プロジェクト開始・9
No211
プロジェクト開始・9
冒険者ギルドの資材置き場を改良して、ハルジオンチェスのコロッセオが建築されそこで改良版【ハルジオンチェス】の試運転が始まった。
ギルバートさんが説明してくれた台座にはすでに魔力が充填されあとは自身側のハルジオンチェスを動かすだけとなった。
「ギルバートさん、始めてもいいですか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。今回の先手はセイジロウさんからになりますから。その台座に置かれてるハルジオンチェスの駒を指で動かすだけで、舞台に設置されてる駒が連動して動きますから」
そうギルバートさんが説明したので俺はまず手始めにポーンを動かしてみた。
すると、俺が動かしたポーンと舞台に設置されてるポーンがゆっくりと動いて指定の場所に移動した。
「おぉっ!」
「わあっ!」
「おぉっ! やりましたっ!」
と、三人が驚きの声を発した。
「あれ? ギルバートさんまで驚いてますけど....」
「えぇ、やはり驚きますよ。一応、製作した段階での始動チェックはしましたけどやはり心配はしますからね」
「凄いわね....実際に動くとこを見るとさらに驚くわね。まぁ、もしかしたらっていう懸念はあったけど」
「いやいや、アンナさん。あまり不吉な事を言わないで下さいよ。とりあえず最初の一手は成功ですね! さっ、どんどんやっていきましょう」
と、俺たちだけでなく製作に加わった人達など舞台の回りで喜んでいる姿を見ながら次々と手を進めていく。
そして、まず第一の関門である駒同士の対戦になる。
まずは俺のポーンが相手のポーンを取れる場所まで移動した。通常のポーンなら指で相手のポーンを取ればいいのだが今回はそうではない仕様だ。
改良版のハルジオンチェスの真骨頂が試される場面だ。
「ギルバートさん。次の手で相手のポーンを取るわけですが、どのようにすれば良いのですか?」
「では、やり方を説明しますね。まずは、次に移動する場所の盤面のマスに指で触れて下さい」
俺は言われた通りにした。すると、触れた部分のマスがほんのりと光を発した。
「おっ? これはマスが光りましたね」
「えぇ、そこには相手側のポーンがある場所ですね。実際に確認するには舞台を見れば分かります。さらに、相手側の台座に配置された盤面のマスも光ってるはずです......大丈夫そうですね」
ギルバートさんは手を上げて相手側の確認をしてからまた説明を始めた。
「舞台を見てもらえれば分かりますが、相手側のポーンの下のマスが光ってますね。それでは、セイジロウさんは光ってるマスにポーンを動かして下さい。そうすればさらに驚く事でしょうっ!」
と、ギルバートさんは誇らしげに自信満々な顔で言った。
言われた通りにポーンを光ってるマスに動かした。通常ならその場所には相手側のポーンがあるのたが、台座に設置されてるチェス盤には相手側の駒が配置されていない。
光ってるマスにポーンを動かすと舞台に設置されてるポーンが舞台の上空へと浮き上がった。
「浮いたっ?! しかも、相手側のポーンも浮かんだっ!」
「そんな....どうなってるのよっ!?」
これには本当に驚いた。まさか、ポーンが浮かび上がるなんてっ!
「はははっ! どうですかっ! これには苦労しましたよ。何せ通常のチェスは指で駒をどかしますからね。ですが、改良版のハルジオンチェスでは人手が必要になります。もちろん、舞台袖から駒をどかす人員を配置すればいいんですが、それでは興が覚めますし何より拍子抜けで滑稽に見えてしまいますからね。ここは錬金術ギルドの腕の見せ所でした!」
いや、確かにそうだ。俺もその考えあった。だが、こうくるとは.....まったく異世界ファンタジー様々だな。
「あの仕組みはどうなってるのかしら? 物を浮かす技術なんて初めて聞いたわよ?」
「はは、そうですね。ですが、物を浮かすだけならすでにアンナさんは知っていますよ? 少しマイナーですが、浮遊石をご存知ありませんか? ただ浮き上がる鉱石ですよ」
アンナさんは少しの間だけ思い出す時間を要したが、すぐに思いあたったようだ。
「まさか....あの石を? 特に使い道がないただの石を使っているの?!」
「えぇ、そうです。が、実はただの石、いや、鉱石ではなかったんですよ。まぁ、鍛冶屋や建築士からしたら不要ななんの役にもたたない鉱石ですが、今回はそれがなければこのような事が出来なかったでしょうね」
浮遊石? 確かどこかで耳にした記憶があるんだけど.....どこだっけか?
