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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
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プロジェクト開始・8

No210

プロジェクト開始・8




 氷雪季も半ばを迎え、通常のハルジオンチェスが街中にある程度広まり喫茶店や酒場、宿の食堂などで見かけるようになってきた。

 氷雪季の手持ち無沙汰な所に、新しく物珍しい娯楽遊戯が出てくればそれなりに住民の注目が集まる。さらに、商業ギルドが認定したとなれば流行の兆しとなり商人も食いついてくる。

 あとは自然とクチコミや商人が販売していけば黙っていても広がっていく。



 そんな中、プロジェクトの改良版のハルジオンチェスの試作が出来上がったと錬金術ギルドから連絡があり俺は冒険者ギルドが所有する資材置き場へと向かった。

 冒険者ギルドが所有する資材置き場が改良版のハルジオンチェスの舞台になっている。すでに、資材置き場は暇を持て余してる冒険者たちによって綺麗に整理されていた。


 俺は資材置き場に着くと錬金術ギルドのギルバートさんと冒険者ギルドのアンナさんがいる場所に顔をだした。

「お待たせしました」

「あぁ、セイジロウさん。こんにちは」

「セイジロウさん、来たわね」

 と、ギルバートさんとアンナさんに軽い挨拶を済ます。


「ついにここまで来ましたね。あれが改良版のハルジオンチェスですか?」

 俺はつい説明が待ちきれずギルバートさんに尋ねた。

「はは、セイジロウさん。そんな慌てなくてもすぐに説明しますから」

「ふふ、さすがのセイジロウさんでもあれを見たら待ちきれないようね」


 そう。あれだ。俺の視線の先には自身の腰ほどの背丈をした大きなハルジオンチェスの駒が幾つも並んでいる。

 しかも通常のハルジオンチェスの駒の形ではなく、魔物の形を象ったチェスの駒だ。見た限り材質は木材を使ってるように見える。そして、剣や槍、盾などは通常の金属を使用した装備もしてある。


「まだ、準備をしてる最中ですからその間に簡単に説明をしてしまいましょう」

 と、ギルバートさんが改良版のハルジオンチェスの説明を始めた。


「まずは最初ですが、通常のハルジオンチェスとは仕様が違います。改良版は魔力を使用して駒を動かします。これは、このあとに試運転を兼ねて実施しますのでその時に詳しく説明します。次に形状ですが、セイジロウさんの提案を元に自身側と対戦者側で駒の形状が違います。自身側は通常のハルジオンチェスと同じ形状ですが、対戦者側は魔物の形状です。魔物の形状は古い物語を参考にして作りました」


 俺とアンナさんはギルバートさんの説明に耳を傾けつつ、改良版のハルジオンチェスの駒に視線を向ける。

 視線の先には錬金術ギルド、冒険者ギルドの人達が改良版のチェスを盤面に並べて準備を行っていた。

 そして、ギルバートさんの説明は続く。


「今回の改良版でのハルジオンチェスで一番の難点はチェスの駒を操り尚且つ指示を出してその通りに動かす事でした。が、すでにこれも解決済みですっ! いやぁ、本当に大変でしたよ! ですが、見事にわたしたちはやり遂げました! そう、そしてこれがハルジオンチェスを自在に動かす為の装置ですっ!」

 と、ギルバートさんが説明しつつある場所までやって来た。


 冒険者ギルドの資材置き場は、円形場の舞台になっている。いわゆる、前の世界でのコロッセオに似た造りだ。

 もちろん、精巧な造りではなく舞台は石材を使ってるが観客席側は木材を使った簡易なものだ。


 そして、舞台を見下ろす形でハルジオンチェスを眼下にして対戦者同士が持ち場にてハルジオンチェスを操作する形になっている。


 ギルバートさんは対戦者が立つ場所指差しそう言った。俺とアンナさんはギルバートさんの説明を聞きつつ一緒にその場所まで付いていきその装置とやらを見る。


「....半分だけのチェス盤?」

「いえ、チェス盤は通常ですが駒が自分側にしかありませんね。対戦者側のチェスが配置されてないです」

 アンナさんと俺はその中途半端なチェス盤を見て言った。


 そんな問いかけにギルバートさんは答えてくれた。

「アンナさんとセイジロウさんの言っている事はもっともです。ですが、これが我々が出した答えです。この自軍側のチェスの駒を動かすと同時に、舞台に設置されてるチェスの駒も連動して動くようになってます。口よりもやって見せた方が理解が早いとおもいますので.......そうですね。もう少しだけ待っていてください」

