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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
209/226

プロジェクト開始・7

No209

プロジェクト開始・7




 冒険者ギルドで依頼を受け、【ハルジオンチェス】のプロジェクトに必要な魔石を錬金術ギルドのギルバートさんに渡してからしばらく経った。


 俺はいつも通りに目を覚ますと宿の食堂へと向かいリリアーナが起きてくるのを温かい黒茶を飲みながら待った。

 黒茶はほうじ茶のような香ばしい匂いとコーヒーのような苦味と色合いをした飲み物だ。最初は少しの抵抗を感じたが今ではすっかりと飲み慣れたものだ。


 ズズゥーっ。


 と、おっさん臭い飲み方をしながら呆けてると、目を覚ましたリリアーナが起きてきて対面へと座った。

「おはよう、セイジロウ。わたしも黒茶を飲む」

「おはよう、リリアーナ。そぅ? じゃ、朝食と一緒に頼もうか......すいません、朝食をお願いします。あと、黒茶を一つお願いします」

 俺は女性の給仕に声をかけて頼んだ。


「セイジロウ、今日はどうするの? また、一緒に訓練する?」

 そう、テーネビスアベムの依頼を受けて帰ってきてからしばらくマダラとリリアーナの訓練に参加していたのだ。

 自分の戦闘力の底上げと体力作りも兼ねて参加したが.....年には勝てない事がわかった。


 いや、無理でしょ? 三十を越えたおっさんが十代の少女と巨体な獣の訓練に付き合えるわけがない。普通に無理だから。異世界ファンタジーでも、無理なものは無理です。

 アニメや漫画とは違うんだよ? そりゃ、ファンタジー的な要素は多々あるけど現実はそんなに甘くないのっ!


「.....いや、俺はいいかな? マダラとリリアーナの訓練に参加してわかったけど、やはり得て不得手はあるみたいだから。せいぜい、体力作りくらいかな。出来るのは」

「そぅ....セイジロウがそう言うなら。でも、たまには訓練を見に来てほしいの」

 と、リリアーナは寂しそうにそう言ってきた。そんなリリアーナの頭にテーブル越しに撫でてあげた。


「もちろん、見に行くよ。リリアーナが頑張ってる姿を見に行くよ。たまにだけどね」

「それでもいい。たまに来てくれなら」

 と、そんな話の最中に頼んだ朝食がテーブルに用意され互いに食べ始めた。


 朝の朝食を食べ終わると互いに身支度を整えて宿の前で別行動に出た。

「それじゃ、俺は錬金術ギルドに行ってくるからそっちは頼んだよ」

「わかった。いってらっしゃい」

『わかっておるわ。任せておくんじゃ』


「んっ? なんでマダラが任せられたの? セイジロウはわたしに言った」

『いや、セイジロウはワレに言ったじゃろ? 幼子の面倒をワレに頼んだんじゃよ』


「違う。セイジロウはわたしにマダラの世話を頼んだの。マダラは落ち着きがないからわたしが面倒見るの」

『そんなわけなかろうにぃ。これだから幼子は困るんじゃ』

「これだから、マダラは困るの」


「『なんじゃっ!(なにっ!)』」

 と、歩き始め後ろからそんな会話が聞こえてきて溜め息をつきつつも錬金術ギルドを目指した。


 まぁ、どっちもどっちだけど実際には仲良くやってるから大丈夫だろう。それより、ギルバートさんの方はそろそろ進展してくれるとありがたいな。別に急いでる訳じゃないけど、こうも進みが悪いと不安になるんだよね。



 俺はメイン通りを歩き馴染み露店で串焼き肉をお土産に買い、錬金術ギルドに着くとさっそくギルバートさんとの面会を受付嬢に頼んだ。その際に買ってきた串焼き肉を手渡した。

