ハルジオンチェス
No191
ハルジオンチェス
冒険者ギルドの依頼を受けてから数日後、俺は商業ギルドでセブリスさんと会っていた。
「セブリスさん、ハルジオンチェスの方かどうですか?」
「えぇ、それなりに進みました。とりあえず、ハルジオンチェスの原画を見てもらいましょう」
セブリスさんからハルジオンチェスの駒の原画が描かれている紙を見ていく。
最初の紙には前の世界でも見慣れたチェスの駒の絵が描かれていた。ただ、こっちはリバーシと同じく簡易な物で特に工夫はされていない。
盤面に駒を並べ自分達て駒を動かして遊戯を楽しむだけの物だ。ただし、商業ギルド特性の焼き印と証明書が付属してる。この焼き印と証明書がないハルジオンチェスに関しては偽造品、模倣品とみなしす事になった。
それ以外にも細かい取り決めは商業ギルドで決めていく方針だとセブリスさんが話してくれた。
そして、俺たちの本命のハルジオンチェスは商業ギルドと錬金術ギルドとの合作で魔石と魔法回路を組み込んだハルジオンチェスになる。
「それで、こっちが細工師と一緒に考えたハルジオンチェスの駒の原画になります。ラムレイさんに紹介してもらったんですよ」
「へぇ、それは良かったですね。じゃ、期待して見てみますか!」
その細工師が考えた原画を見てみる。
まずは通常のポーンは丸みが特徴だが、細工師が考えたポーンは西洋甲冑の頭部の仮面がモデルのようだった。特に凝った作りではないがこれといって指摘するところはない。
次はナイトだが前の世界では馬の頭部を象った作りだったが、細工師のは剣と槍がモチーフになっていた。剣も槍もナイトとして悪くわないので有りだと思う。
続いてビショップは僧正を意味合いとしているが、こっちでは魔法職を意味して杖を象っていた。こちらも分かりやすくていいと思う。
そして、ルークは城や砦といった意味がある。前の世界の形は主に塔を象っていた。しかし、こっちでは守護や防備を意味して盾の形をして作られている。
残りの二つのうちの一つ。クウィーンだ。名前だけを聞けば女王を意味するが、本来は大臣、宰相を意味していた。冠を象ったものが有名だが、こっちでは知略的な意味を示し、本を象ったものにしてある。
最後にキング。文字通りに意味を示す。チェスの醍醐味と言えば、チェック! チェックメイト! と言葉を発するのが妙に格好いいと俺は思っている。前の世界でもこっちでも王冠を象ったものになっている。
俺はそれぞれの原画に目を通すとセブリスさんに話しかけた。
「一通り見ましたけど、良いと思いますよ。私の出身国の形を象るのじゃなく独自の形があるのもいいでしょうし。なにより、細工師がこれだと思って考えた物です。特に否定する事もないですし、分かりやすいと思います」
「そうですか、それは良かったです! 細工師の方も喜ぶでしょう! では、こっちも見てもらえますか? こっちは相手方、対戦者側の駒の原画です。セイジロウさんが教えてくれたのは、両者供に同じ形の駒を使う事ですが、対戦者側の駒の形を変えてみたらどうかと思いまして」
へぇ、それはまた面白い事を考えたな。まぁ、それはそれでありか?
そう言われてセブリスさんから対戦者側の原画も見せてもらうことになった。
対戦者側のポーンは異世界定番のゴブリンを象っていた。細部に関しては難しいようで特徴的な醜悪な顔だけが形とられている。なかなかに凝った作りだが、これを量産となるとどうなのか、疑問が残るがありだと思う。
次は対戦者側のナイトだ。見た目はワニのような顔で頭部には後ろに流れる二本の角が生えてる魔物? を象っていた。一応、一年以上は冒険者をしてるがこの魔物はまだ見たことがなかった。この象ってる姿について、セブリスさんに聞いてみた。
「セブリスさん、このナイトの駒の魔物? ですか。これはどんな魔物なんですか?」
「あぁ、これは古い書物、と言っても夢物語のような話とか噂話なんかに出てくる偶像の魔物ですね。まぁ、わりと子供の頃に興味が湧いて聞く宝の話とか冒険の話の中に出てくるんですよ。その話が書かれてる古い書物が王城に保管されてるなんて話は有名ですけど真実は分かりません。セイジロウさんは聞いた事ありませんか? 【五つの宝鍵】の話?」
んっ、なんか面白そうな話だな。良くある伝説系の話かな?
