知らぬ間に結婚
No178
知らぬ間に結婚
翌日、目を覚ますと身支度を整えて宿の食堂へと向かった。食堂はそれなりに人で埋まっていた。俺は、空いてるテーブル席に座りリリアーナが起きてくるのを待った。
少しの間、ボケッとしてると対面にリリアーナが座ってきた。
「リリアーナ、おはよう。昨夜は寝れたかい?」
「うーん、あまり寝れなかったけど大丈夫」
「街が変わったから寝つきが悪かったのかな? もし体調が悪くなったりしたらすぐに言ってね。それじゃ、朝食を頼もうか」
リリアーナが揃ったので食堂にいる女性給仕に頼んで朝食を用意してもらった。
朝食はルインマスの"餌付け亭" とは違い、ベーコン数枚とサラダ、スープにパンのごく普通な朝食だった。
俺とリリアーナは朝食を食べると部屋に戻り身支度を整えて宿を出た。
宿を出てマダラを影の中から出してメイン通りを歩いていく。歩きながら目についた露店で買い溜めしつつ友人の店へと向かった。
「リリアーナ、今から向かうのはハルジオンでお世話になった人の店だよ。ちょっと頑固なお爺ちゃんだけど根は優しいから安心してね」
「わかった。セイジロウが言うなら大丈夫」
しばらくして見知った店に着くと扉を開けて中に入った。ちなみに、マダラには影の中に入ってもらってる。
「こんにちわー!」
「おう!.....って、セイジロウじゃねぇか! 久しぶりじゃなっ! 元気にしていたか!?」
「はい。お久しぶりですね、ラム爺。ハルジオンの街に帰ってきましたよ」
「ほぅ、しばらく見ない間に冒険者らしい顔になったじゃねえか! んっ? そっちの嬢ちゃんは初めてじゃな」
「えぇ、私の新しい仲間ですよ。今日はその挨拶も兼ねてやって来ました」
「リリアーナ、よろしく」
と、リリアーナは軽く頭を下げてから俺の後ろに体を隠した。
「おう! ラム爺って呼びな! って、隠れちまったな.....まだ、幼く見えるがセイジロウの仲間じゃと?」
「えぇ、ルインマスの街で知り合い、事情を聞いて仲間にしました。この子はバードン種の混血です。母親が人種だそうです」
俺は、少し突っ込んだ話をラム爺に話した。
ラム爺は俺の言葉を聞いて驚きの顔を見せた。
「っ!!......混血とはな.....それなりに事情があるんじゃな」
「はい、事情は察してもらうか、追々話していきます。今は、私の仲間としての紹介ですね。もし、困ってるような事があれば気にかけてくれると助かります」
「ふむ。いいじゃろ! ワシで良ければ力になろう!」
と、ラム爺は快く承諾してくれた。
「して、セイジロウはしばらくの間はハルジオンにいるんじゃな?」
「えぇ、そのつもりです。なにかあるんですか?」
「あぁ、以前ハルジオンにいるときにリバーシをつくったじゃろ? あれが思った以上に人気が出てのぅ。一度、商業ギルドに顔を出してほしい事を言われたんじゃよ」
去年の氷雪季に金策で作ったリバーシが? まぁ、人気が出るのは良いことだけど......
「分かりました。近いうちに商業ギルドに行ってみます。他には何かありますか?」
「いや、あとはないぞ」
「では、暇をみて来ますね」
と、ラム爺の店をあとにした。
俺とマダラ、リリアーナはメイン通りを歩きつつハルジオンで世話になった人や顔見知りと挨拶を交わしていった。
陽が傾き始めた頃に冒険者ギルドの食事処へとやってきた。
「ビルドさん、夕食を食べに来ましたよ」
「おぅ、セイジロウ! それにリリアーナにマダラもっ! とりあえず、マダラがいるから隅の方に座ってくれや」
以前、ハルジオンに居たときと同じ場所にマダラは寝転がりその近くのテーブル席に俺とリリアーナは腰かけた。
ビルドさんにはフライドポテトにピザ、ステーキ肉にスープなどを注文してそれらがくるまでリリアーナと話をした。
「リリアーナ、今日行ったお店が私の友人達だから何か困ったことや助けてほしい時は頼るといいよ」
「わかった、ありがとうセイジロウ」
「もし、俺やマダラに万が一があった場合はだからね。そうじゃない限りは俺やマダラを頼ってくれて良いから」
「セイジロウに感謝。でも、わたしも頼ってばかりじゃダメだからちゃんとする」
と、十歳前後の見た目から少し大人びた言葉がリリアーナから聞こえた。
見た目に反してリリアーナはDランク冒険者だ。ハルジオンの冒険者ギルドで一緒に依頼を受けたが実力もそれなりにある。甘やかし過ぎるのもどうかと思い、
「わかった。リリアーナのできる範囲でやってみると良いよ。でも仲間だから無茶はダメだから」
「わかった、ありがとう」
と、話の区切りが良いところで頼んだ料理がテーブルに用意された。
「いらっしゃいませ」
初めてみる顔の女性店員が料理を運んできて......