「セイジロウさん、ありがとうございます」

「いえ、いつも突然来て面会を繋いでくれてますのでせめてものお礼ですよ。皆さんで食べてください」

「そんな気を遣われなくても.....ですが、いただきます。セイジロウさんが差し入れてくれる物はどれも好評ですから」

 と、受付嬢は笑顔を見せてくれた。


 それから受付嬢がカウンターの奥へと向かいギルバートさんとの面会を繋いでくれた。俺は受付嬢に案内された一室へと向かい用意されたお茶と焼き菓子をつまみながらギルバートさんを待った。


 少しするとギルバートさんが部屋へとやって来た。

「お待たせしました、セイジロウさん」

「いえ、こちらこそ連絡もせずに」

 と、互いにいつものように挨拶を済ませると話は本題へと向かった。


「それてあれからプロジェクトのハルジオンチェスの進展はどんな状況ですか」

「はい。順調に進んでますよっ! 今は、魔力回路を魔石に刻んでる段階ですね。やはり、高ランクの魔石なだけあって質も良く期待が出来ます」


「そうですか、それは良かったっ」

 俺が必死に囮役を努めて手に入れたBランク相当の魔石だ。これで、質が悪くてAランクの魔石を取ってきてほしいって言われた日にはプロジェクトを断念しかねない。


 ちなみに、テーネビスアベムから手に入れたの魔石だけでなく、羽や嘴、爪や眼球、内臓など貴重な素材も手に入った。本来ならマダラが糧にするのだが今回は気が利いたのか処理はされなかった。なので、冒険者ギルドで解体し売れる素材はすべて売却できた。これで、ある程度の資金が出来たのでしばらくは依頼を受けなくても金に困る事はない。

 まぁ、ギルドの個人口座には各権利代として一定の振り込み金が入るから金欠になる事はないが。


「では、あと必要なのは広い敷地になるわけですね」

「えぇ、そうですね。それに関しては冒険者ギルドの方で動いてるそうですよ。先日、冒険者ギルドのアンナさんがこちらに入らして話をしてくれましたから」

 俺はアンナさんがギルバートさんに話した内容を聞いた。


「--なるほど、それで少し冒険者ギルドが賑わっていたんですね。なら、一度私も冒険者ギルドに行って詳しく話を聞いてきますよ」

「分かりました。こっちは、引き続き魔力回路を刻んでそれから作動チェックを行います。素材もそれなりに手に入ってますし、細工師組合との連絡も取ってますから近い内に形にはなるはずですから」

 と、ギルバートさんとの話を切り上げて冒険者ギルドへと向かった。



 メイン通りを歩き体にあたる冷たい風をコートで防ぎながら冒険者ギルドを目指す。

 冒険者ギルドに着くと受付嬢のアリーナさんに声をかけてアンナさんとの面会を頼んだ。

「アンナさんだけでいいんですか? フローラさんも一緒に呼びます?」

 受付嬢のアリーナさんは俺に気を遣ったのかそう言ってきた。

「んー、そうですね。フローラさんが忙しくなければ一緒に話をしたいですけど.....一応聞いてもらえますか?」


「分かりました。やっぱり婚約者の方がいるのに他の女性と二人きりは良くないですからねっ! 早くフローラさんと一緒になって下さいね、セイジロウさんっ!」

 アリーナさんはそう言ってギルドの奥へと向かった。


 婚約者? いや、まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどなぜにアリーナさんが知ってるし? 確かにフローラさんの事は隠してないけど、おおっぴらにもしてないよ?


