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神隠しという名の異世界転移  作者: 紫煙の作家
197/226

乙女の純情

No197

乙女な純情




 リリアーナとマダラの激しい訓練から数日後、俺はフローラさんと街中を歩いていた。

「こうしてゆっくりと二人でいつぶりかしらね?」

「二人でとなるとずいぶん経ちますね。互いに何かと忙しいですからね」


「あら、わたしはあまり変わらないわよ? 忙しくしてるのはセイジロウさんの方じゃなくて?」

「はは、そうでしたね。なんででしょう?」

「それはわたしが聞きたいわよ、まったく....」


 そんな他愛ない会話をしつつ午前は服飾店や雑貨屋を巡り昼食を食べてから、幼馴染みが王都グランセムからハルジオンの街に帰ってきてるらしく会いに行く事になってる。


 フローラさんと向かった先は俺も何度か足を運んだ店であった。

「こんにちは、ラム爺はいるかしら?」

「なんじゃ~? おぅ、セイジロウにフローラか。どうしたんじゃ?」

 と、家具類を一手に引き受けてるラム爺の店だった。


「久しぶりね、ラム爺。レイシェルはいるかしら? 王都から帰ってきてると聞いたのよ」

「あぁ、レイシェルか。ちょっと待ってろ、呼んでくるからのぅ」


「幼馴染みはラム爺さんのお孫さんだったんですね」

「えぇ、レイシェルは旦那さんが王都の出身で普段はあっちで暮らしてるのよ。数年に一度里帰りするの。せっかくだから、セイジロウさんを紹介しようと思ってね。わたしも会いたかったし」


