三人で食事
No182
三人で食事
冒険者ギルドでフローラさんと出会い、夕食を一緒に食べることになった俺たちは久しぶりの馴染みの店にやってきた。
ルインマスの街に行くまではそれなりに良く通っていた店の扉を開けて店内へと入った。
「いらっしゃいませ! って、久しぶりじゃないのっ! セイジロウさん、やっぱり帰ってきていたのね」
店内へと入ると挨拶と同時にシーナさんから声をかけられた。
「こんばんわ、シーナさん。元気そうですね」
「セイジロウさんこそ元気そうね! さっそく、フローラと一緒にやってくるなんて! 仲が良いのねぇ!.....あら? そっち子は?」
シーナさんが俺とフローラさんの事をからかい気味に話し始めたが、リリアーナが視界に入ったのでそっちに気をとられたみたいだ。
「この子はリリアーナよ。セイジロウさんの新しい仲間。それと、話より先に席に案内人しなさいよね、シーナ」
「新しい仲間?.....あら、そうね! ようこそ、ノクティスへっ!」
と、シーナさんは仕事中だったのを思い出したかのように俺とフローラさん、リリアーナをテーブル席へと案内した。
店内を見回すとエンリさんとハンナさんと視線が合い軽く頭を下げて挨拶をしておいた。
テーブル席に付くとシーナさんが話しかけてきた。
「久しぶりで話も色々と聞きたいけど、まずは料理よねっ! ステーキとシチューがオススメだけどどうする?」
「私はそれにワインを付けてもらえますか? フローラさんはどうします?」
「わたしはシチューにグレイドレバファロのローストにワインを付けてくれる? リリアーナは何にするの?」
「わたしはセイジロウと一緒。あと、パンに果実水をつけてほしい」
「わかったわ。少しだけ待っていてね! ワインと果実水は先に持ってくるからっ!」
シーナさんは注文を受けると厨房へと向かっていった。
少ししてハンナさんがワインと果実水をテーブルに用意してくれた。
「セイジロウさん、お久しぶりですね」
「そうですね、ハンナさん。また、しばらく通わせてもらいますよ」
「はい、お待ちしてます。フローラさんとご一緒に来て下さい。それと、そちらの方は初めましてですね」
ハンナさんは、リリアーナの果実水を用意すると話しかけた。
「初めまして、セイジロウの仲間のリリアーナ。よろしく」
「わたしはハンナです。こちらこそよろしくですね。それで、リリアーナはセイジロウさんの隠し子?」
と、やはり以前と変わらずいきなり話をぶっこんで来るのは相変わらずだ。
「ハンナさん、違いますよ。リリアーナはルインマスの街に行った時に仲間になったんです。それと、先に言っておきますが私はまだ未婚ですよ」
「隠し子説は否定されましたね。よかったですね、フローラさん。これで、セイジロウさんと結ばれても大丈夫ですよ」
ハンナさんはさらにフローラさんにまで話を振った。
「ちょっ! ハ、ハンナ? 今日はやけにペースが早いのね....そろそろ、仕事に戻らなくてはいけないのじゃなくて?」
「お客さんは少ないから平気だけど、フローラさんとセイジロウさんの邪魔するのはいけないですね。とりあえず、空気は暖まりましたからわたしは戻ります。ごゆっくり」
何の空気を暖めたのか分からないがハンナさんは仕事に戻っていった。
「しばらく来ていませんでしたが、みんなが元気そうで良かったですよ」
「えぇ、そうね。セイジロウさんも元気そうで良かったわ。まずは乾杯をしましょう」
フローラさんの音頭にそって、俺たちは乾杯した。
ワインを軽く飲んでから話を始めた。
「まずは、ルインマスの街はどうだったの? 手紙には色々と書いてくれけどやっぱり直接聞いてみたいわ」
俺はルインマスの街での話を始めた。手紙に書いた内容や書ききれなかった内容を話した。話をしてる最中にエンリさんが食事をテーブルに用意してくれた。その時に軽くエンリさんと話しリリアーナを紹介した。
その後も食事をしつつルインマスの街での事や冒険者ランクアップの話もした。
そして、食事が一段落してから今度はリリアーナの話しになった。
