氷雪季とハルジオンチェス
No185
氷雪季とハルジオンチェス
フローラさんのお祖父様、前領主のエリックさんとの面会から数日後。俺は商業ギルドでセブリスさんとチェスの話をしていた。
「セブリスさん、今回はこちらからの対応に応じてもらいありがとうございます」
「いえ、セイジロウさんのお呼びとあらば.....それでチェスに関する話だとか?」
実は今回、セブリスさんとの話は前領主のエリックさんからの要望も入っていた。数日前にフローラさんと会いにいった時に何故かチェスの話が出てきた。まだ、それほど公にしていないし、話を知っているのもごく一部の人達だけなのに.....
何気なく聞いてみたが、上手くはぐらかされてしまった。
それで、チェスの話だがどうやらそれなりに興味を持っているらしく、試作が出来たら見せてほしいと頼まれた。
さらに、個人的に依頼を受けて報酬もでるらしくこうしてセブリスさんのところに相談に来たわけだ。
「実はある人がチェスに関してそれなりの関心を持っていまして、それで、個人的に依頼を受けました」
「ある人....ですか? それは、名前を明かせない、もしくは秘密という事ですか?」
セブリスさんは少し不安そうな猜疑心を見せ聞いてきた。
「別に秘密にしろとは言われてません。ただ、話しても良いのか判断に困ってます。私は、この街の住人ではないのでその方が
どれ程の影響を持っているのかが分からないのです」
「.....ちなみに、その方はハルジオンの方なんですよね? となれば、それなりに名が通ってるのでしたら大丈夫ではないでしょうか? 怪しい方じゃなければですが....」
いや、全然怪しくないですよ。だって、
「そこは大丈夫ですよ。だって、エリックさんですから」
名前だけでわかるかな?
「エリックさん....うーん、聞いた事はありますがありふれた名前ですからね。ちなみに、どちらのと伺っても?」
「えぇ、大丈夫ですよ。まぁ、一応ここだけの話にしてもらえれば。エリック・フェイ・ハルジオンです。ハルジオンの前領主ですね。身分は保証されてますから怪しくないですよ」
と、軽い笑顔で依頼主の名前をセブリスさんに伝えると、最初は反応が薄かったが次第に理解してきたのか徐々に目を見開き驚きの顔をした。
「そ、それ....なんで? どうしてそんな方がチェスの話を知ってるんですか!? まだ、巷には話は広がってませんし知っているのもわたし達を含めてごく少数ですよ?」
「なんでですかね? 私も驚きましたよ。聞いて見ましたがはぐらかされてしまいましたよ」
「前領主....まさか、あの方が興味を示すなんて。まぁ、言われてみれば分からなくはないですが....以前にも色々とそれなりに動いていていた方でしたから....ですが、今回はチェスですか....」
セブリスさんの話からするとどうやら腰が軽いらしい。
「それより、なぜセイジロウさんが前領主から依頼を受けたのかが気になりますけど?」
「ははは、ひょんな事からお会いしましてね。話の流れ的に....でしょうか。まぁ、上手く行けば前領主の後ろ楯が出来るんですから悪い話ではないでしょう?」
「それはそうですが....まぁ、分かりました。セイジロウさんが個人的に依頼を受けたのは別にこちらとしては構いませんから。では、チェスの話しに戻しましょうか」
俺とセブリスさんは用意されたお茶と焼き菓子をつまみながらチェスの製作についての話を始めていった。
「セイジロウさん、まずはチェスの形何ですが以前話された形じゃないといけないのでしょうか?」
「といいますと? セブリスさんの中では違う形にしたいと思ってるわけですか?」
「えぇ、出来ればそうしたいなと思ってるんですが....」
「別に構いませんよ。ちなみに、なぜか伺っても?」
と、俺はセブリスさんに話を聞くと、どうやら錬金術ギルドとの話し合いでどうせなら形を変えられないかとの意見が出たらしい。
チェス自体の形を変えるのは特に問題ない。一般的な定型はあるが別にこっちの世界ではこだわる必要はないだろう。
「では、私たちでオリジナルの物を作ってしまいましょうか? ルール自体は変更しませんがいくつかバリエーションがあった方がいいでしょう」
「ありがとうございます。そうですね、リバーシと同じように模倣品が出回るのも防ぎたいですし」
「とりあえず、以前話した定型のチェスは一般的な物として流通させて、それ以外をオリジナルでかんがえますか。の前に、名前も変えてしまいましょう。チェスはわたしの出身国で呼ばれていたものですし」
「えっ? それは良いんですか?」
「特に気にすることはないかと、実際にこれから考えるのは形を変えたものですし、私はこっちの大陸でチェスは見た事ないですから」
そりゃそうだ。だって、こっちの世界の人じゃないし。アハハ! まぁ、パクってるのは俺だし今更だし。著作権や特許もないからやりたい放題、やったもん勝ちだよな! クククッ!
「そっ、そうですか....なら、そうしましょう」
セブリスさんも特にした様子はないようなので名前から考えるの事にした。
それから、幾つか名前の候補が上がるがどれもシックリこなく特に奇をてらう事なく、【ハルジオンチェス】と命名した。
「....以外と悪くはないですが....どうなんでしょう?」
「....えぇ、まぁ、良いんじゃないでしょうか? セブリスさんが命名したんですから」
「えっ? セイジロウさんが決めてくれましたよね!?」
「えっ? 私はただのオブザーバーですよ? ハルジオンチェスに関してはセブリスさん主体ですから命名権もセブリスさんですし」
ふっ! 私は見てるだけ、口を出すだけですから! しかし、【ハルジオンチェス】ね。特に捻りも何もないからあれだけど、逆にインパクトがあるから有りっちゃありか?
「そっ、そんなっ! セイジロウさんも一緒に考えたんですから! わたしだけですか! ひどくないですかっ!」
セブリスさんは少し声を荒げなが言うがこれはしょうがない。しょうがないのだ。
「まぁまぁ、セブリスさん。落ち着きましょう。名前なんて定着してしまえば気にならなくなりますよ。自分が命名したから恥ずかしいだけで....」
「やっぱり、恥ずかしいんじゃないですかっ! やっぱり、名前を変えましょう! さっきの候補から選びなおしましょう!」
と、セブリスさんと少しの漫才を繰り返すがとりあえず押しきった。別に良くも悪くも無いんだし。
とりあえず、名前は決まったからオリジナルの【ハルジオンチェス】を考えていった。