 と、ギルバートさんはハルジオンチェスの舞台の方を見てから言って離れていった。


 その場から離れていなくなったギルバートが戻ってくるまでアンナさんと話をした。

「ギルバートさんはずいぶんと熱弁をしていましたね」

「そうね、でもその気持ちは分からなくは無いわね。これだけの物を作ったんだから。セイジロウさんだってそう思うでしょ?」


「えぇ、確かに。ここまで来るのは相当大変だったと思いますよ。言葉では簡単に言ってますけど私はギルバートさんに頭が上がらないですよ。改良版のハルジオンチェスが完成しているのなら、一番の功労者はギルバートさん、それからこのハルジオンチェスに携わった人達がそうです」


「あら、ずいぶんと謙虚なのね? 改良版のハルジオンチェスを発案したのはセイジロウさんでしょ?」


「確かにそうですが、口先だけて私は何もしていませんよ。これで自分の功績だなんて口が裂けても言えません」

「ふふ、わかっているわよ。セイジロウさんならそう言うと思ったわ。さて、一番の功労者が帰ってきたわ。このあとの話が楽しみね」

 と、話途中で離れたギルバートさんが戻ってきた。


「いやぁ、すいません。んっ、なんです? 何かニヤニヤしてませんか?」

 と、ギルバートさんは俺とアンナさんの顔を見てからそう言ってきた。


「いえ、これからの話が楽しみでして....さぁ、続きを聞かせて下さい。見た感じ準備は出来たみたいなようなので」

 俺は改良版のハルジオンチェスが舞台上に綺麗に配置されているのを確認した。


「そうよ、ギルバートさん。あなた達の技術の結晶を話して見せてちょうだい」

 と、アンナさんもかなりの期待をしているのか壮大な言葉でギルバートさんを煽っている。



「はは、ずいぶんとこれはまた.....良いでしょう! 特とご覧ください! 錬金術ギルドの総力を上げて造り上げた【ハルジオンチェス】をっ!」

 と、ギルバートさんは手を上げて舞台の袖にいる人達に合図をだした。


 舞台の袖にいる人達がハルジオンチェス盤の四隅に設置されてる魔石の台座へと向かい魔力を流し始めた。


「セイジロウさん、アンナさん。気づいてると思いますが、いま魔法師の方達に設置されてる魔石に魔力を流しでもらってます」

「えぇ、気づきました。ですが、私が提供したのは二つの魔石だけでしたが?」


「そこは商業ギルドと冒険者ギルドで一つずつ提供したのよ。セイジロウさんが錬金術ギルドに魔石を渡してから分かったんだけど、やはり二つでは要領不足だったのよ。そこで、わたしと商業ギルドのセブリスさんとで在庫に取ってあった魔石を渡したのよ」


 えぇー....在庫にあるんなら別に俺が獲りに行かなくてもよかったんじゃ?


「その顔は行かなくても良かったと思ってるでしょ?」

 と、アンナさんは見事に俺の心の内を読んで言ってきた。


「あはは、顔に出てました?」

「そりゃあね。でも、ギルドが在庫を抱えてるのはこういう時の為なのよ? Bランククラスの魔石はそれなりに貴重でそうホイホイ提供する訳にはいかないんだから。自力調達出来るならそれに越した事はないんだから」


 まぁ、そりゃそうだ。ギルバートさんに渡した魔石が失敗したりして破損すればまた魔石の調達からなんだから。その為にもギルドがすべての魔石を渡すわけにはいないか。


「まぁ、とりあえず魔石は無事に破損する事なく魔力回路を刻めましたから。それより、魔力の充填は終わったみたいですよ? 見てください、ハルジオンチェスをっ!」

 そう言われて改良版のハルジオンチェスの舞台に目を向けると、


「おぉっ!」

「ほぅ」

 俺とアンナさんはその光景を目にすると感嘆の言葉を発した。


 舞台に設置されてるハルジオンチェスの駒が接地面から浮き上がり、駒の表面には魔力光が魔力回路に沿って浮かび上がっていた。


「これは.....想像してたよりもすごいですね」

「こうも見事な見映えになるとは.....驚きだな」

「そうでしょっ! 錬金術ギルドと細工師組合が造り上げた傑作ですからね。それと、まだ驚きは続きますよ。次は、この台座にセイジロウさんの魔力を嵌め込まれてる魔石に魔力を流して下さい」

 俺は言われた通りに嵌め込まれた魔石に魔力を流す。実際には魔力を吸われる感じがする。


 すると、半分しか設置されてない自身側のハルジオンチェスが浮かび上がった。


「へぇ、こうなるわけですか」

「はい。これで、舞台に設置されてるハルジオンチェスと目の前にあるハルジオンチェスが連動します。仕組みはあとで簡単にですが教えます。が、今は、置いておきましょう。対戦者側も準備できたみたいですから、やってみましょうか」



 いよいよ、改良版ハルジオンチェスの試運転が開始される。


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