「それで、リリアーナとはどういう経緯でセイジロウさんの仲間になったのかしら?」
フローラさんは、デザートを食べてるリリアーナをチラッと見てから聞いてきた。
まぁ、その話しになるよね.....旅の無事をキスに込めて送り出した好きな男が、久しぶりに再開したら少女を連れてきて自分の仲間だと言ってるんだから。
俺が逆の立場なら無視できない事だから同じ気持ちになるだろう。何かしらの事情があるのは分かるが聞かないという選択肢はないからな。
「リリアーナとは、ルインマスの街から少し離れた【ルインラクス】の湖近くで訓練をしてる時には出会いました。私が試行した魔法で過ってリリアーナを射撃したんです」
「わたしはセイジロウに撃ち落とされたの」
リリアーナが捕捉してくれたが特にフォローになっていないかった。より話しに具体性が出てきた感じだ。
フローラさんは少し難しい顔をしながら、聞いてきた。
「リリアーナが撃ち落とされた.....? 」
俺はフローラさんに事の顛末を説明した。フローラさんはリリアーナの話を真剣に聞いてくれた。
リリアーナの両親がすでに他界してる事、リリアーナがバードン種と人種の混血種である事。
フローラさんはリリアーナと出会ってからリリアーナを子供扱いしていなかった。同じ女性としての扱いなのか、女性冒険者としての扱いなのか、詳しくは分からないが普通に接してくれていた。
リリアーナもそれが分かっているのか、フローラさんには対等に接していた。言葉も態度もさしてかえず。
一通りの話を聞いたフローラさんはワインを飲み一呼吸したあとに話し始めた。
「事情はわかったわ。セイジロウさんが決めたのなら特に異論はないわよ」
「そうですね。確かに仲間にすると決めたのは私ですが、実際に判断したのはリリアーナなのでリリアーナの意見を尊重しますよ」
と、デザートを食べ終わり果実水を飲んでるリリアーナに顔を少し向けた。
「わたしはセイジロウに付いていく。足手まといにはならない。なるべく早く自立するの」
「自立って....リリアーナが決めたのなら別に意見言うつもりはないけど、セイジロウさんとちゃんと話し合ってからの方がいいわよ? 自立心があるのは良いけど、自分勝手な行動は慎むべきよ」
フローラさんはリリアーナの顔を見ながら話した。
「わかった、セイジロウと話をする。フローラもセイジロウと話をする」
「っ?!.....ちゃんと話をしてわよ。なぜ、そんな事を言ったのかしら?」
「フローラは他に話したい事があるはず。最初にあった時から気配が乱れていたの。わたしは気配には敏感だから分かる」
と、今度はリリアーナがフローラさんの顔をジッと見ながら話した。
大人と子供のやり取りなのに、何故か見た目通りに見えない感じで俺は二人のやり取りを聞いていた。
「最初から.....そう。リリアーナには分かってしまったのね」
「セイジロウは鈍感だから気づかないけど、同じ女性同士なら分かる。目の動きや口調、息遣い、仕草なんかで判断した。これは母様に教わった。ちなみに、父様の浮気もこれでわかる」
へぇ、リリアーナのお母さんはずいぶんと芸達者なんだな。って、おいっ! 浮気がバレたって.....お父さんは何してるんだよっ!
「それは凄いわね.....リリアーナ、良かったら今度詳しく話を聞かせてくれないかしら? それに、女性同士いろいろ話もしたいしね!」
と、フローラさんは軽くウィンクをしながら、リリアーナに話した。
「わかった。わたしもフローラとは話をしたいと思ってた」
リリアーナも軽い感じの笑顔を見せながら応えた。二人のやりとりはまるで同年代の友人達がする会話光景に見えた。互いが仲良く話をしてる姿は少し嬉しかった。
「それで、セイジロウさん。さっきリリアーナも言っていたけど、実は話したい事があったのよ」
と、リリアーナとの会話が一区切りしたとこでフローラさんが俺に話しかけてきた。
「はい。なんでしょうか?」
と、俺は少しだけ身構えてフローラさんの話を聞く態勢になった。