プロジェクト開始・1
No202
プロジェクト開始・1
今日は冒険者ギルドからの呼び出しで朝から冒険者ギルドの一室にいた。俺は呼び出されるような事に特に心当たりはなく、用意されたお茶と焼き菓子をつまみながら待っていた。
しばらくしてから部屋の扉がノックされて返事を返すとフローラさんと、総合職のアンナさんがやって来た。
「セイジロウさん、お待たせしました」「セイジロウさん、悪いわね呼び出して」
「いえ、今は若干暇ですから」
と、簡単な挨拶を始めた。
フローラさんとアンナさんは自分たちのお茶を用意して一口飲んでから切り出した。
「さて、さっそくだけど本題からいきましょうか。フローラとの話も聞きたいけど、まずはこっちからね。セイジロウさんは、現在【ハルジオンチェス】という娯楽遊戯を開発してわね?」
「えぇ、確かに。すでに試作も作り終えていて知人には渡っていますよ」
「あれはなかなかに面白いわね。わたしもフローラに教えてもらって少しやってみたのよ。それと、ギルドマスターが欲しがっていたわ。あとで、調達出来るかしら?」
「それは問題ないですよ。少しだけ時間をもらえるなら」
「なら、頼んでおいてくれる? まぁ、それはそれでなんだけど、もう一つのハルジオンチェスはどうなの?」
「よく知ってますね.....隠してるつもりはないですが、そちらは少し煮詰まってます。今は錬金術ギルドのギルバートさんが改良をしてますが進展は芳しくないです」
「そう....そこに冒険者ギルドが加わることは出来るかしら?」
アンナさんは、少し真面目な顔つきで話してきた。
「....出来なくはないですが、どのように加わるのか聞きたいですね。ある程度の情報は知ってるみたいですが....」
「そうね。ある程度の情報を集めて、わたしと副ギルドマスターとギルドマスターで少し話し合ってみたのよ」
その話し合いというのが、【ハルジオンチェス】を使ってルインマスの街と同じような事が出来るのでは、と考えたそうだ。
「それで、商業、錬金術、冒険者、細工師組合とで話し合いを、と考えてるの」
「って、ずいぶんと大事ですけど.....私には荷が重い気がしますよ」
「そんな事ないわって言いたいけど正直ちょっと荷が勝ちすぎてるとは思ってるわ。そこで、フローラのお祖父様もこの際だから巻き込んじゃおうと思ってね!」
いや、そんな子供がイタズラを考え付いたような顔しても....うん。美人がすると可愛いけどさ。
「フローラさんはどう考えてるんですか?」
「わたしは別に気にしないわよ? お祖父様もたぶん乗ってくると思うけど、話し方次第ね。それに、まだ具体的に何も決まってない状態だしこれからどうするかを今から話し合いするのだから」
あっ、やるのはほぼ決定なんですね.....でも、ちょっと無理があるんじゃ?
「この話を知ってるのは私たちだけですか? ギルドマスターは?」
「もちろん、ギルドマスターは乗り気よ! 副ギルドマスターは難色を示してるけど具体的な話をして計画次第では乗ると思うわ」
なら、知ってるのは俺を含めて五人か.....
「とりあえず、改良版のハルジオンチェスに関してはまだ行き詰まってるのが現状ですよ? 通常のハルジオンチェスなら量産態勢を構築できればあとは売り捌くだけで認知度は高くなるはずですが」
「そうね、言っている事は理解できるわ。でも、ハルジオンの街だけで出来る何かが欲しいのよ。欲張りだけどね」
と、アンナさんは言った。
そのあとに続けてフローラさんが話した。
「セイジロウさんには無茶を言ってるのはわかっているのよ。でも、セイジロウさんが必要なの。わたし達で考えつかない事を考えつく発想力と想像力、そして行動力は尊敬に値するわ。わたしも微力ながらに手伝うからどうかお願いできないかしら?」
好きな人にここまで言われて断るわけにはいかないよな。
それに、フローラさんにはまだ伝えてない事があるし....
アンナさんとギルドマスター、副ギルドマスターは俺がこの世界に迷い込んだ異世界人ってのは知ってるけど。
「分かりました。私もやりかけでは納得しないのど協力させてもらいます。ですが、まずは具体的な案とそれについての計画案が必要ですね。あとは、経済的な効果がどれほど出るのかの簡単な試算を作る必要がありますね」
「ありがとう、セイジロウさんっ!」
「さすがはフローラが認めた人ね。頼りになる婚約者でよかったわねっ!」
「まっ、まだ婚約者じゃないですよっ! (お祖父様にはほぼ認めてもらったけど、お父様やお母様、お兄様にはまだ紹介もしてないし。でも、婚約者か.....ふふ、ちょっと嬉しいかなっ!)」
フローラさんはそうアンナさんに言われて慌てながら否定してるけど、顔は笑顔で嬉しそうだ。
「そうですね、まだ婚約者ではないですがそうなれるように頑張りましょうかね。ねぇ、フローラさん?」
「そっ、そうね。一緒に頑張りましょう、セイジロウさん」
「あらあら、氷雪季なのにこの部屋は火水季並み熱いわね。そういうのは、二人きりの時にしてくれると嬉しいわね。なんなら、少し時間をあける? わたしなら別に気にしないけど」
「そうですか? ではフローラさん、ちょっと二人きりになりますか?」
「えっ? 二人きりにっ!? で、でも、まだ昼間だし....せ、セイジロウさんが良いなら」
と、なんざらでもない様子のフローラさんだが、俺とアンナさんは冗談で言っているのに顔を赤くしながら俯いてモジモジしていた。
「あらぁ、本当にもぅ....フローラ、しっかりしなさい。わたしもセイジロウも本気じゃないわよ? するなら話が終わったよ」
「へっ? えっ、なっ!? からかったんですか!? セイジロウさんもっ!?」
「はは、すいません。ちょっと、場を和らげるつもりが.....でも、話が終わったら二人きりで食事でもしますか?」
「もうっ! わたしだけ恥ずかしがってたんですねっ! 知らないわっ! まったく、食事は一人で行ってきたらどうですかっ!」
と、少し悪のりが過ぎたのかフローラさんは拗ねてしまった。それから、フローラさんをなだめるのに時間がかかったがちゃんと食事の約束もして話し合いが行われた。
ふぅ、ちょっとやり過ぎちゃったけど拗ねたフローラさんも可愛かったから良しとしよう。
それよりも改良版のハルジオンチェスをどうにかしないとな。こりゃ、少し骨が折れそうだ。
こうして、一大プロジェクトが始まった。