「いえ、私は無いですね。ですが、その手の話は私が居た国でもありましたよ。どこどこの山には宝が埋まってるとか、隠された暗号を解いて行くと秘密の場所には宝のあるとか」
「はい、そんな話ですよ。古い書物はいつか王様に会う機会があったら見せてもらって下さい。アハハハっ。まぁ、あればですけどね。それで、その古い書物が【五つの宝鍵】の話かは分かりませんが、実際にはまるっきり嘘とは言えないので何とも言えないんですよ」
「ほぅ、ではその【五つの宝鍵】に関する何らかの証明するものがあるわけですね?」
「はい。ローレンス帝国とアルガニウム国を境にしてる山脈は知ってますか?」
「えぇ、まだ行った事は無いですけど、地理的には知ってます」
「その山脈の一番高い頂に石碑? 実際、わたしも実物を目にした事はないんですけど、何でも解読できない文字で文章が書かれてるそうなんですよ。しかも、二つ!」
セブリスは五つの宝鍵の話をしていくうちに興が乗ってきたのか、徐々に声のトーンや身ぶり手振りが増えていった。
「一つは全く読めない文章ですが、もう一つはわたし達でも読める、とは言ってもそれなりに古い文字で現在使われてる文字の原型にあたるのではと言われて、学者の中では今でも研究されてますけど....と、話を戻しますね。そのわたし達でも読める文章に書かれていたのが【五つの宝鍵】伝説の話なんですよ。その文章にはこう書かれていたそうですよ」
"これを見つけし者よ、五つの宝鍵を探しかの地を目指せ。かの地には汝が求めるものがあるだろう"
「どうです? 知的好奇心をくすぐられませんか? かの地ってどこですかね? たどんな物があると思います? やっぱり金銀財宝ですかね!」
テーブルの対面に座るセブリスさんは、身を乗り出しながら聞いてきた。
「まっ、まぁ、ちょっと落ち着きましょうよセブリスさん」
「えっ? あっ、あぁすみません。つい、久しぶりにこの話をしたので。この話を知らない人はそういないのでセイジロウさんに話すのは楽しくて....当時、もうずいぶんと昔ですから。わたしも祖父や父から聞いた時には胸踊る気持ちで聞いていて」
「まぁ、確かに想像を掻き立てる話ですが.....文章の解読はそれだけなのですか? もう少し具体的な事が書かれていたりはしないのですか?」
「解読出来てるのはその文章だけですね。ですが、もう一つの文章には詳しく書かれていると学者達は言っていますよ。文字数が明らかに違っているらしいですから。その石碑が発見された時代は多くの探求者や研究者、冒険者がその五つの宝鍵を見つける為に各地を探し回ったそうですが.....新しい発見はされなく進展はなかったそうです。そして、年月が経つにつれて今では子供に聞かせる寝物語になったと」
「そうですか、興味をそそられる話ですが....それだけではかの地とやらを探すのは難しいですね」
「えぇ、そうですね。もう一つの文書が解読出来れば違うのでしょうが..........それでその駒の形をしてる魔物はかの地にいるかも知れない魔物を象ったと細工師は言ってましたよ。実際、誰も辿り着いたとは言われてませんが......まぁ、面白半分な感じでしょうかね。新しい遊戯の開発ですから面白味を入れたかったのでしょう」
五つの宝鍵ねぇ....まぁ、話はともかく対戦者側の駒の形を魔物の形にするのは悪くないかな。
俺はさらに細工師が考えた駒の原画を見ていった。