! 全部、俺のツケじゃねぇかよっ! どんだけ食ったんだよっ! やっぱり今日は露店の料理だけだからなっ!』
『なっ! さっきは食わせてくれると言ったではないかっ! 話が違うではないかっ!』
『お前の話が違うわっ! 人がちょっと心配で話を聞いてみれば....全部、食いすぎのお前が悪いっ!』
と、メイン通りを歩きながら俺とマダラは声無き声で身振り手振りでワーワーっと歩いていた。
リリアーナはそんな俺たちを見ながらなぜか微笑ましい顔を向けたり、途中の露店で気になった料理を買っていた。
俺たちは冒険者ギルドに着くと、リリアーナとマダラは食事処へと向かい俺はめぼしい依頼が張り出されていないか提示板に向かった。
うーん....やっぱり良い依頼は無いな....分かっていたけどね。まぁ、仕方ないか。
俺は提示板のチェックをおえると、食事処のいつものカウンター席に向う。すると、すぐにビルドさんが声をかけてきた。
「おうっ! なんだ今日はこっちに顔を出したのか?」
「おはようございます、ビルドさん。えぇ、ようやく一段落したのでこれからまた少し暇になりますね」
「ほぅ、ならようやく完成したわけかっ!」
「はい、やっとですね。錬金術ギルドや各ギルドが頑張ってくれたおかげですよ。もう少ししたらハルジオンチェスのコロッセオがお披露目しますよ。今は微調整をしてる最中でしょうから」
そう言って俺は果実水をビルドさんに注文した。マダラには、朝食の代わりに串焼き肉セットとパンとスープを頼んだ。
「そりゃあ、楽しみだなっ! 最近はわりとハルジオンチェスをやるヤツが増えてきたからなっ! オレもそれなりに腕をあげたぜっ! 久しぶりに一戦するか?」
ビルドさんは俺と話しつつも手は忙しく動かし注文を受けてる料理を手早く作っていく。
朝の早い時間帯は過ぎたが食事処にはわりとお客は入っていた。冒険者や旅人、他にも街の住人などが朝食を食べに来ている。
「そうですね、ビルドさんが落ち着いたらやりましょうか?」
と、ビルドさんの申し出を受けると同時に注文していた料理を持ってリリアーナがやってきた。
「これは、セイジロウの果実水。これが、マダラの料理。セイジロウは、ビルドと約束事?」
リリアーナは料理を並べると言ってきた。ちなみに、マダラは久方ぶりなのかガツガツと食べ始めた。
「うん。ちょっとビルドさんとチェスの約束をね。リリアーナはどうする? せっかくだし一緒にやる? ハルジオンチェスのコロッセオも出来るからルールを覚えれば一緒に参加出来るし。訓練も良いけどたまには俺たちに付き合ってみる?」
と、俺は気まぐれだがリリアーナを誘ってみた。せっかく、娯楽遊戯としてチェスを発案したんだ。年頃の子供が娯楽遊戯の一つも知らないのはな。
「......うん。セイジロウと一緒にやる。だから、依頼の仕事が終わるまで待ってて」
リリアーナが少しだけ悩んだあとにそう言った。
「分かった。なら、三人で今日はチェスをしようか。良いですよね、ビルドさん?」
俺は料理を作っているビルドさんに尋ねた。
「おうっ! べつに良いぜっ! それまでは適当に過ごしてろやっ! 今回はすんなりと勝てると思うなよっ!」
と、ビルドさんの宣戦布告を受けそれまではのんびりとした時間を過ごした。