 ふむ、これが外堀を埋められていく感じか....まぁ、俺としても顔繋ぎができるのはありがたいし、もしかしたら王都に行った時に世話になるかもしれないしな。


 少しの間、フローラさんと待っているとラム爺と一緒に一人の女性が現れた。

 背丈はフローラさんと同じぐらいだが、スタイルはフローラさんが一歩リードしていた。髪色は薄茶色で顔立ちはわりと整っていた。スタイルも女性としては標準的なものだ。


「久しぶりね、フローラっ! しばらくぶりに会うけどあまり変わらないわねっ!」

「そうね、レイシェル。久しぶりだわ! 王都の方はどうなの?」

「まぁ、そっちはぼちぼちよ。別に良くも悪くも無いわねっ! 子供達も元気にやってわよ。それで、こちらの男性は?」


「もう、せっかちね。もう少し幼馴染みとの会話を楽しもうって気は無いのかしら?」

「べつにいいじゃない。氷雪季の間はこっちにいるんだから時間はあるわよっ! それより、フローラが連れてきた男性に興味が向くのは幼馴染みとして当然よ」


「まったく....セイジロウさん、こちらはわたしの幼馴染みでレイシェルよ。レイシェル、こちらはセイジロウさんよ。冒険者でわたしの.....彼よ」

 と、紹介の最後の方は顔をうっすらと赤くしながらフローラさんは紹介した。


「初めまして、セイジロウと言います。以後お見知りおきを」

「何、赤くなってるのよ! まったく、そんな歳でも無いくせに。セイジロウさんね、話は爺さんから聞いてるわ。それと、初対面ではあるけどわたしの依頼主でもあるのよね」


「依頼主....ですか?」

 俺は疑問に思いレイシェルさんに尋ね返した。顔を赤くして恥ずかしげにしてるフローラさんを放置するのはあれだが、今はレイシェルさんの言葉が気になった。


「そうよ、わたしが作った物を見たでしよ? セイジロウさんが錬金術ギルドと商業ギルドで製作してる物よ。ここまで言えば分かるわよね?」


 あぁ、ギルバートさんが言っていた細工師はラム爺が紹介したっていってたな。それが、レイシェルさんか。


「なるほど、確かに拝見しました。なかなかに丁寧に作られていて驚きましたよ」

「そう、とりあえずは及第点をもらえたと思っても?」

「えぇ、もちろんですよ。まだ、細かい話し合いは錬金術ギルドと商業ギルドで必要ですので、どういう形になるかはわかりませんが」

「そうね、色々と問題はあるでしょうからね。でも、面白い話よね。セイジロウさんに会う前からどんな人なのか想像してたのよ?」

「はは、しがない冒険者ですよ。あまり期待されても困りますが.....それより、」


 レイシェルさんと会話をしてると横で話に入りたそうにそわそわしてるフローラさんが目に入ったので話をふった。


「フローラさん、立ち話も何ですしどこかでゆっくり話をしますか?」

「別に無理にわたしに話しかけなくてもいいわよ? 二人で楽しく話てれば?」

 と、蚊帳の外に置かれていたのかちょっとだけフローラさんは拗ねていた。


「子供みたいに拗ねないの。歳を考えなさいよ、歳を」

「べっ、別に拗ねてないわよっ! それに、歳は関係ないし連呼しないでよっ!」

「まぁまぁ、せっかくですし。それに、どうやらわたしの依頼にも関わってるみたいですから」


「はぁ....そうね。なら、どっかでお茶でも飲みましょう」

 そう言って、レイシェルさんの案内で小綺麗な喫茶店へと向かい話す事になった。


 レイシェルさんとやって来た店でお茶と焼き菓子がテーブルに用意されるとさっそく話が始まった。

「それで、実際二人はどこまで進んだのよ?」

「別にどこでもいいでしょっ! だいたい、本人を目の前にして聞くことじゃないでしょ!」

「まだ、キスまでですよ。そんな急な発展はありませんよ」

 と、俺はさらっとお茶を飲みながら話した。


「ちょっ! せ、セイジロウさん? 今、さらりと言ったでしょっ?」

「ほほぅ、フローラがキスしたの? それとも、セイジロウさんから?」

「フローラさんからですね。わたしが旅立つ時に熱烈なキスをしてくれましたよ」

「セイジロウさんっ! わたしを無視しないでっ!」


「まぁ、いいじゃないですか。実際にしたんですし、私はフローラさんが好きですから恥ずかしくないですよ」

「そっ! それは...わたしもだけど....」

 と、フローラさんはまたも顔を赤くしつつ、お茶をちびちび飲んで黙ってしまった。


「へぇ、フローラからなんだ。それはそれは! あなたもやるじゃないっ! 昔は来る男、よる男を払いのけてたあんたがねぇ」

「なっ、なによ。別に良いでしょ。私だって男性を選ぶ権利ぐらいあるわよ!」

「そりゃ、そうでしょうけど。昔のあんたからは想像つかないわよ。あたしがまだ街にいるときだって男に興味なさそうにして、仕事一筋だったじゃない?」


「それはそれよ。仕事を疎かには出来ないわよ。冒険者は何時だって命懸けなんだから。私たちがしっかりサポートしなきゃ、冒険者の命がいくらあっても足りないわ。それに、小さな事で命を救うこともあるのよ?」

「それは分かってるわよ。別にギルドの仕事に口を出すつもりはないわよ。まったく、いつまでも真面目なんだから。セイジロウさんを少しは見習いなさいよ。ちょっと話を聞いただけで顔を赤くして。別に恥ずかしがる事じゃないんだから堂々としてればいいのよ!」


「だって.....セイジロウさんは恥ずかしくないの?」

 フローラさんは横目で俺の顔を見ながら聞いてきた。


「えぇ、恥ずかしくないですよ。自分が好きになった女性の話ですからね。キスぐらいどうって事ないですし、人前でも自分の気持ちはきちんと伝えられますよ」

「ほら、みなさい。あなたも好きになった男性ぐらい堂々と好きだと人前で言いなさいよね! ほら、練習してみなさいよ」


「えっ? 今、言うの?」

「今言わなくていつ言うのよ? あたしの前で言えないと両親の前で言えないわよ? どうせまだ紹介してないんでしょ?」


「う、うん。まだしてない。お祖父様には紹介したけど....」

「あー、お祖父さんね。まぁ、お祖父さんは比較的紹介しやすいわね。でも、あんたの父さんわね....まぁ、今考えてもしょうがないわね。今は気持ちを言えなきゃダメよ。あんたの気持ちはその程度と思われちゃうわよ? それでも、いいの?」


「それは.....嫌よ。わたしだって軽い気持ちでセイジロウさんを好きになったわけじゃないんだから」

「なら、気持ちを伝える事ぐらい出来るわよね?」

「....うん。伝えられるわ!」

 と、なんだかよく分からない方向に話が進んでるが、とりあえずフローラさんの決心がついたようなので成り行きに身を任せていた。


 フローラさんは俺の方に体を向けて真剣な眼差しで見つめてきた。

「せ、セイジロウさん! わたしはあなたが好きよっ!」

 と、少し力みながら声を張って気持ちを伝えてくれた。


「はい、フローラさん。わたしもあなたが好きですよ。ありがとうございます」

「い、いいのよ。わたしが気持ちを伝えたかっただけだから」

 と、初々しい仕草がとても可愛い見えた。


 それと、話を煽ったレイシェルさんはニヤニヤした顔をしながらしれっとお茶を飲んでる。


「それで、レイシェルさんは満足しましたか?」

「えぇ、満足したわ。まさか、本当にここで気持ちをつたえるなんてねっ! あなたを見直したわ、フローラ」

「当然よ、わたしだってこれぐらいは出きるわ!」


「ちなみにですが、フローラさん。一応、私たち以外にも人がいるのは知ってますよね?」

 と、俺は視線を店内にいるお客さんにむけてフローラさんに伝えた。

 フローラさんがそれに気がつくと、驚きの顔を浮かべたと思ったら顔を赤くして両手で顔を隠して俯いてしまった。


 そんな乙女の様な仕草に真剣になると周りが見えなくなってしまうフローラさんの事が余計に愛おしくさらに好きになった。


 それからは、レイシェルさんと話しつつ終始少し機嫌が悪かったフローラさんをなだめつつも、平和な一日を過ごした。

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