 そんな事を内心で考えてるとアリーナさんが戻ってきてギルドの一室へと案内された。ついでに、お茶と焼き菓子を用意してくれた。いつものようにつまんでると扉のノック音の後にアンナさんとフローラさんが入ってきた。

「セイジロウさん、こんにちはっ!」

「おまたせ、セイジロウさん」

 と、アンナさんは嬉しそうに笑顔で挨拶をして、アンナさんは微笑みを浮かべながら挨拶した。

 二人はテーブルの対面に座ると用意されたお茶に口をつけてから話を始めた。


「さて、さっそく本題に入りましょうか」

 アンナさんはそう切り出した。


「そうですね。先ほど錬金術ギルドへと行ってきて進捗を聞いてきました。その話の中で冒険者ギルドが動いてる話を聞いたのでどんな状況なのか確認しておきたくて」

「そぅ、ギルバートさんから話を聞いたのね。それは敷地の話でしょ?」

「はい、ギルバートさんはそう言ってましたね」


「セイジロウさんが魔石を取りに行くと同時にフローラの叔父様、エリックさんに話をしたのよ。その敷地についてね。そしたら、冒険者ギルドの裏手にある資材置き場を拡張して【ハルジオンチェス】の舞台を作ったらどうかと話が持ち上がったのよ」


「その資材置き場は長年とくに使われていない場所なのでわたしたちとしても別に構わなかったのよ。資材置き場なだけあって広さもそれなりにあるしね」

 アンナさんの後にフローラさんが話してくれた。


「では、ハルジオンチェスの場所はその資材置き場を整地して作る事になったんですか?」

 と、アンナさんとフローラさんに向かった話した。


「えぇ、そうよ。もちろん、錬金術ギルドと商業ギルドには話をしてあるわ。それと、整地すると言っても簡単にはいかないわ。何せずいぶんとほっといた場所だっただけに色々とゴチャゴチャしてるわけだし」


「そこで、わたしがお祖父様に言って依頼を出してもらったんです。氷雪季の今なら暇を持て余した冒険者たちが数多く居ますし、街中で安全な依頼を受けて報酬がもらえるならそれなりの人数が受けわ」


「それで.....だから冒険者たちが少し賑わっていたんですね」

「そうね、安全な依頼で報酬も悪くなければ冒険者たちに取ってはありがたいわけだし、わたしたちも整地の為に人手を向かわせなくて済むわけだし」

 もちろん監督、監視するためのギルド職員は必要だがただそれだけだ。自分達は指示を出すだけなわけだからずいぶんと楽になったはずだ。


「そうなると、プロジェクトの完成も目に見えてきましたね」

「そうね。細かい話は各ギルドとの調整が必要だけどそれはこっちでするし、セイジロウさんは錬金術ギルドのギルバートさんとハルジオンチェスの仕様を完成させればプロジェクトは完了よ」

 と、アンナさんが言った。


 俺はその言葉を聞いて少しだけ肩の荷がおりた感じがした。


「なら、あと一踏ん張りですかね。最初はもっと簡単に事が運ぶと思ってたんですけど、ここまで大事になるとは思ってませんでしたからね」

「セイジロウさん話はいつもそうですよ? 甘味の話から始まって、マダラの事もありますし、街を出てからルインマスでもそうだったでしょ? ハルジオンに帰ってきてからも気づけばここまでの事になってますし。もう少し落ち着いたらどうです?」

 と、フローラさんは苦笑いを浮かべながら俺に言った。


「いや、私はちゃんと落ち着いてますよ? ただ、話が気づいたら膨らんで言ってるんですよ。なんでですかね?」

「それはこっちが聞きたいわよっ。まぁ、セイジロウさんのお陰でこうやってプロジェクトに参加出来たからわたしたちに取ってはありがたいけど......フローラはこの先大変になりそうね?」

 アンナさんは訳知り顔で俺とフローラさんの顔を交互に見ながら言った。


「えっ? なんでわたし何ですか、アンナさん?」

「だって、セイジロウさんと結婚すればこれが日常茶飯事になるのよ? 最初は娯楽遊戯を作るはずが今では街の名物、興行になるのよ? 一が十にも百にもなる事がこれからもあるわ。あなたがしっかりセイジロウさんの舵を取らないといけないのよ。フローラ・夫・人・?」