「まさか浮遊石に目をつけるとはね。それで? どのような技術なのかの説明はあるのかしら?」
アンナさんは興味深そうな顔をしてギルバートさんに話しかけるが、
「いやぁ、さすがのアンナさんにでも話すわけにはいかないですよ。ただ、概要の説明と技術的な協力はできますよ」
「まぁ、そうよね。これだけの技術だものね。その時が来たらよろしくお願いするわ」
そう言ってギルバートさんに笑顔を向けた。
「さて、そろそろ良いですかね? 今度は私の番ですね」
「あ、セイジロウさん。すいませんでしたっ! さっ、さぁ、続きをしましょうかっ!」
と、少し慌てた様子でハルジオンチェスの説明を始めた。
「それでは説明を再開しますね。舞台上に駒が浮き上がったら台座に設置されたチェス盤のマス目が点滅します。まぁ、すでに点滅してるんですけど......それじゃ、セイジロウさんはその点滅してるマス目を再度触れて下さい。そうすると、次の段階へ進みます」
俺は点滅してるマス目に触れた。すると、浮き上がってる自信側の駒が相手側の駒に向けて攻撃した。攻撃の仕方は駒の一部が可動式になっていて単純に軽い攻撃を仕掛けただけだが、駒の一部が稼働する事自体が驚きの技術だ。
舞台袖から見ている人達も駒の一部が稼働した事に驚き歓声をあげた。
「ほぅ、ああなるわけですね! 迫力にはかけますがやはり素晴らしい技術ですね。こちらからは特に何も指示を出していないのに」
「ははっ! そうでしょうっ! それで、攻撃を受けた駒は自動的に舞台から離脱しあらかじめ決められた場所へと移動します」
「へぇ、なるほどね! 駒の一部が可動式になっているわけね。なら、他の駒も可動式の部分があるわけね?」
と、アンナさんは自分の推測を口にした。
「はい。その通りです。ポーンに関しては迫力にかけますが、それ以外のナイト、ビショップ、ルーク、クウィーン、キングは独自の攻撃パターンがあります。さらに、対戦者側の駒も独自の攻撃パターンがあります。そして、稀だとは思いますがキングと対戦者側のキングの地位、ドラゴンの駒との対戦は特別なパターンを組み込みましたよっ!」
ギルバートさんは少年のようなワクワクした顔をしながら話をした。
「へぇ、キング同士の対戦ですか。さすがにそれは稀ですけど無くはないですからね。いつか見てみたいですね!」
「えぇ、その時が見れる事を祈ってますよ。さっ、まだまだ説明は続きますよ。どんどんと駒を進めていきましょう!」
それから、数時間ほどの時間をかけて一通りの説明をギルバートさんから受けた。説明を受けてる段階から色々と詳しく聞きたい事がたくさんあったがやはり技術的な詳しい話はボカされた。が、改良版の【ハルジオンチェス】は完成と言っていい段階だった。多少の微調整などはあるがそれほど難しくなく時間はかからないそうだ。
「ギルバートさん。説明ありがとうございました! 色々と話を聞きたい部分はたくさんありますが、そこは話せない事を理解してます。そして、こんなにも素晴らしいハルジオンチェスを造ってくれた事に心より感謝します! ありがとうございます」
と、俺はギルバートさんに頭を下げて感謝を伝えた。
「いえっ! こちらこそ、思う存分に腕を振るうことが出来て嬉しい気持ちでいっぱいですよ! これが出来たのもセイジロウさんの発案があったからこそですから、こちらこそ感謝しています! ありがとうございましたっ!」
ギルバートさんは慌てつつも感謝の言葉とともに頭を下げた。
「ふふふ、互いに感謝してるなんてっ。セイジロウさんもギルバートさんも互いの持てるものを出し合った結果が最高の形になったわけね。素晴らしい結果になって良かったじゃない」
アンナさんが俺達の事を見ながらそんな風に称えてくれた。
「それで、このあとは完成を祝って打ち上げでもするの?」
「そうしたいのですが、先にエリックさんに説明をしてこようかと。こういうのは早い方が良いですからね」
「そぅ、ならフローラと一緒に行ってきたら良いわ。本当ならフローラも連れてくる予定だったけどさすがにわたしとフローラが半日以上もギルドを離れるのはね.....まぁ、それほど忙しいわけじゃないけどね」
「それなら、わたしたちもギルドに戻ります。一応、微調整する部分の話し合いも必要ですしハルジオンチェスに関わった全員が来たわけではないので」
と、ギルバートさんが言ったので完成を祝した打ち上げは後日に持ち越された。俺は、アンナさんと一緒に冒険者ギルドへと戻りフローラさんと一緒にエリックさんの屋敷へと向かった。