セイジロウの休日
No201
セイジロウの休日
通常のハルジオンチェスの製作に関しては商業ギルドのマクベルさんと細工師のレイシェルさんを交えて話し合い、商業ギルドと細工師組合との提携で販売する事となった。
まずは、五十組の通常のハルジオンチェスを製作し商業ギルドが商人を通じて宣伝と販売を依頼した。模倣品の事も考え商人ギルドの印をハルジオンチェスに記した。
販売価格は銀貨一枚とした。考案者である俺には本来ならある程度の金銭が入る予定だったがそれを含めると銀貨一枚での販売は出来なくなるので、金銭は受け取らない事になった。代わりに商業ギルドへの貸しという事になった。たぶん、近いうちに使う事にはなると思ってる。
そして、改良版のハルジオンチェスに関しては錬金術ギルドのギルバートさんと話し会い製作を一から見直してる最中である。
ちなみに、エリックさん、フローラさん、俺の三人はレイシェルさんにハルジオンチェスの依頼を個人的に頼んでいる。エリックさんは、通常のハルジオンチェスに加え改良版で象られてる魔物のハルジオンチェスを注文した。もちろん、魔力を使用しない物だ。
フローラさんと俺は通常のハルジオンを注文した。
そして、あれから数日経ち今は冒険者ギルドの食事処でビルドさん相手に出来立てのハルジオンチェスをしている。
「セイジロウ、この駒はここに移動できるのか?」
「いえ、ここには移動できませんね。ここに自身側の駒があるので。なので、この駒じゃなくてこっちの駒を動かせば私の駒を阻害できますよ」
「んじゃ、こっちで」
「なら、私はこうですね」
ビルドさんはまだ不馴れな為にハルジオンチェスに付属してる説明書きを片手に、あとは俺に聞きながらハルジオンチェスを試してる。
俺はエールとフライドポテトをつまみつつ片手間で相手をしてる。
リリアーナはたまに注文が入る料理を、ビルドさんがハルジオンチェスの合間に作りそれを運んでいる。
マダラはとくに何もせずに寝転がったり、腹が減れば思念で料理を注文している。
今日は休息日という訳じゃないが流れ的にのんびりとした日に自然となった。改良版のハルジオンチェスも急激は進展があるわけもなく、手頃な依頼もないので出来立てのハルジオンチェス片手にビルドさんとこうして対戦してるわけだ。
リリアーナだけは唯一真面目に給仕の依頼を受けているが。
暇なら訓練しろよ的な感じもなくはないが、まぁ、それはボチボチで!
「セイジロウ、これはここで行けるか?」
「えぇ、行けますよ」
「なら、こうしてと」
「じゃ、私はチェックですね」
「はっ? んだそりゃ! んじゃ......これをこっちか」
「はい、チェックです」
「またかよっ! なら......これでどうよ」
「はい、チェック。さらに、チェックメイトですかね」
「んだとっ!......ちっ、しょうがねぇか。お前、少しは手加減ぐらいしたらどうだよ? こっちは初心者だぜ!」
「ちゃんとしてるじゃないですか。こっちはナイトとクゥーンを一つずつ、さらにポーンを四つも外してるんですよ? そして先手と助言まで。十分でしょ」
「チッ、わーったよ! 確かにピザだったよな? ちっと待ってろ!」
と、賭けていたピザを焼いてもらう。やはり、こういう遊戯には簡単な賭けがないと張り合いがないからね。
いやぁ、勝利の美酒は旨さが違うよな! これで三杯目だけど最初の一杯しか金払ってないし、フライドポテトもピザも賭けでかったからな。昼飯代が浮いたな。
と、ウハウハしてるとリリアーナが話しかけてきた。
「セイジロウ、父様と一緒。昼間から酒を飲んでるとダメな男になるって母様が言ってた。今日は見逃すけど今度からはダメ。フローラにも言っておく」
「えっ、いやこれは大人の楽しみって言うかね....えっ? リリアーナは誰かに何か言われたの? なんか厳しくない?」
「フローラが前に言ってた。"氷雪季に、なると冒険者は昼間からお酒ばかり飲んで騒ぐのよ。もし、セイジロウさんがお酒を飲んでたら叱ってね。あなたが頼りなんだからね" って、フローラに頼られた。母様も父様を叱ってた。今日は最初だから見逃すけど、二度はない」
「えー.....あっ、はい。ありがとうございます」
と、少しの反論も許さない視線がリリアーナから向けられ素直に寛大な心で今回は見逃された事に対して礼を言った。
少女に叱られて頭を下げる中年って......どうなの? 俺以外にも昼間からエールを飲んでる冒険者はいるよ?
「クククっ、セイジロウもリリアーナには頭が上がらねぇか。俺もさっき仕事中にエールを飲もうとしたんだけど、リリアーナに"今は仕事中。終わったら飲む" って、言われちまってな」
「だから、チェスの最中は飲んでなかったんですね。はぁ、昼間から酒を飲む楽しさが無くなってしまいましたよ」
「まぁ、良いじゃねぇか。別に酒を禁止されたわけじゃねぇんだし。それに、あんな少女に言われたら素直に従うべきだろう。他を見てみろ、明らかに休みと分かるような冒険者はエールをちびちび飲んでるだろ? ありゃ、リリアーナからのお達しで一杯だけ許可されてるわけだ。どうやら、リリアーナのファンらしくてな、お前とは違う感じで頭が上がらねぇらしいのが分かるな」
「何でしょうかね、ずいぶんと健全な冒険者たちが増えそうですね」
「あぁ、そうだな。ちなみに、売上はさほと下がっちゃいねぇのがリリアーナのすげぇとこだ。代わりに料理を進めてるからな。料理を頼めばリリアーナが運んでくれて、ついでに少しは話が出来るからな。それ目当てだろうぜ」
ビルドさんの話を聞いて某アイドル喫茶を俺は思い浮かべた。
「まぁ、現状は特に問題ないようでしたらそれはそれでいいんじゃないでしょうかね。リリアーナもそれなりの実力はありますし、マダラもいますから。それより、もう一戦しますか?」
「良いだろう。リリアーナには酒はダメだと言われたから、今夜の夕食でも賭けるか?」
「良いんですか、そんな奮発して? 手加減はしませんよ?」
「おいっ! それはそれ、これはこれだろっ! 素人からむしり取るなんて冒険者の風上にもおけねぇな! さっきと一緒に決まってるだろ!」
そう言って俺とビルドさんはハルジオンチェスを行い見事に今夜の夕食を勝ち取った。ちなみに、マダラとリリアーナの分もしっかりと獲得した。