 と、アンナさんはフローラさんを茶化すように言った。


 フローラさんは、その夫人と言う言葉を聞いて顔を赤くして俯いていた。両手を頬にあてなから一人でブツブツと囁きながら自分の世界に入った。

 俺はフローラさんのそんな姿を苦笑いを浮かべ見つつアンナさんに話しかけた。


「そういえば、わたしとフローラさんが婚約したみたいな事を受付嬢のアリーナさんから聞いたんですが....」

「あぁ、あれね。実はちょっとした噂が流れてるのよ。セイジロウさんとフローラが男女の関係で付き合っているのはある程度ハルジオンでは知られてるわけよ。ギルド内でも二人が一緒に行動をしてるのを見てるし、街中ても仲良さげに買い物をしていれはそんな話は出てくるわ」


「まぁ、確かにそんな話が出るのは分かりますけど....婚約者は飛びすぎでは?」

「そうでもないのよ? フローラはそれなりの容姿をしてるし、セイジロウさんと知り合う前まではそれなりに男から誘われていたのよ? でも、フローラはその全て断っていたの。そんな容姿端麗なギルドでも中核にいる女性が仲良く腕を組ながら街中で食事したり買い物をしてれば噂の一つや二つ、さらに尾ひれ背鰭が付くの自然よ?」


「は、はぁ。でも、それだけでは--」

「そうね。だけではないわ」

 と、アンナさんは俺の言葉を遮ってさらに話した。

 フローラさんはいまだに自分の世界に入ったきりで帰ってこない。


「フローラは見た目とギルド職員でそれなりに名が売れてるわけだけど、セイジロウさんもそれなりに有名なのよ? まずは従魔のマダラに始まって甘味の考案者。ついで、砦での緊急依頼を成功させた立役者にルインマスの街での仕掛人。さらに、ハルジオンに帰ってきてからはリリアーナちゃんとのパーティーメンバーに今回のハルジオンチェスの発起人。そして、自信はBランク冒険者ときたら知られていない事が不思議よ」


 お、おぅ。こうして並べ言われると俺ってそれなりにやっちゃってるわ。確かにここまでの事をやれば多少は有名になるよな。


「そんな高ランク冒険者とギルド職員の高嶺の花であるフローラ。話の一つや二つは持ち上がるわけ。まぁ、自覚するしないは本人の事によるからあれだけど、落ち着いたら身を固めるのも悪くないんじゃないかしら?」

 と、アンナさんは言った。


「そう....ですね。前向きには検討してますが、幾つか障害がありますからそれを取り払ったらですかね」

「そうね、まぁ、それも今回のプロジェクトが成功すれば良い方向に向かうんじゃない? エリックさんは背中を押してくれるんでしょ?」

「えぇ、祝福はしてくれるそうですよ」


「なら、あとは領主様かしらね。領主様の奥さまはフローラに任せれば何とかなるわよ。今は、ちょっとポンコツ状態だけど女性同士で話をすればなんとかなるわ。領主様の方は.....少し頭が固いけど理解ある人だから」


「まぁ、やるだけやりますよ。今は、こんな状態でポンコツですけど私はフローラさんか好きですから」

 と、いまだに顔を赤くしつつ自分の世界から帰ってこないフローラさんを、俺とアンナさんは苦笑いを浮かべながら見た。


「はぁ....そうね。ポンコツだけどお願いするわ。さて、わたしは先に行くわね。あとは任せるわよ」

「えぇ、わたしはもう少しこの光景を楽しんでます」

「フローラが不憫だけど仕方ないわね。それじゃ、また何かあれば話をしましょう」

 と、アンナさんは部屋を出ていき俺はフローラさんの姿を見ながらお茶を飲んだ。



 その後、フローラさんが自分の世界から戻ってきて俺に恥ずかしい姿を見られていた事に気づくと、さらに顔を赤くし慌てながら部屋を飛び出ていった。

 この行動でさらに余計な噂が立たないこと祈りつつ俺も部屋を出た。

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