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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
206/226

プロジェクト開始・閑話

No206

プロジェクト開始・閑話



 俺が忙しく改良版の【ハルジオンチェス】で動き回っている頃、リリアーナとマダラは平和な日常を過ごしていた。


 冒険者ギルドの食事処では連日暇な冒険者たちが油を売っていた。

「リリアーナちゃん、こっちにフライドポテトと唐揚げを二人前ずつ、よろしくっ!」


「んっ!」


「リリアーナちゃん、こっちはエールと唐揚げ二つ頼むよ!」


「んっ!」


「リリアーナちゃん、こっちはスープとフライドポテト、唐揚げ、ステーキ肉、エールを三つずつお願いします!」


「んっ!」

 と、リリアーナは給仕の仕事に汗を流していた。

 ギルドの食事処をトコチョコと動き回るリリアーナは冒険者たちにとって一種の和める空間になっていた。

 見た目少女な子が一生懸命に働く姿は見ていて微笑ましいものがあった。


「リリアーナが来てからはずいぶんと売り上げが伸びたなぁ」

 と、ビルドさんは言いながら注文された料理を作っていく。

「リリアーナっ! フライドポテトと唐揚げが出来たぞっ! 持っていってくれ!」

「んっ!」

 リリアーナは出来上がった料理をテーブルまで運んでいく。


「おっ! ありがとう、リリアーナちゃん! あれっ? エールも頼んだんだけど?」

「エールはさっき一杯飲んだ。今日はもうダメ。昼間からお酒はダメな大人になるの。だから、一杯だけなの」

「えー、そりゃないぜっ! 俺たちは客だぜっ? ちゃんと金を.....」

 と、ある冒険者が不満を口出したが、回りに座っていた冒険者たちが一斉に立ち上がり不満を漏らした冒険者たちに視線を向けていた。


「なっ、なんだよ....何か言ったのかよ...」

 と、回りから視線を浴びてる冒険者がビクつきながらもそう答えた。


「見ない顔のようだが、ここにはちょっとしたルールがあるんだよ。昼間は酒は一杯だけだ。あとは、食事になるんだ。これは、リリアーナちゃんが俺たちの事を思って言ってくれてるんだ。このルールが守れないなら他で食いなっ!」

 と、回りの冒険者を代表して常連の冒険者がそう忠告した。


 その間にもリリアーナは出来上がった料理を各テーブルへと運んでいく。エールをまだ飲んでいない冒険者たちにはエールを運んでいった。


「そんな、ルール.....たかがガキが決めた事だろ? 別にいいじゃねぇかよ」

「ガキじゃなくて、リリアーナちゃんだっ! それに、リリアーナちゃんはCランク冒険者でそこらの冒険者よりもそうとうな実力を持っている。さっきも言ったが不満があるなら別にここで食わなくていいからなっ! それと、これは忠告だがリリアーナちゃんに手を出せば俺らが黙ってないし、そこにいる従魔のマダラが容赦しないから変な気を起こすなよ?」

 と、忠告した冒険者がカウンターの隅で寝転がっているマダラを指差した。


「なっ!? ......わかった。とりあえず、食事だけでいい」

 と、不満を漏らした冒険者はマダラと視線を向けてくる冒険者たちと争うのは分が悪いと判断して大人しく引き下がった。


「喧嘩は良くない。楽しく食事が出来ないなら出ていくの。みんな、仲良くするの」

 と、リリアーナが回りの冒険者たちを見回しながら言った。そして、不満を漏らした冒険者がいるテーブルへと向かった。

「なっ、なんだよ? さっきの事ならもういいだろ?」

「エールはダメだけど果実水ならいいの。それから、初めてのお客さんにはリリアーナが作ったプリンをあげるの。食べて」

 と、ハルジオン名物のプリンをテーブルへと置いた。


「い、良いのかよ? 話には聞いたが珍しい甘味なんだろ?」

「良いの。だから、また今度も来て。でも、エールは一杯だけなの」

 リリアーナは、そう言って少しだけ笑顔で冒険者に話した。


「おっ、おぅ! また、食べにくるよっ!」

 と、いつの間に新しい客を手にいれていた。笑顔を向けられた冒険者はさっきの不満はどこへいったのやら、リリアーナの笑顔を見るとハニカミながらリリアーナが作ってプリンを美味しそうに食べた。


「はぁ....冒険者ってのは改めてチョロいやつしかいねぇな。少女の笑顔一つでだらしねぇ」

 と、ビルドは呟いていたが、

「ビルド、手が止まってるの。しっかり手を動かして料理を作るの」

「おっ、おぅ! 今から作るぜっ!」

 少女に叱られつつ料理を作るオッサンも形無しである。


 そんな光景が今では日常となっていた。


 世間の常識では、荒れくれ者たちが集うギルドの食事処なのに一人の少女の存在だけでこうも変化するのは稀な事ではあるが悪くはない.....のではないか?


 昼間から酒を飲んでくだらない事で小競り合いを起こすより、小さな少女に小言を言われつつも苦笑いまじりにのんびりとした日常を過ごすのは小さな幸せではないか?


 冒険者といえど一人の人間であり存在である。街を出れば命のやりとりが日常茶飯事なのだから。


 他の街の冒険者ギルドがどのようになっているかは分からないがハルジオンの街の冒険者ギルドはこれで良いと、そう思ってる冒険者は少なからずいた。


「リリアーナっ! 料理が出来たから運んでくれっ!」

「んっ!」


「リリアーナちゃん、こっちに唐揚げとスープ。それと、果実水をくれっ!」


「リリアーナちゃん、こっちにも唐揚げをくれっ! それと、リリアーナちゃんの笑顔っ!」


「まてまてっ! それなら、こっちはピザにフライドポテトとリリアーナちゃんの笑顔だっ!」

 と、調子に乗った冒険者がそんな注文をするとリリアーナは、

「んっ! お酒臭い冒険者にはイヤなの。食事だけでじゅうぶんなの」

 そんな風に言われた冒険者たちは次回からお酒を頼まなくなっとか......


 端から見たら下らない光景だが、そんな日常が冒険者たちとっては小さな幸せなのかも知れない。

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