「セイジロウさん、ですよね? わたしの事を覚えてますか?」
「えっ?」
料理を運んできてくれた女性が話しかけてきけど、俺には見覚えがな....い...?
いや、どこかで見た感じがする。が、ハッキリとどこかまでは思い出せなかった。でも、この声には覚えがあった。
「えっと、すみません。ハッキリとは思い出せないんのですが.....どこかでお会いしてますよね?」
「はい、以前盗賊から助けていただきました。カーディルのメンバーと一緒に」
あっ! 思い出した。確かシーバル遺跡調査の時に盗賊から助け出した女性だ。でも、なんでここに?
「はい、思い出しました。遺跡調査の時の女性ですね? ミレアーナさんでしたか?」
「はい、そうです。改めてあの時はありがとうございました。ちゃんとお礼が言えて良かったです」
「いえ、あれは成り行きですから。ですが、その大丈夫なんですか? ここは冒険者ギルドとはいえ、食事処には冒険者がたくさんきます。ミレアーナさんの内情じゃ精神的にかなりの負担になるのでは?」
ミレアーナさんは、盗賊に襲われた経験がある。そんなミレアーナさんが冒険者ギルドの食事処で働くなんて.....
「はい、最初は精神的に苦痛を感じる毎日でしたが、カーディルのガッソさんが気にかけてくれたんです。それから毎日のようにガッソさんがわたしの心配をしてくれて......実は先日、ガッソさんと結婚したんです」
はっ? ガッソさんがミレアーナさんを? なぜに? まぁ、それはそれで気になるがガッソさんと結婚って......俺がいない間にそんな事になってるなんて。
「また、それは.....まずは、おめでとうございます。わたしが街を離れてる間の事なので事情は分かりませんが、ミレアーナさんが元気そうでなによりです」
「ありがとうございます。わたしがこうして話せるのも働けているのも、セイジロウさんが助けてくれたおかげです。本当にありがとうございます」
「いえ、わたしは本当に成り行きで助けただけです。このように元気な姿になったのはミレアーナさんの努力とガッソさんの献身的な愛情があったからです。これからは、二人でたくさんの幸せを手に入れて下さい」
と、帰ってきて早々に驚いた。まさか、知り合いの冒険者が結婚していたなんて....
挨拶を済ませたミレアーナさんは給仕に戻り、今まで大人しく話を聞いていたリリアーナとおあずけをくらってるマダラ達に食事を食べるよういった。
しばらくすると食事処も冒険者達で混み始め、マダラと俺を知っている冒険者達は久しぶりの挨拶をしつつ、マダラにも挨拶をしていた。そして、一緒のテーブルで食事をするリリアーナを見て、軽くからかわれたり隠し子かと大袈裟に騒ぐ冒険者達もいたがそんな冒険者達はマダラの一鳴きで静かになった。
「セイジロウさんっ! 久しぶり!」
「セイジロウさん、かえってきたんですね!」
と、少し暇になった時にリーナさんとエリナさんがテーブル席にやってきた。
「お二人とも久しぶりですね。元気そうでなによりですよ」
「セイジロウさんも元気そうで! マダラちゃんもね! それから、そっちの子は....」
「紹介が遅れたね。新しい仲間のリリアーナだよ」
「リリアーナ、よろしく」
と、相変わらず人見知り気質で端的な挨拶をした。
「よろしく、リリアーナちゃん。わたしはリーナだよ!」
「よろしく、リリアーナちゃん。わたしはエリナです」
と、近所の子供に挨拶をするかのようにりさんとエリナさんはリリアーナに挨拶をした。
「初めてのハルジオンの街だから仲良くしてあげてよ。ちなみに、リリアーナはDランク冒険者だからそれなりの実力はあるからね」
「「えっ!?」」
リーナさんとエリナさんは驚きの顔をして改めてリリアーナの顔を見た。
リリアーナは少し誇らしげな顔をしつつも、食事をしている。
「そっ、そうなんだ.....(ちっちゃくて可愛いのにすでに一人前の冒険者なんだ)」
「リリアーナちゃんが....(えー、こんなちっちゃくて可愛いのにDランク冒険者なの? それより、なんでセイジロウさんと一緒に? やっぱりチラッと聞こえたけどセイジロウさんの隠し子なのかな?)」
二人の心の内は分からないが少しの間、リリアーナと話してから給仕に戻っていった。
俺とリリアーナ、マダラはそれなりに食事をした後はビルドさん達に挨拶をしてから宿に戻った。
宿に戻ってからは今日一番驚いた、ミレアーナさんとガッソさんの結婚に少し羨ましさを感じるつつもすぐに眠りについた。
いいなぁ、結婚......ガッソさんに後でどんな風にミレアーナさんを射止めたのか聞いてみようかな....