マダラとリリアーナのある日の日常
No192
マダラとリリアーナのある日の日常
俺が商業ギルドでセブリスさんとハルジオンチェスの話をしてる頃、リリアーナとマダラは冒険者ギルドの食事処にいた。
「なぁ、嬢ちゃんよ。セイジロウと一緒に居なくて良いのか? ってか、セイジロウはどこに行ったんだよ?」
食事処で働くビルドさんはカウンターにちょこんと座る少女、リリアーナに話しかけた。
リリアーナの見た目は幼く子供に見えるがこれでもDランク冒険者だ。実力的にもそこらの同格の冒険者にもひけを取らないほどの実力はある。食事処で働くビルドさんもそれはセイジロウに聞いて分かってはいるがやはり心配は心配でそんな風に声をかけた。
「セイジロウは用事をしに行ってるの。わたしはセイジロウに代わってマダラのお世話してる」
と、ビルドさんに注文して頼んだフライドポテトとピザを食べながら答えた。
もちろん、リリアーナの片隅で寝転がるマダラもステーキ肉やピザ、フライドポテトを食べている。
ちなみに、注文した料理の代金はセイジロウにツケてある。本来ならツケなんていつ命を落とすか分からない冒険者に対してするはずもないが、そこはセイジロウとビルドさんの仲である程度の融通は効いている。
「用事って....それに、マダラの世話ねぇ」
ビルドさんはリリアーナの答えを聞きつつマダラとリリアーナを見る。しかし、互いに食べているだけで世話をしてるかと言えば微妙である。
「で、嬢ちゃんはセイジロウが帰ってくるまでずっとここにいるのか?」
「んっ。嬢ちゃんじゃない。わたしはリリアーナ。ちゃんと呼んで」
と、リリアーナは少しだけ機嫌悪くビルドさんに言った。
「おっと、悪いな。リリアーナっだったな。それで、リリアーナはセイジロウが帰ってくるまでここにいるのか? いっちゃあ何だが、特に何する場所じゃねぇぞ? せいぜい、飯しかねぇし遊ぶ物もないからヒマだろう?」
「それは平気。料理を食べたら訓練場でマダラと訓練する。そしたら、また料理を食べてセイジロウが帰るのを待ってる」
「......そうか(セイジロウには一言言わなきゃな! こんな少女をギルドの食事処に一人きりにするなんて.....マダラがまだいるから良いがそうでなきゃ....)」
見た目に似合わずそんな少女思いな考えをしてる間にリリアーナとマダラは料理を食べ終わり、ビルドさんに挨拶をしてから冒険者ギルドの訓練場に向かった。
そんな一人の少女と一匹の獣はだいぶ周囲の視線を集めていた。
「ありゃ、なんだ?」
「さぁ、だがあの獣は見たことあるぜっ! 去年もハルジオンにいた獣だ。確かそんときは中年のオッサンが連れていたがな」
「あの少女はちょっと可愛いなっ!」
「おまっ、そっちの趣味か!?」
「ちげぇよっ! でも、可愛くねぇか? どっかのパーティーメンバーかな?」
「おぃおぃ、いつからギルドはこんな緩くなったんだよっ! 子供が堂々と歩いてるギルドなんて恥ずかしいだろっ!」
「ガキはガキらしく、家で大人しくしてりゃいいだよっ! 俺らまで他の奴等からナメられちまうだれっ!」
「あー、あいつらは知らないのか.....まぁ、ちょっかい出せば知るからいいか」
「だろうな、俺たちもマダラやセイジロウをナメてた頃があったからな。それに、あの嬢ちゃんはDランクらしいしな」
「へぇ、あの見た目でか....ずいぶんと将来が有望だな。あと数年もしたら高ランクか? 俺たちもうかうかしてられねぇな」
と、様々なとこで様々な見解がされていた。なかには怪しい言葉を発してる冒険者達もいるが、そんな会話がされてるとは気づかずにリリアーナとマダラは訓練場で訓練を始めた。
『リリよ、訓練をすると言っておるが具体的にはどうするのじゃ? ワレはリリから何も聞いておらんぞ?』
マダラはリリアーナが準備運動をしてる側で寝転がりながら思念を飛ばした。
ギルドの食事処で好きな料理を食べていい気分だったところにリリアーナからの訓練要請だ。少しだけ気だるげだったがマダラから見たら小さな少女がやる気を出して訓練しようと頑張る姿は微笑ましい感じがする。
召喚獣としての獣の顔は威圧感や怖さがあるがそれとは別にリリアーナの事はそれなりに気にとめているマダラだ。
「まずは、体の調子を確かめる。そのあとはマダラとの対戦。わたしは体が小さい....まだ、成長期で育ち始めだから自分より大きい魔物との戦闘は経験不足。その訓練を手伝って」
リリアーナは冷えた体を温める為の準備運動をしつつマダラの思念に答えた。
途中、言葉が止まり何故だか言い直したリリアーナ。たしかに、まだ若い。当然、体は成長期なので背が小さく、胸もお尻もこじんまりとしてる。
別に大して少女が気にする事でもないが、やはり女である自覚はあるのだろうか? セイジロウと宿を同室にしないのもそれが理由かはリリアーナしか知るよしはないが.....野営のテントも別だし、若くても精神は女性ということなのか。
『そうじゃ、リリは小さいからのぅ。自分より大きい生物と戦うにはちと辛いのぅ。まぁ、時期に背が高くなるじゃろうが、訓練は行うべきじゃろうな。リリが言うな付き合ってやろうかのぅ。ワレは年長者じゃからの! 子供の世話をするのは当然じゃな』
「違う。世話してるのはわたし。年寄りのが元気に動けるようにわたしがマダラの為を思って仕方なく訓練を手伝ってもらうの」
と、リリアーナは主張する。
『何を言っておる。セイジロウからリリの世話を頼まれたのはワレじゃ。じゃから、リリが一人にならぬように一緒におるんじゃよ? それに、ワレは爺いではないぞ。セイジロウの守護者しゃ!』
と、マダラは寝転がっていた体を起こし主張する。
「それは建前なの。マダラはほっておくと何するか分からないってセイジロウが言ってた。だから、しっかりもののわたしがマダラの世話をするの。それに、マダラの喋り方はお爺ちゃんと一緒。無理しなくて平気」
と、リリアーナはちょっと微笑ましい顔をしながらマダラを見上げた。すでに、体は温まったのか慎ましい胸を少し張りつつ腰に手を当てている。
『ほぅ、どうやらワレを甘くみておるようじゃな? よかろう、訓練はしっかりせねばならんからな。泣いたらやめてやろうではないかっ!』
マダラは、リリアーナを見つつ喉を鳴らした。
「マダラこそ、食べてばかり寝転がってばかりだから。腰を痛めたらあとでマッサージしてあげる」
リリアーナは腰に備えてある短剣を抜くと構えをとった。
互いに数瞬のにらみ合いから訓練が始まった。
リリアーナはマダラに接近する合間に幾つかフェイントを入れるが、マダラは反応せずに構わず力任せに前脚を横凪ぎに振るってきた。
リリアーナは自分の顔以上に大きいマダラの前脚が迫りくるも冷静にかわした。が、マダラの攻撃はそれで終わりではなかった。さらに反対の方向から前脚が振るわれ交わすが今度はマダラの噛みつきが頭上から迫っていた。
しかし、リリアーナは読んでいたのかその三連攻撃も交わして後方へと飛びマダラと距離をとる。
『ふむ、あれぐらいは流石に余裕そうじゃな』
「んっ。あれぐらいかわせる。今度はわたしからいくのっ!」
それから数時間、冒険者ギルドの訓練場では可愛らしい姿の少女と巨体で六本脚の獣の戦闘が行われた。
ちなみに、他の冒険者達はその戦闘を見たときは驚きの顔をしてからすぐに仲間の冒険者達の元へと戻り情報を共有した。後に、リリアーナの姿と実力は冒険者間で認知されていく。